87 三日月の夜
ミリとサティの特訓から七日が経過した。
リューはあれから行方不明となっている。
村人たちは心配しているが、今のところ海に魔物が出ることは無く、まだ平和は続いている。
ミリとサティは二日目くらいにリサの元を訪ねたが、泣き腫らした顔で追い返されてからは近づかなくなった。
「どこに行ったのかな。」
「私が分かるわけないでしょ。」
二人は海岸で話していた。
本来であれば、女子供は海岸に近づくのを禁じられている。
それは、魔物の脅威が理由だ。
「心配だよね。」
「そう?リューが危険な目に遭ってるなんて想像できないわ。」
とはいえ、サティも完全に心配していないわけではない。
二人とも、できるだけの心当たりを探している。
しかし、それでもリューは見つからない。
「リサが何か、知ってると思うんだけど。」
「私もそう思ってるよ。けど、あの人何も話そうとしないし。」
ここ数日、倦怠感に苛まれながらも、二人は組手をしつつ鍛錬を怠らなかった。
実のところ、七日間魔物がこの海に近寄らなかったのは、その訓練の余波の影響。
並大抵の魔物は、魔法少女の持つ魔力の特性を忌避して近づかない。
「『ジャイロ4』『オート6』」
「『ダブルドライブ』」
二人はあれからも小さなキッカケを逃さず、自分の能力を伸ばしていた。
ミリの『サテライト』はできる行動が増えた。特に顕著なのは星そのものがある程度の判断をし、半自律行動する『オート』。
同時展開できる『サテライト』は20を超えたが、『オート』のお陰で意識的な負担はかなり減った。
サティの『ドライブ』は更に能力の幅を広げ、並列で稼働する『ダブルドライブ』は体力の消費を半減させつつ、機能する時間を倍にできるという神がかり的な性能に発展していた。
「『トリプルドライブ』」
ドライブの強化は続く。ここから原動力が増えれば、それだけ強くなっていく。
しかし、ミリの『サテライト』や『メルティ・ロッド』のような魔法少女化のレベルに、サティはまだ追いついていない。
【固有スキル】の種はある。しかし、それはまだ眠っていて、ミリよりも更に大きなキッカケが必要となる。
「どう?何かつかめた?」
「いえ、まだ。もう少しだと思うんだけど」
「じゃあ、こっちも全力で、『セット』!」
これは星を一か所に集める合図。ミリの頭上十メートル程度の場所に、20を超える『サテライト』が集まる。
「『ジャイロ』『チャージ』」
星は黄色い光を纏い始める。
魔力ともつかない未知の力を蓄え、星は更に回転を速めた。
「3、2,1、『バースト』」
20本もの光線が、らせん状に束ねられ一本の光線へと収束する。
海を背にしたサティはその光線と向き合う。
恐らく、通常状態であれば絶命は免れないほどの威力。
それは、魔法少女状態であっても、重傷を負う可能性が高い攻撃。
「ぉぉおおおおおおッッッ!!!」
全身に満ちる魔法少女の魔力を束ね、身体能力の強化に注ぐ。
両手を前に突きだし、自分の中の可能性を探る。
「ぁあああああ!!」
手で受けた光線はサティの手のひらを焼き、そこから徐々に体に近づいていく。
激痛で顔が歪むが、それ以上の覚悟と根性で光線を受け止める。
「ぁぁぁああああッッッ!!」
上腕部分が消滅し、光線による照射は肘に到達した。
しかし、サティに覚醒の兆候は見られない。
「『クアドラプルドライブ』!!」
ドライブは更に加速し、並列処理の性能は加速した。
しかし、サティの欲しているものはこれではない。
―――――ギギギギイイイイィイィイッッッ!!!
ついには胴体にまで光線が届き、自動修復の服が端から焼けていく。
「ぁああああい!!」
光線の熱によって、内臓が焼けて盛大に吐血する。
しかし、出そうなくしゃみのようにサティの【固有スキル】は花開かない。
「—————ぁ」
ついに気絶して、足の踏ん張りがきかなくなって大きく吹き飛ぶことになった。
サティは大きく弧を描き海に吹き飛んでいく。
気絶はしているし、両腕欠損と胸部の大やけどを込みにしても、この程度で『魔法少女』は死なない。
だからこそ、死を直前としたキッカケには少し弱いということだろう。
海にぷかぷか浮かぶサティの体は、少しキモイがぬるりと再生している。
当然、再生したからと半裸になることもなく、ほぼ同じ速度で服も再生した。
つまり、海の上で一分間ほど浮かんでいただけで、サティは完全回復してしまった。
「大丈夫?」
「ええ、見ての通り完全復活。受け入れてる自分が怖いわ。」
「そもそも、魔法具の本体らしい腕が消し飛んだのに、なんで無事なんだろね?」
『魔法少女化』の恩恵は凄まじい。身体機能の向上に魔力の強化。
使っている間は三倍くらいの美少女になるし、再生能力もつくし、状態異常耐性も高くなる。
そんな状態で覚醒するほどのキッカケを得るというのは逆に難しいというもの。
これは簡単そうに覚醒したミリがヤバいだけ。
「マジ痛かった。」
「ご、ごめん」
回復するとはいえ痛いものは痛いということを痛感した。
しかし、あきらめる気はない。
成長そのものは順調で、サティは日に日に魔法少女の力を使いこなしていっている。
「……」
「どうしたの?」
「なにか聞こえない?」
海に半身を浸かっているサティがふと、妙なことを呟く。
ミリには特に何も聞こえないが、サティは人の声のようなものが聞こえると伝え、ぷかぷかと浮かぶだけだったのを反転、海中へ潜っていった。
――――ザザッ
『ミリ!来て!見つけた!!』
当然のように念話をし始めたサティに驚くこともなく、むしろその内容に一瞬で察しのついたミリは、迷わず海の中に飛び込んだ。




