84 79番
魔法具、魔法道具、魔法装備、呼び名は色々あるが、そのほとんどは『紋』の技術によって魔法効果を纏った物品の総称である。
製作者が分かっているものから、不明なものまで数多く、世界中には様々な種類があり、剣や弓、防具のような形をしているものが多いが、指輪やネックレスなどアクセサリーもあり、ただの棒や水晶の見た目をしているものもある。
昔、リュウコの作った剣も分類は魔法装備。
で、魔法具の性能自体はピンキリで、良いモノには『加護』と呼ばれるバフがあるという噂もある。
逆に言えば、世界で一番しょぼい魔法具として、『角が光っているタンス』なんかも存在している。
記憶を失っているリューではあるが、魔法に関わる知識は残っていて、ミリとサティの持っている『メルトスティグマ』を見ていた。
「……訳わからん。なんこれ。」
一端、最低限の知識があり、それなりに使えて何なら店も構えられるくらいの技術があるリューが、完全にお手上げ。
『メルトスティグマ』に書かれている『紋』は、もはやこの世のものとは思えないくらいに複雑な機構を持っている。
通常の魔法具をライトノベルくらいの文章量と内容としたら、『メルトスティグマ』はもはやヴォイニッチ手稿。
リューの受けた感覚で言うなら、それくらいの違いがある。
読んでいるだけで発狂しそうなほど複雑な内容で、読み解くのに何万年かかるか分からない。
「せ、正式名称は『メルトスティグマ・R』と『メルトスティグマ・L』、適正のある者にのみ使用でき、魔法少女化が可能。二つで一つだが、それぞれを別で使うことも可能。こ、ここまでは読めた。けど」
簡単な一文を読むだけでも、『使用者が女性の場合、変身時のステータスバフ各種20%』『更に○○である場合に載るバフは+30%』『更に~~』
こんないくつもの条件と共に発動するバフが50近くあり、リューが書き込むスペースが無い。
しかも、これだけの大量の機能が乗っているのにも関わらず、サティとミリでは機能の一割も活用できていない。
この魔法具の全てを使えるとしたら、国一つは落とせるかもしれない。
「そもそもこの素材……これはなんだ?」
手触りはプラスチックに近いのに、重さは鉄に近くそれでいて柔軟、関節部は滑らかに動くが強度は金属並み。
「今のところは変身してちょっとステータスが伸びるって感じ。使いこなしていったら勝手に強くなっていくと思う。」
「へー、じゃあ、変身してみるね!」
「す、少し向こうを見ていてください。」
カッと光ってバッと着替える二人。
光っている一瞬、ほとんど見えてはいないがどうやら完全に全裸になって着替えているらしい。
リューは後ろを向いて光だけを感じつつ、読んだ内容と『メルトスティグマ』そのものについて考えていた。
予想、それどころか直感に近いが、『メルトスティグマ』は普通の魔法具ではない。
ここで言う普通というのは、古代の謎技術で作られたアーティファクトや聖遺物のような、レア魔法具などを含む。
一言で言えば、『この世界の物ではない。』
リューは言語化できていないが、そう直感している。
「変身できたよ!」
「……ぅう」
合図で後ろを見ると、変身した姿の二人がいた。
ミリは少し恥ずかしがっているが、サティは堂々としている。
リューは特に気にする様子も無く、変身した状態の二人を観察する。
「明らかに魔力が漲ってるし、肌艶が良くなってる。」
髪色と服の変化だけでなく、瞳の色と魔力の色が変化している。
これは前回との違い、もしかしたら魔法具の練度が上がったという証明なのかもしれない。
「じゃ、とりあえず俺に殴りかかってきて。」
「……?いいの?ケガさせちゃうかも」
「俺にケガ……いや、触れたらステップ2に行こう。」
舐めている、とも違う。教師が生徒に対して問うように、リューは両手をぶらぶらと揺らす。
リューの体から、コココッと硬質な音が鳴り、雰囲気が少し軟化する。
「とりあえず二人がかりでいいよ。」
「ッ!」
「……ッ!」
飛車角落ちの宣言をされて、香桂を使わず、成も無いと宣言された。
二人の心境を例えるならそんな感じ。
魔法具による強化の影響か、少しだけ短期になっているようにも感じられ、二人は両サイドから、リューの顔と胴をそれぞれ狙う。
流石に全力は出したらマズいと考え、しかし速度を出せるように工夫を加えつつ。
つまり、手加減を宣言されながらも実力差を理解せず、手を抜いてしまうという愚。
蟻んこでも手に負えないほどの悪手。
「んん、手加減は要らないよ?とにかく全力で殴りかかって来てよ。」
気づけば、目の前からリューの姿は消え、二人の背後から声が聞こえる。
実際のところ、紙一重で回避しているだけだが、そこにギリギリ感は無い。
「じゃあ条件をつけよう。俺に触れるようになるまで、訓練は終わらないってことにしよう。」




