80 キミモン
仮面は佐藤の気絶と共に、ポトリと顔から剥がれ落ちた。
柔らかい地面に落ちたのにも関わらず綺麗に半分に割れたことから、仮面は死んだと見てよいだろう。
「まさか『マキ』がやられるとはね。強い勇者がいたもんだ。」
「……」
大穴の方から、モグラ人間が姿を現す。どうやら奇襲目的ではなく、仮面の戦闘能力によほどの信頼があったらしい。
それがハズれてはいるが、モグラ自身にも何かあるらしく、のこのこと姿を現した。
もしかしたら、今の戦いでキミトが力を使い尽くしたと判断したのか。
たしかに、キミトの体を纏う赤いオーラは薄れている。
奥に黒い影だけが見えたものが、今は中のキミトの表情まで見えるくらいに薄れている。
しかし、【憤怒】はそこまで安くない。
裏スキルとしての【憤怒】はそこで終わっても、世界が込めた『ラース』という言葉の意味はもっと深く重く湿度が強めで、メンヘラ気質の神様の宝物。
「だが、マキとぶつかって余力がんっぶるぉおおおお!!?」
衝撃音と共に、モグラの顔面は平面に近く変形し、体は地面と平行に移動した。
キミトとモグラの間にあった距離はそれなりに遠い。
一番近くにいた騎士の目でおよそ50メートルほどは離れていた。
そんな距離を、1秒にも満たない一瞬で詰め、モグラに強烈な殴打を食らわせた。
「GYUUUURRRRRAAAAAA!!!」
再び、魔物のような咆哮が響き渡り、未だに地面に着いていないモグラ男に対して、残像しか見えないような速度で近づく影。
キミトによる高速移動で、追い立てるような赤いオーラを目で追うのがやっとだった。
「『BOOOBAAAAA』!!」
そこには、スキル発動に近いイントネーションがあり、フレーズには特有の波があった。
声が響いて耳に届き、脳がそれを処理している間に、それは起こった。
――――ォォォォォオオオオオオオッッ!!!!
モグラ男の体に飛び乗ったキミトは、その軌道のままモグラを蹴った。
勢いの良い跳躍が、地面に長く深い溝を作る。
草がめくれた地面の中で顔面がくしゃくしゃになったモグラが呻く。
蹴った反動で宙に舞い戻ったキミトは、そのまま一回転して「空」を蹴る。
「げぼっぁあ!!?」
腹深く突きささった脚に肺を破壊され、モグラの口から大量の血が噴出する。
青色の、およそ生物とは思えない色の血が周囲を彩ると、モグラは不気味な痙攣を始め、十数秒程度で動かなくなった。
「「おおおおぉおッ!!!」」
一瞬のうちに敵を二人も倒してしまったキミトの戦績に、周囲の騎士たちは当然沸き立つ。
危険な敵を簡単に倒してしまった。そう映るからだ。
しかし、それもすぐに変化する。
「GUUUURRRR」
キミトを覆う赤いオーラは更に薄くなっている。もう、ほとんどただの色付きの蜃気楼程度にしか見えない。
しかし、キミトの目に正気は戻っていない。
残りの【憤怒】が、キミトの正気を拒絶している。
「GIGIGUUUUU!!!」
唸り声を上げ、やや鈍い跳躍で一番近くの騎士をロックオンしたキミトは、モグラにやったように足の先を向けた。
「———『聖流』」
突如、貫くような光が天から降ってきた。
キミトを包んでまだ余る程の照射は、キミトの体を焼き焦がし、一瞬で意識を奪っていった。
◇◆◇
「で、どういうことか説明してもらおうか。」
医務室のベッドの上で、拘束された状態のキミトは目を覚ました。
目の前には同じクラスの勇者仲間たち。
近くには、拘束されてはいないが目を閉じて気を失ったままのシオンの姿があり、キミトは全身の痛みに顔を歪めていた。
「サトウ君の近くに転がっていた仮面が危険な魔法の道具で、モグラとコウモリの襲撃があった。僕は戦いの最中で目覚めたスキルで戦っていたけど、暴走してしまった。簡潔に言うとこんな感じ」
「……」
信じられないというような顔をしているセイヤ。このセイヤが帰ってきてくれたおかげで、キミトは仲間に危害を加える前に暴走から脱却することができたということだが、ほぼ半殺しの状態にされたことに対して普通に不服に思うところもあった。
「サトウ君は行方不明。コウモリは拘束状態で監禁中。モグラの死体は宮廷魔法士たちが預かっている。言っていた仮面とやらも見つからなかった。」
「じゃあシオンさんにも聞いたらいいよ。僕以外に戦っていたのは彼女だけだし。」
「キミト君。とにかく問題は君の暴走についてだ。」
話を切り上げるようにセイヤが話す、その声音はやや厳しく、何かを怖がっているようにも見えた。
「前提として、僕のスキルは【聖】属性と【光】属性を更に強化することに特化している。」
「うん、知ってる。」
「【聖】は魔物や魔族に対して特に強力な特攻性能があり、貫通性が高い。」
「うん……」
「僕は比較的弱めの【聖】魔法で、君を拘束するつもりだった。」
「……」
「それなのに君の受けたダメージは尋常ではない。明らかに魔物の受けるレベルのダメージだった。」
「君の体はどのくらか分からないが、魔物に近くなっているらしい。」




