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第七話 「絶望、そして希望」



 一頻(ひとしき)り、復讐の余韻に浸っていた志賀であったが、天井の通気口の穴を見ると鉤縄を取り出す。彼にとって、ここで自分が倒れて死ぬことなど、些事に過ぎなかった。しかし、偽造した皇国の国民証明章をはじめとする密入国の証拠が見付かるのは問題である。

 これが発覚してしまうと協力者である高橋は問答無用で処刑されてしまうのだ。高橋に多大な恩義を感じている志賀にとって暗殺に成功したにも拘わらず彼を見捨てると言うのは死んでも許されないことであった。


(……ただ、この出血量じゃあ)


 志賀は既にこの敷地の外部に逃亡することは諦めていた。せめて残りの時間で証拠を隠し、高橋が国外へ逃亡できるまでの時間を稼ごうとする。

通気口に身を隠し、この悪趣味な『城』と共に運命を共にしよう。そう思いながら、志賀は鉤縄を通気口の端に掛けた。


 ――その直後であった。


 ――ズガァン!


 突然の銃声――。それと共に、志賀の身体が崩れ落ちる。一瞬の出来事で彼は何が起きたのか理解できなかった。恐る恐る衝撃のあった部分を確認すると――。


「――あああああぁぁぁぁぁ!!!」


 激痛――。彼の右脚は大きく抉れており、鮮血が吹き出す。床をのたうち回る志賀は、それでも攻撃の方向を確認しようとする。――そこには信じられないものがあった。


(そ、そんな……。そんな馬鹿な!?)


 ――つい先程、志賀が突き殺した筈の利根が血塗れの帽子を被り直し、ゆらりと上半身を起こしていた。


「……あ~ァ。折角、骨のありそうな奴が来たから『回収』してやろうとでも思ッたンだがなァ」


 利根はまるで先程のことが何もなかったかのようにおもむろに立ち上がると、自身の上着の中に手を突っ込む。そして、何かを取り出した。


 ――それは、革袋に詰められた生温かい血液であった。


(まさか……そんな……)


 志賀はその光景に愕然とする。血が吹き出したのも、事切れたように見えたのも、全て偽装されたものであったのだ。


「あンなに高笑いされちャあなァ。こッちも黙ッてるワケにはいかねェんだよォ!!!」


 志賀は利根に蹴り飛ばされ、壁に叩き付けられる。先の戦闘中に利根が蹴り飛ばした机の残骸の上に落下する。全身に木片が刺さり、更なる激痛を生む。


「テメェは『支配』なンてしてやるかよ。ここで死ね!」


 利根は侮蔑と屈辱が合わさったような表情で志賀の身体を何度も踏み潰す。意識を失うことすら許されず、その足が志賀を踏みつける度に肉が潰れ、骨が砕ける音がする。

 そして、志賀が動かなくなったことに満足した利根は彼の髪の毛を掴み、無理矢理顔を持ち上げる。その反対側の手には折られた銀の穂先が握られていた。


「しッかしまァ、何でこンなモンで殺せると思ッたンだァ? どッかから吹き込まれたのかなァ」


 利根が志賀を嘲るように言う。無言で虚空を見つめる少年を見て正解だと確信した利根は面白い道化を見たように嘲笑う。


「ヒャハハハ!!! それにしても、コリャ『銀』かァ? 銀を心臓に一突きで死ぬゥ!? 『()()()西()()』にあった御伽噺(おとぎばなし)の吸血鬼かよ!!」


 志賀の髪すら放して利根は腹を抱えて大笑いする。志賀は自分の人生の大半で賭けてきた技術が無意味なものであったという事実に絶望し、心は粉々に砕かれた。


――志賀自身もおかしいとは思っていた。何故只人のいかなる兵器による攻撃をも無力化する魔獣を斃せる唯一の存在である神人がただの金属で作られた杭程度で死ぬのだろうかと。

 それでも彼はそれに縋る他なかった。冷え切った心を燃やすためにはどうしても『怨敵である神人を殺すことができる』という復讐の『(たきぎ)』が必要であったのだ。


「まァ、鉄砲玉にしろ何にしろ、――オマエ、『()()』だったなァ」


 利根はそう言い放ちながら銀の穂先を放り投げ、再び志賀の髪を掴み上げる。その面に残弾が僅かになった古式銃を突き付け、止めを刺そうとした。だが、その直前で怪訝な表情で固まる。


「――なァ、何でオマエこれから死ぬッてのにそんなに嬉しそうなンだ?」


 ――不幸。それは、志賀が最も求めていた言葉であった。



『お友達の仕事を代わってあげたから助かったんですって。凄い『幸運』ね』

『私の家族は助からなかったけど、君が『幸運』にも救われて良かったよ』

『あの流行病の中で君が生き残れるなんてなんて『幸運』なことだろう』



 ――『幸運』。彼の人生の中でその言葉を聞く時は、いつも親しい誰かが死んだ後であった。家族や町の人々は大火で、次に迎え入れてくれた所は魔獣災害で、その次は流行病で――。

 彼の人生は親しい人が次々と亡くなる不運の連続であった。それにも拘わらず彼に残ったものは自分だけが生き残った『幸運』という評のみなのだ。いつしか、彼の中では『幸運』と言う言葉は呪いとなっていた。


(――やっと、俺は『不幸』になれたんだな)


 しかし、その呪いも彼の死をもってようやく解ける。最期に思い浮かんだのは必死に復讐を止めようとした真っ白な少女であった。

 あの少女も神人である。きっと志賀がこうなってしまうことを予見していたのだろう。

 志賀は死を受け入れ、ゆっくりと目を閉じる。願わくば、せめてあの少女だけは生き延びて欲しい。そう祈りながら――。




 ――その時であった。彼等がいる会長室の窓が轟音と共に砕け散る。室内へと飛び込んできた砲弾のような物は床で跳弾し、正確に利根の脇腹へと突き刺さる。


「ぐうォッほォ!!!?」


 演技ではない。明らかに『効いている』その攻撃に利根は錐揉み状態になりながら吹き飛び、壁に叩き付けられる。

 志賀は静かに眠らせてくれと思いつつも再びゆっくりと目を開き、飛んできたと思われる物体を確認する。


 ――それは、純白の少女であった。



「――待たせたね! さぁ、お仕置きの時間だ!」


 その白髪は月光を浴び、青白く輝く。その姿は、まるで絶望の闇を切り裂く救世の光のようであった――。





神人や魔獣に対する物理法則は、現実世界に『攻撃が一切通らないNPCキャラクター』が存在しているというイメージに近いです。

只人が攻撃をしようとしても手応えなく滑り落ちたり、時にはそのまま身体をすり抜けてしまいます。

また、生き埋めなどで力ずくに封じようとしても、神人の力による拘束でない限り、まるでバグのような挙動で安全圏へと押し戻されてしまいます。

そのため、地下に魔獣や神人を封印する際には解放と同時に地上に押し出されるなんてことがないように、強固な迷宮を築き封印が破られた際の時間稼ぎを図る必要があります。

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