89 真夜中の告白
最初に逢った時は、何となく気になった。
難癖から始まった関係だけど、いろんな冒険があって、どれもが輝かしい思い出で。
変な女によく絡まれて、変な男にもまあまあ絡まれたっけ。
もしかしたら私も、変な女の一人だったかもしれないけれど。
【展装】の【固有】属性は私にとって鬱陶しい呪いみたいなもので、使い勝手が悪くて邪魔な能力だったのに。
私の代わりにいろんな工夫を考えてくれて、人並みに戦えるようになった。
あなたに貰った力で、調子に乗っていて、本当にヤバいやつと会ってそれに気づいた。
だから逃げようと思った。
リュウコの記憶を奪って、力の根っこを貰った。
【展装】はリュウコの言った通り、使い方次第でなんでもできた。
リュウコの記憶に嘘の創った記憶をかぶせて、その力を私に載せることで、二つを同時に封印できた。
けど、永遠に平和というわけにはいかない。
強くなったと言っても、私の魔力は脆弱で、記憶の維持も力の保持も長くは持たなかった。
定期的な補強があってやっと安定する。
限界は5日。
それも、その限界はかなり縮んできていて、更新の頻度は増していった。
数ヶ月持ったのは奇跡だと思う。
この数ヶ月は本当に夢の中のような感覚で、とても楽しかった。
だから、そろそろ目を覚まさないといけない。
◇◆◇
『AA?』
エリサの手のひらにある奇妙な形状の歯車。それは、リュウコが手に入れた『コロポソード』をベースにした、リュウコの記憶の結晶である。
魔物武器は何にしても性能が良いため、記憶の簒奪にはちょうど良い代物だった。
だからこそエリサはそれを使って、リュウコの記憶と力を封印していた。
しかし、リュウコの記憶というのは普通ではない。
異世界人であるリュウコに、この世界のシステムはなじまず、色々なところに穴があってバグが発生する。
相手がただの、それこそ魔力に精通もせず、ただそこらへんを歩いている村人Aくらいだったのなら、100人単位で洗脳しても、無限に維持できる。
それだけのポテンシャルがあるエリサの【展装】を、リュウコは五日でぶち破る。
しかし、封印とは別の剥奪は勝手に戻ってくることは無い。
ウソの記憶を全て剥がし終えたら、あとは剥きだしのリュウコの本能でしかなく、つまりそれは暴走するということ。
『AAAE!!!』
「返すよ。全部」
返せと言わんばかりの突進で、エリサの肩に噛みついたリュウコ。
漏れ出た魂力が二人の体を覆い、中は見えなくなる。
その突進にカウンターを入れるように、リュウコの胸。鳩尾の少し下あたりに『歯車』を差し込む。
完全な静寂が5秒過ぎて、二人の気配に変化が起きる。
―――――シィィイィ
しぼむように消えた『魂力』の霧の先、そこには涙を流す二人の姿があった。
「ごめんね。大丈夫?」
「えぇ、大丈夫。おかえり。」
短い会話だったが、二人にはそれで十分だった。
記憶を失っていた時間。それよりも更に昔。
リュウコとしての記憶を全て取り戻したことで、リュウコは次のステージに立った。
それはそれとして、気絶した二人を回収したリュウコは自宅の小屋に運ぶ。
今までのこと、これからの事、話さないといけないことがいくつもある。
◇◆◇
「ということなんだ。」
「リューの本当の名前はオニガミ・リュウコ。異世界から召喚された勇者の一人で」
「何故か一人だけステータスが見えない上に、今は死んだことになっている。」
「本当はよくわからない魔法具に導かれて旅をしていたですってぇ!?」
リュウコは全てをエリサ、サティ、ミリの三人に話した。
三人ともそれぞれ違う反応を見せていたが、おおむね受け入れる姿勢をしていた。
しかし、『骸時』の話をしたあたりでエリサが色々と強めの反応をしてきた。
「今は、どうなっているのか分からない。エリサと逃げた時に、いつの間にか消えていたから。」
「あの趣味悪い腕輪、そんな代物だったのね。ずっとキモいって思ってたんだけど。」
「あのっ、異世界からの勇者って、王都で活動中の?」
「まぁ、はい。」
「ステータスが見えないってどういうこと!?」
「それは、えっと」
ステータスを表示させる。それ自体は系統的には【無】属性の初等魔法に分類される。付け加えるなら『術』の魔法。
しかし、リュウコが使った場合、ただの半透明で不可触の板を出現させるだけになる。
それを見せたところで証明になるかは分からないが、一応リュウコはそれを見せる。
「え、じゃあなんでそんなに強いの?」
「気合と根性。」
「誤魔化さないで」
「ダンジョンの隠し階層でめっちゃ大量の強モンスターと戦って鍛えまくった。それでその~」
色々とごにょったリュウコではあるが、少しだけかみ砕いて『魂力』や『宝力』のことについて説明した。
「というわけで、魔力以外の力を使って多角的な力を育てたワケ。」
「へぇ。それって私達もできるの?」
「うん。というか、サティとミリは魔法少女化の段階で『魂力』を使いこなしているように見える。」
記憶の回収によって、今まで無意識下で使っていた魂力への理解を取り戻し、魔法少女の力の根源が魂力であることを理解したリュウコ。
魂力を使えるように魔法具などというものが何故存在するのかも分からないところではあるが、それによって二人の力が引き出され、エリサとタメを張れる力を手に入れている。
「じゃあ、私に貸してよ。その『メルトスティグマ』ってやつ。」
「「ぇ」」
エリサの提案に、嫌そうな顔をする二人。
なんだかんだとひと悶着あって、こうして机を囲んで話をできると言っても、三人の関係は互いが恋敵であり、なにより同棲期間というアドバンテージを持つエリサに苦手意識はまだあった。
とにかく、少しだけ割り切りの良いサティが自身の『メルトスティグマ』を手渡し、使い方の説明を簡単に済ます。
「『メルトスティグマ』!……?」
「あれ?」
手順は間違っていない筈なのに、エリサは変身せず、何も力が漲るようなことは起きなかった。
そこから更に色々な検証が行われたものの、エリサは変身できないまま、原因はサティとミリが『メルトスティグマ』の正式な所持者になっているため。と結論付けられ、閉廷した。




