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第四話 「坂郎会」


 雪風 志賀は坂郎(ばんろう)会の拠点の塀の中へと侵入していた。宮が派手に罠に掛かり、警備が厳しくなったとしても彼には勝算があった。

 志賀は鞄の中から小さな筒を取り出す。筒の釦を押すと小気味良い音を立てて筒が伸びて棒となる。罠の警戒用に用意した特注品だ。


(ギリギリ手品道具として通るかな……)


 彼の鞄に入っている暗殺道具は殆どが日用品か趣味で持っていても違和感がない物となっている。仮に途中で取り上げられても問題になることは少ない。故に簡単に代替できるようにするため、元から特殊な機能を付けている物は殆ど存在しない。しかし、この伸縮棒に関しては携帯性と『城』の攻略に必要なことから重要視している。


(この辺か――)


 志賀は地面に伏せて伸縮棒を薙ぐ。すると轟音を立てて近くの壁が破壊される。砲弾が発射されたのだ。


「何だ!?」

「罠に掛かったぞー!」


 坂郎会の構成員達が慌ただしく侵入者を捜索しているが、罠を起動させないように動いているためかどこか動きがぎこちない。

 志賀は宮が罠に掛かったことにも動じなかった。むしろ、派手に警戒網を攪乱させるのは、元々の狙い通りだ。元々罠を派手に起動させて騒ぎを起こすことが目的であったからだ。


(……そろそろだな)


 志賀は坂郎会側が侵入者を見付けるために監視映写機の隅々まで血眼になって探しているはずだと考え、次の一手を仕掛ける。靴底に隠した小型の端末を手に取り、起動する。


「『監視眼』の映像が途切れました!」

「なぁ~にぃ~!? それでは侵入者の姿もわからんのか!」


 志賀の持つ真鐵国製の電波妨害機だ。あくまでも志賀の協力者達が作ってくれた物であり、軍用ほど優れている訳ではない。

 しかし、大して真鐵国の技術力も知らず、神倭皇国の田舎に溢れる程度の技術力をありがたがって使っている坂郎会に対しては絶大な効果を発揮する。


「クソッ! 旧式の設備はないのか!」


(無駄なんだよなぁ……)


 志賀が再び端末を操作すると、バチンッ! と大きな音がして悪趣味に輝いていた庭園が真っ暗になる。志賀の前に潜入していた技術者が予めこの敷地内の電力制御を掌握していたのだ。真鐵国製でもなければ、ましてや市販レベルの機材では、外部から制御系への介入を防ぐには力不足だ。

 同時に一部の電線を爆破し、電線破断による停電と誤認させ、復旧を更に遅らせる。


「うわぁ!? 何だぁ!?」

「落ち着け! 同士討ちを避けろ!」


(下手に暗いままにしておくと本当に仲間同士で殺し合いしかねないな……)


 志賀はそう思いつつ手元の端末を複雑に操り、庭園の一部の照明を遠隔起動する。散り散りになっていた構成員達が街灯に集まる蟲のように次々と集まり、侵入者に警戒する。


 その様子をほくそ笑みながら志賀はついに首領が居る『城内』へと侵入する。


「安心しなよ。お前達に用はないんだ」


 志賀の標的はあくまでも首領ただ一人であった。



 ◇◇◇◇◆



 志賀は埃まみれの通気口を通る。非常用電気が点灯し、やや薄暗いながらも廊下には光がある。


(……不自然だ)


 彼は『城内』の様子がおかしいことに気付く。――庭園での喧噪が嘘のように静かなのだ。


(全員外に出たのか? そんな馬鹿なことあるか?)


 一瞬、危険を察知した上層部はさっさと外部へ脱出してしまい、『城』の中は既に蛻の殻――。と言う考えも頭によぎったが、首領の利根は自尊心が異常に高いという情報から、敵前逃亡などする訳がないと否定する。


(じゃあ何でだ? 罠か?)


 目的地まで這って移動した志賀は通気口外に埃を落とさないように慎重に服の埃を取り、手持ちの赤外線撮影可能な写真機で脱出先に誰も居ないことを確認して通気口の外へ出る。


(凄い静かだ……)


 足音や扉を開ける音を立てないように慎重に行動する。部屋の中が暗いため、廊下に構成員達が出てきている可能性も考えたが異常な静けさである。


(しかし、まぁ、ここまで同じ造りにするとは……)


 志賀がここまで極端に順調に進んでこられたのは坂郎会が真鐵国支部を作ろうとしていた時の拠点の設計図面を入手することができたからであった。神倭皇国自体にも坂郎会を滅ぼすための協力者が存在し、一部の罠の位置等は共有されていた。

 その際に『城』や罠の構造が真鐵国支部のものと極端に酷似していたのだ。その情報を元に、志賀は恐ろしい罠の数々を易々と突破し侵入することができたのであった。


(情報提供してくれた人は情報渡してくれた後にすぐ命を絶ったんだよな……)


 坂郎会は裏切り者を許さない。それは例え利根の洗脳を受ける程の役職でない者であっても同様である。激しい拷問の末、情報を外部に漏らしたことが発覚しようものならばその時点で坂郎会を滅ぼす夢は潰えるのだ。

 そのため、情報提供者は『坂郎会の中の生活に耐えきれず、外へと逃げ出したが、追っ手に拷問されることを恐れて自殺した』という物語が必要となったのだ。その後、その情報提供者の屍体は坂郎会に回収され、全身を細切れにされた挙げ句、その首を朽ち果てるまで門前に晒されていたのだという。


(……この犠牲のためにも俺が全てを終わらせるんだ!)


 志賀はそう改めて決意する。しかし、彼は情報提供者の指し示した進路とは別の道を通る。最後まで情報が漏れていることを警戒しているのだ。


「ん……?」


 しばらく誰もいない廊下を通っていると一人の構成員の男が座り込んでいた。よく見ると頭を抱えて震えているようであった。志賀は速やかに近付き頭を押さえ、声を出させないように拘束する。


「――動くな。お前は何者だ」


 志賀は小刀を首筋に当てる。大声を出そうとしたら即座に殺せるようにだ。


「――ち、違うんだ。俺じゃない! 俺じゃ……でも俺が……ああぁぁ……」


 様子がおかしいその男に志賀は顔を顰める。突然の停電に恐怖でも感じたのか。それにしては怯え方が不自然であった。


「――殺したんだ……俺が……直接……。あの……老夫婦を……! あの……少年を……!」

「――落ち着け、何があった?」


 志賀は罠の可能性を警戒し、周囲を確認する。しかし、何も起こる気配はない。男は勝手に続きを吐き出す。


「――『築石(つくいし)国』の役人の女を騙して殺した……。『深越(みこし)国』の警官の男をなぶり殺した……。み、皆……俺が……!」


 男は焦点の定まらない目で虚空を見つめるが不意に志賀の方を振り向く。その憔悴しきった目からは止めどなく涙が溢れていた。


「――き、君は……ここの人じゃないね……? う、う、恨みが……あるのだろう……?」

「――……そうだ」


 志賀は気味の悪さを感じつつ目の前にいる人間が坂郎会の構成員であることと、その男が何らかの原因で罪を自覚していると言うことを悟った。

 ――利根は他者を洗脳することができるのである。罪を自覚するどころか喜んで人を殺し回る人間にすることなど造作もないはずであった。


(……なのに、どうして? 奴の術が解けることなどあるのか? 何かが起きている……?)


 志賀がそう思案していると男は俯き続けて話す。


「――……。君達には俺達を殺す権利がある。この首で済むのであれば落として先に行ってくれ……」


 男は覚悟をしたように頭を垂れる。その様子に志賀は苛立つ。


「――馬鹿か。俺の目的は後にも先にも首領ただ一人だ。勝手に反省している間抜けに構っている暇なんざないんだよ。」


 男はその言葉を聞いて喜ぶどころか更に憔悴する。そして、消え入りそうな声でぽつりと呟く。


「――利根は最上階の東の部屋だ」


 その言葉を聞いた志賀は呆れたように目を細めて言う。



「――知ってる。その情報が罠ではないことを祈るよ」




神倭皇国「うわっ……私の技術力、低すぎ……?」

真鐵国 「ウチは首都一極集中で、それ以外は熱帯雨林と砂漠と山しかないから高いだけだよ」



◆世界観に合わせて解りにくくなってしまった用語解説コーナー◆


写真機

所謂カメラ。志賀の所持している物はその中でもデジタルカメラに相当する技術。

性能は国によって異なるが、技術上位国では、現実の現代技術よりもやや上の水準にある。

値段に関しては現実世界と比べるとかなり手頃であり、特に葦野国が市場シェアを握っている。

ただし、これはカメラに限らず、各国はやんわりと鎖国状態なので他国の技術は入って来にくく、技術格差が大きい。

透明なチューブの中を車が走っている国もあればいまだに人力車が現役の国も存在する。

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