90 イベント0004
「やっぱり俺は旅に出ようと思う。」
「「えぇ!?」」
「そう、じゃあ支度しましょう。」
リュウコのカミングアウトが終わり、結論にまでたどり着いたあたりで、エリサも承知のうえで旅に出る話が持ち上がった。
リュウコは一か所にとどまるのが性に合わない。というわけでもないが、この世界で、同郷の仲間や見知った人間が苦労しているのにじっとしていられる人間ではない。
それを理解していて、もう受け入れることにしたエリサは、それを拒まずに、しかし絶対に置いて行かれないよう、意地でもしがみ付くつもりでついて行く。
たいして、生まれてから今まで、村の外に出たことが無いような二人は、突然旅立つというリュウコに驚き、引き止め方や説得の仕方など、色々な思考が右往左往する。
「どどどっど、どうしよう!?」
「その、その!いつ出られるんですか!?」
「明日の朝かな。『魂力』を核に創る『魔力人形』を置いていくから、海の心配はしなくていいよ。」
諸々に配慮したリュウコの発言に、二人は少しだけめまいがする。
今はもう日が沈んで、夜真っ盛りと言ったところ。しかし、言葉のニュアンスから、明日の朝というのは、これから日が昇ったらすぐに出るという意味だと理解できた。
つまり、ついて行くのなら決断するのに、あと数時間程度しかない。
それも、おそらくリュウコは、二人を置いていきたいと考えている。
それだけは絶対に嫌だ。二人の思いは、ほぼそれだけに収束した。
「村長くらいには挨拶に行った方がいいと思うわよ。」
「うん、そうだね。それから出る。」
サティとミリが考え込んでいるうちに、話はどんどん進んでいき、明確な日取りが決定してしまった。
このまま、二人は身支度を済ませるつもりらしい。
「「ど、どうする?」」
互いに目を合わせて、同じ疑問符を浮かべる。というよりも、ほとんどは確認のための言葉。
村を出る。今まで育ってきた家族のいるこの村を。
その決断を、即決できる者はどれだけいるのか。
「「私はついていくけど」」
少なくとも、この二人は即決できる人間らしい。
互いの意思を確認してからは早かった。
家に帰って、爆睡中の家族を起こし、リュウコ達と旅に出ることを伝え、身支度をする。
どちらの家庭も似たようなもので、一度ワッと騒いだかと思えば、母が容認して、父が渋い顔をし、女兄弟は羨ましがり、男兄弟はさほど興味なさそう。
とにもかくにも、状況を伝えてから身支度をして、リュウコが村長に話を付けるまでの間に、二人の荷物は一つのカバンの中に納まった。中には、着替えが数セット程度と、路銀になる自分の所持金。
『メルト・スティグマ』の基本機能である『収納空間』を使って、荷物を少し減らしているのもある。
荷物を持っていないというのは不審であるというエリサからの助言もあった。
「「じゃあ、いってきます!」」
二人が家を飛び出したのは殆ど同時だった。
空が白みはじめ、少しずつ明るくなっていく、そんな時間。
リュウコ達の家に着くと、二人は殆どの準備を終えて待っていた。
「今、魔力人形を作っているから。ゆっくりしていて。」
座禅を組み、全身から立ち上る多種多様なエネルギーを、一つの塊に。
今のサティとミリでは、想像もできないほどの、謎技術。
核となる『魂力』の集合体、言ってしまえばリュウコという人間の魂の核の一部を用い、それを魔力で覆って人型を作り、『宝力』によってコーティングする。
並べてしまえばそれだけではあるのだが、その内容は歪で雄大。
現時点では、指定空間内にいる魔物の討伐と、庇護対象に対して悪意を持った者の迎撃をメインプログラムに据え、リュウコと意識をつなげて少しずつ自我を育てていく。
成長していく半生命体といったところ。
リュウコの魂の核から作られたそれは、ほぼリュウコ2号と読んでも良い。
「お前に名前を与える。『リュウコツ———」
「『ドラゴ』で」
「お前の名前は『ドラゴ』だ」
『リュウコツー』改め『ドラゴ』の誕生。
今はまだ何を考えているのかも分からないような、ぼーっとした顔をしているが、半分はリュウコのコントロール下にある。
何も考えていないような顔をしているのだが、その場で立って手足をぱたぱたと動かしている。
「視界が二つ重なっているみたいだ。ちょっと気持ち悪いかも……」
『あぁ、こうやって話す感じか。』
ドラゴの口から、リュウコと近い声がする。
少し籠ったような声だが、発話は可能らしい。
「よし、じゃあ大丈夫だな。」
見た目は少しリュウコと違うが、そこらへんも村長には話を通す。
周りの人間には、リュウコの兄弟くらいに見えるだろう。
『————AAAAAAAA』
轟音と共に、何かの泣き声が聞こえ、反射的にリュウコ達は外に飛び出た。
海の方、見晴らしの良い高台から見える海、そこに、巨大な魔物の姿が見えた。
「————ちょっとまずいことになった。」




