93 神世界
予約投稿を忘れていたので、お詫びとして今回は2話の投稿とします。
―――WMWMWMWMW
ディープロクスの体は、虹色にも見える謎の発光で包まれ、一息で急速に収縮した。
光が収まって視たその場所には、1人の人間、のようなモノが立っていた。
肌のいたるところに、青色の鱗のようなものが見えて、筋肉のバキバキに浮いた肉体美をこれでもかと見せつける男。
顔面はハンサム系のイケメンで、シュッとした大人の輪郭。
見る方向によっては人間にも見える。ディープロクスの『覚醒』
魔物の辿る成長線は1つに集約しない。種の数は上位から下位に行くほど広がり増えるが、進化変異や覚醒などの進化は条件や可能性が複雑で多岐にわたる。
上位種の変異体となると、それは非常に珍しい例となるもので、その出現率と反比例するように種類がグッと多くなるため同じ事例が少なくなる。
それこそ、ディープロクスのような上位種が進化するようなことは、ここ千年は起きていない。
『————これは、進化したのか。』
「こんにちは、ごきげんいかが?」
覚醒ロクスの前に立ち、呑気めにそう声をかける。
リュウコの姿を見たロクスは、明らかに動揺して一歩後ずさる。
海面で後ずさるという高等芸を見せてはいるが、恐らく無意識の行動だろう。
コロポだとかウルフだとか、ラットだとかと戦ってきてはいるが、最上級の覚醒体となるとどうなるのか、リュウコの知識にも存在しない。
もしかしたら、一番上の神話級になっているのかもしれないと、そう思って近づいた。
『———貴様、我を殺そうとした小さき者か。』
「ハイ、お前を殺そうとした小さき者です。」
別に、リュウコはふざけているわけではない。とにかく会話に集中させて、周囲にできるだけの魔力を垂れ流し、戦況を整えている。
これはそのための牽制の一部。
「で、オニーさんどう?俺に敵対してる?」
『——もちろんだ。覚醒を経て我は完成した。』
ロクスは腰を落とし、静かに拳を構える。とはいえ、ファイティングポーズではなく、なんというか、妙な印を組んでいる。
『貴様の死を以て、我の再誕祝いとする。【船首装】』
ロクスの全身を、船を模した鎧が包む。
リュウコはそこで少しだけ眉を顰める。
この世界に船は殆ど存在しない。この大陸が世界で一番大きく、海は魔物の領域で、遠洋に出るメリットを持たないから。
そして、魚の上位種が船を纏うというのも、何か裏や意図があるように感じてならない。
「『魔力鎧・ドラゴンスケイル』」
竜の鱗のような魔力の塊たちの集合体が、リュウコの腕と足を中心に纏わり始める。
手足と胴の一部を守るだけの鎧を纏って、ロクスと対峙するリュウコの姿は、さながら日曜朝の特撮ヒーロー。
互いに互いの手の甲が触れるくらいの距離に近寄って、極限の集中を見せる。
視界が縦に伸び、恐ろしく永い1秒が経過する。
―――ズババババシィッ!!!
まるで鏡合わせの約束組手。一息の間に繰り出された四連撃は、全て同じ速度と威力で相殺し合う。
――ビッ
連撃の余波で、二人の鎧の一部にヒビが入る。
しかし、魔力でできた鎧に致命的な傷が入ることはなく、肉体の耐久には1ミリも削りは入らずにそのまま戦闘は続く。
ロクスの後ろ回転蹴りを背負い投げの要領で引き倒し、踵落としを食らわせようとしたところを水中に潜ったロクスの上半身に回避され、その流れのまま足首を掴まれ水中に引きずり込まれる。
水中だからと、戦闘が簡単になることも無く、ロクスの動きは素早く鋭いものに、リュウコは宝力を纏って問題なく戦う。
肺活量の強化もされているから、水中だろうと継戦能力は衰えない。
「———流拳」
『魚影雷』
互いに互いの攻撃を素早く捌き、より細かな意識の隙を探し貫こうとする。
しかし、互いの感知センサーが敏感すぎてよりよい隙を見つけるのに手間取る。
水中での戦闘も飽きてきたところで、界力パンチで上空に打ち上げる。
リュウコは水中でもそれなりに戦えたが、ロクスは空中だとただの木偶になる。
戦闘能力が低下し、動きが鈍い。
「『六場界』」
『ぎゃっ、ぐっ、げっ、ぉおお!?』
「『地落とし』」
六角形の足場で囲んだ空間でとにかくボコボコにしてから、水面に叩き落す。
致命傷になり得る攻撃はないが、総合的には2割ほどのHPを削った感覚。
「進化変異の奴は武器に成ったけどさ、覚醒はどうなるんだ?」
それは、誰に聞いたわけでもない言葉だった。『骸時』に対して聞く癖の名残なのか、ロクス本人に聞いたのか。それもよくわからないが、リュウコは口に出す。
「まあ、どっちでもいいや。お前が敵なら殺すよ。」
『ぁあ、我もお前の下に着くのは嫌だ。だから、』
とぷっと空気を掻きこむような音がして、ロクスが水中に潜りこむ。
自分の得意なグラウンドに誘っているのか、水中で回復するようなスキルがあるのか、それは分からない。
リュウコは、自分が最初よりもロクスに対して恐怖を抱いていないことを悟ると、その誘いに乗るように、もう一度水中へと潜っていった。
『慢心、油断。ここでお前を殺す。殺してみせる。』
「別に、お前を侮って入ってきたわけじゃない。ただ、何をしてもかまわないと覚悟してきた。」
『分かった。ならここで死ぬるが良い。【海神世界】』




