表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

第三話 国家認証

日本──首都・東京。内閣府地下の特別会議室。

重厚な扉が閉じられたその部屋には、限られた者しか入ることを許されていない。


「……米国政府、非公式ながらも“大公領”との接触に向けた部隊を編成したとの情報があります」


一人の男が低い声で報告した。眼鏡越しの鋭い視線が、卓上の資料に走る。


「ロシアも動いている。あの“大地”を技術的に制圧できるかどうか、空路での観測を続けているそうだ」


「中国も黙っていない。 確実に接触を試みるでしょう」


木村誠司は、深く息を吐いた。


「……予想以上に早いな。世界はもう、“新しい大陸”を資源と軍事の両面で計算に入れ始めている」


日本政府はすでに動いていた。

表向きは“平和的対話の継続”。だがその裏で、他国に先んじて“大公領との正式な外交関係を樹立する”ための根回しが進められている。


しかし──


「一つ、問題があります」


秘書官の一人が手元の端末を見ながら言った。


「国際社会において“大公領”を“国家”と認定するためには、一定の条件が必要です」


「……主権、国民、領土。つまり、従来の国際法上の国家要件だな」


「はい。大公領は現在、国連における“未確認存在”。どの国にも属さず、また、どの条約にも参加していない。そのため、このままでは“独立国家”とは認められません」


「つまり、どこかが“最初の承認”をしなければ、他国も動けない」


木村は目を閉じた。


「……我々がその最初の“窓口”になるしかない、ということか」


その時、通信が入った。表示された名は──三枝 成真。


木村はすぐに通話を受けた。


『木村さん。時間を取ってもらえますか。少々、動きがありまして』


同時刻。大公城──執務室。


窓の外には、薄く霧がかかる夜の大公領が広がっていた。


文官が一枚の書簡を差し出す。


「……海を越えて、使節団がまいりました」


「どこの国だ?」


「ロシアです。正式な国章を掲げていますが……どうやら“独立外交の建前”で動いている様子。代表は軍属上がりの男。言葉を選ばぬ者と聞いております」


「威圧か……」


俺はゆっくりと椅子から立ち上がった。


「よかろう。ならばこちらも、力の格を示してやるだけだ」


文官が一礼し、退出する。


──“大公領”という存在は、もはや“国際的な均衡の外側”にある。

それゆえに、世界は恐れ、そして奪おうとする。


その夜。

大公城の会議室には、また別の者たちが集っていた。騎士団の筆頭、情報部の副官、そして法務を司る側近たち。


「閣下、我らがこの地で“国家”として立つならば、体制を整える必要があります。軍、法、外交、経済、そして教育……この世界に通じる“制度”を、」


「分かっている」


俺は、地図の上に手を置いた。


そして翌日。世界中のニュースに速報が流れる。


──「新たな存在、“大公領”が国際舞台に現る」

「日本政府が独自に“大公領”との外交関係を確立」「ロシア、使節団を派遣」「アメリカ、衛星監視を強化──次なる一手は?」

大公の名が、世界に刻まれ始めていた。


場所はニューヨーク、国際連合本部。総会議場に各国代表が一堂に会する異例の招集がかけられたのは、“大公領”の存在が世界中に報道された翌日のことだった。


議題はただ一つ。


──「新たに出現した異界の領域“大公領”を、主権国家として承認するか否か」。


壇上、国連事務総長が緊張した面持ちで開会を宣言する。


「各国代表に通告する。この会議は、地球上に突如出現した“新勢力”──“大公領”が、国際秩序に与える影響を考慮し、国家承認の是非を討議するものである」


場内にざわめきが広がる。


最初に発言権を得たのは、アメリカ代表。スーツ姿の男が鋭い声で言い放つ。


「この“大公”と称する人物は、明確に武力を持ち、かつ既存の技術体系を超えた能力を行使している。現時点で彼らの意図は明らかではなく、“国家”として承認するには時期尚早だと考える」


次に発言したのはロシア代表。

低い声で、意外にも冷静に言葉を継いだ。


「……我々は、力の保有そのものを否定する立場にはない。問題は、それが制御可能かどうかだ。“交渉が成立する存在”であるならば、国家として扱う意義もある」


中国代表は慎重な姿勢を崩さず、こう述べる。


「現時点では、異界からの侵略とも見なしうる。だが、日本が外交交渉に成功した事実がある以上、今は観察の段階とするべき。承認は拙速だ」


各国の駆け引きが飛び交う中、日本の代表──外務副大臣がゆっくりと立ち上がる。


「我が国は、大公閣下と正式に対話を持ちました。彼は明確に“民を守る”という理念を持ち、他国への侵略の意図を否定しています。また、既に自治と防衛の意思を示し、安定した統治機構を維持しています」


「つまり、日本は“国家承認”に前向きだと?」


アメリカ代表が皮肉交じりに問いかける。


副大臣は一瞬黙り──やがて、力強く頷いた。


「はい。大公領は既に一つの文明圏であり、意思ある“統治体”。我が国は、これを“準国家”として認め、必要な外交体制を築く準備があります」


再び場内が騒然とする。


会場の後方、傍聴席で三枝成真は静かにその様子を見つめていた。

傍らの補佐官が耳打ちする。


「……このままだと、否決される可能性もあります。アメリカが“危険勢力”の印象を与え続けています」


「世界が“大公”という存在を恐れている証拠だ」


三枝は目を細めた。


「──だが、恐れは時に敬意にも変わる。あの男なら、それを利用するだろう」


議場。再び事務総長が前に出る。


「全会一致での承認は、現段階では得られません。よって、“国際的観察対象としての特別枠”──いわば“暫定国家”としての立場を認めることを提案します」


各国代表がそれぞれ同意の意思を示す。

やがて──


「決議案“第7769号”:大公領を、異常空間に由来する新たな自治国家とみなし、今後の監視と対話を通じて、正式な国際承認の検討対象とする──採択」


拍手はなかった。


ただ、世界が「異界の国家」を“現実”として受け入れた瞬間だった。


その頃、大公城。文官が報告書を持ち、俺の前に進み出た。


「閣下。国連より、正式に“大公領”が“暫定国家”として登録された旨の通達が届きました」


俺は静かに目を閉じ、椅子にもたれた。


「こらからより他国の接触が増えるだろう。 我々がより優位に立つ為に動かねばならん」

面白い!続きが気になるという方は感想、レビューよろしくお願いします(∩´∀`@)⊃

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ