96 田舎者
リュウコ達は、これから目指す街に対して完全無知でいるわけではない。
向かっている街は『冒険者の街』と呼ばれ、王国内で最も冒険者の水準が高い。
帝国や魔境に面していて、北大陸で五本の指に入るくらい。
そんな街で、冒険者として活動して、金を稼ぐ。
ついでに、高位魔物と戦って経験値を積む。
装備なんかも、まだまだ発展途上。
女子三人に言ったらどんな反応が来るか分からないため言えないが、できるだけ人と交流し人脈の形成も目的の一つだ。
「有名なS級冒険者とかもいるのよね。」
「そういえば、結局俺はB級だっけ?エリサは?」
「……たぶんE級のまま。」
「えー、エリサさんE級なんだ。意外ぃ。ぷぷぷ」
小バカにしてくるサティとエリサがバチバチと睨み合う。
リュウコの記憶も少しだけ明確に戻ってくる。
「結局、信頼系の依頼を受けなかったからだったっけ。」
受付嬢との会話だとか、妙なカードを貰ったこととか。そういうことを思い出しつつ、当時使っていた魔法についても思い出す。
「『魔星』」
リュウコの重宝していた魔法、ミリの扱う『サテライト』のように、衛星的に魔法を扱える便利なもの。
こういう風に、記憶の定着と同時に昔の技術も思い出している。
「ぁー」
そして思い出したのは、仲良くしていた受付嬢の一人。
そもそも、受付嬢が戦闘員のような扱いを受けているのも驚いたし、ずいぶんと印象的だった。
けど、こんな話題を出したらエリサ含め他二人もちゃんと機嫌が悪くなりそうなので、なにも言わない。
男女比の偏りが露骨に肩身の狭さに直結していることを実感しながら、リュウコは異世界初の諦めを感じていた。
「いろんな冒険者のパーティがあるらしいけど、リューたちのパーティってどんな名前なの?」
「「え」」
「え?」
何気ない質問が、空気にヒビを入れる。
というほどではないが、しかし空気は少しだけ固まった。
エリサとリュウコは互いに目を合わせ、逸らし、また合わせて。
とにかく視線が右往左往してから、ほぼ同時にサティの目を見た。
「「名前なんて無いッ!」」
5人~10人ほど、最低でも4人とかであれば、パーティに名前を付けることにも意味があるのだろう。
しかし、2人っきりだった冒険者の時に、2人だけのパーティ名など、考えにも浮かばなかった。
「私達も冒険者になって、2人と同じパーティになるんだし、パーティ名決めとこうよ!」
「……すごくいいと思う。」
サティのアイディアに、ミリも賛同する。
まだまだ街に着くまであるが、こうやって暇をつぶすのも悪くないのかもしれない。
あれやこれやと案が出ては、情報通なミリによってダブりを指摘されたり、気難しいエリサによって却下されたりと、時間が短くなるくらいに話し合いは盛り上がった。
結局のところ、いくつかの候補が絞られただけで決定はせず、その日は野営地を決めて就寝。
暖兼獣避けの焚火を見ながら、見張り訳のリュウコは、長く感じる時間にぼーっと虚空を見つめる。
「パーティ名かぁ」
話し合いで、リュウコは一つも案を出せなかった。思いつくもの端から全部却下されたとかではなく、強いデジャヴに襲われて、話を聞くことしかできなかったから。
「なんだっけ……ナントカの……」
もはやヒントは接続詞が『の』であることしか分からないほど、曖昧な記憶。
それ以上の情報は何もないような、喉の根本を掴まれているような違和感。
「ガイド……お前は何か知ってるのかな。」
今はもう何もついていない左腕を見ながらその答えを考えているうちに、夜は過ぎ朝陽が昇り始めていた。
◇◆◇
「アレが目的地?」
「いや、その一番近くの中継地点街だ。」
魔物の存在によって、現代日本ほどの土地開発が進んでいない。
街を作り、強い人間によって守られていないと、まともな発展はありえない。
だからこそ、大きな街の少し離れたところに、小さな町を作っておく。
遠目に見えているのは、目的の冒険者の街の近くの街。
その証拠に、その更に向こうに、遠近の問題で近くの街と同じ大きさに見える大きな街が見えている。
「じゃあ、あそこは素通り?」
「一応冒険者ギルドもあるらしいし、登録とパーティ申請だけでもしておく?」
「おー!するする!」
ということで、また1時間ほど歩いてその周辺街に到着。
冒険者の街の周りということもあって、それなりに賑やかで強そうなやつがちらほら見える。
「見て見てリュー!この剣カッコイイ!」
「こ、この本、見たことが無い魔法が載ってる……」
都会に慣れていない田舎者二人、そもそもここはそこまで都会ではないが、村社会でしか生きてこなかった二人にとって、大きな街というのはまあ初めてのことで、テンションが上がって仕方ないのだろう。
そんな二人を、少し離れたところで見守っている気持ち年寄り二人。
なつかしさと、出会いからこれまでのことを思い出しながら、ノスタルジーに浸っている。
「今、お金いくらくらい持ってる?」
「そんなに持ってない。そもそも村の生活の時、お金とか必要じゃなかったから。」
ほぼ自給自足で完結していた生活だったため、貯金も何もない二人は、ある程度必需品を買ったら財布がすっからかんになってしまった。
『異界』の中にある魚系魔物の核はそう多くなく、今までそのほとんどを村に寄付する形で処分していたため、売ってもどのくらいの値段になるのか計算が難しい。
できれば、二人が欲しがるものは買いたいところではある。
ということで、エリサとリュウコ、サティとミリで一時的に別行動とし、リュウコ達は冒険者ギルドに来て、魔核の換金をすることにした。




