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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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79 裏乃公人の成り上がり

 シオンが、コウモリと自分を巻き込んで氷に閉じ込めた。

羽ばたくことができず、完全に一つの氷の塊となった二人は、重力に従って自由落下する。


 氷だけでなく聖の属性を付与された氷の耐久力は折り紙付きで、恐らくこの程度の高さの落下なら問題ない。

 しかし、術者自身を巻き込んだ氷を、落下後にちゃんと解凍できるのか。


 おそらく解凍はできない。外部からどうにかして溶かさない限り、敵と共に氷の中に閉じこもったままになる。


 であれば、モグラの方と仮面はキミトに任されたと見た方が良い。


半分くらい脱出しているキミトはそう判断した。


「【裏スキル:節制】」


 小さく呟いたキミトの全身に、黄色のオーラがまとわりつく。

身体能力が高まっていくのを、ステータスで確認しなくても分かる。

 この強化系バフは便利ではあるのだが、意識を持って行かれすぎるせいで他の【裏スキル】と併用ができない(一部例外アリ)。


 そして、魔法との併用もできない。


 キミトを地面に埋め込んだだけで、モグラは追撃をしなかった。

そこに疑問は残るが、地中にいる以上キミトに捜索する手段は無い。

 であれば、今一番の選択肢は


「シャァアアイ!!!」


 ツタの仮面に操られている推定佐藤(兄)を止める。

最低でも気絶、最悪でも拘束状態位の戦闘不能に持ち込む。


「『俺の右ストレート』ォ!!」


 魔法は使えないが、技名はノリで叫んでしまう。

力強く固定された拳が、佐藤(兄)の腹部にめり込む。


 手に伝わる柔らかい感覚とそれに伴う反作用の痛み。

強化された動体視力も感覚神経も、全てが佐藤のダメージを知覚し、キミトの暴力を認識している。


 【節制】の力は純粋な強化。しかしそれは万能で理想的なステータスの上昇ではない。

 力は強くなって、感覚が研ぎ澄まされると、その分痛みも強く感じるし、体感時間が長くなる分、鋭い痛みをゆっくり味わうことになる。


 しかし、ノリにノッているキミトは大量のドーパミンやらアドレナリンやらの効果でそれも少しだけ鈍っている。

 

 であれば、キミトの中で殴った感覚はどうなっているのかというと


「いったいなぁあああ!!?えええぇ!?」


 びっくりするほどの激痛が腕を襲っていた。

アドレナリンとか、エンドルフィンは完全にお留守番。ただひたすらに鈍い痛みが手から肩から襲って来た。


「け、『蹴り』ぃぃい!!」


 次に、靴によって防御されている足での渾身の前蹴り。

動きは素人丸出しでバランスも悪いが、強化されている蹴りで佐藤は大きく後方に吹き飛ぶ。

 そして


「いったぁあああい!!!?」


 今度は膝に、強力な動きによる、関節への反動が響く。


「かか、解除解除!あかんて!」


 金色の光はキミトの体内に収縮するように消え、顔色の悪いキミトだけがその場にうずくまる。


 手と足の痛みは少しずつ薄れていくが、痛みの記憶はそのままキミトのトラウマになった。


「裏スキルってマジで使いモンにならないって!どゆこと!今も昔も、トレンドはチートで楽勝だろ!?オレなんかやっちゃいたいんだけど!」


 自分の意味不明なチート能力への文句が止まらないキミト。ここまで得た能力で、デメリットよりメリットが大きかった試しがない。


「もっとさぁ!経験値チートで楽々レベルアップとか!魔力が無限でなんでもできるとか!ねぇええ!!」


 天に向かって叫ぶキミトの声が、少し明るくなってきた夜の闇に響き渡る。

普段使わない声帯と肺の底を使って叫ぶ。痛みを紛れさせるためだけに、とにかく叫ぶ。


 叫んだ腹の底から湧き上がる力に身を委ね、更に大きな力を無理やり引きずり出す。

 それはキミトの意識的なものではないが、キミトの本能に刻まれたものであるのに間違いはない。


今まで、いくつもの裏スキルを手に入れて、少しずつ体は耐えるようになった。


 本来であれば、裏スキルは一つだけでも人類には過ぎるモノで、どんなに強い人間でも一瞬で精神を飲まれる。

 キミトは、それの影響を受けない。わけではない。

 明らかに精神への変調を受けていて、常に発狂の一歩手前でぶらぶらと揺れている。


 そして、新しい【裏スキル】もまた、キミトの精神への負荷を更に強めるものとなる。


「【裏スキル:憤怒】ぉおおおッ!!!!」


 真っ赤なオーラがキミトの全身を包む。

対して、世界は別に時が止まったわけでもなく、仮面のついた佐藤は動き、体勢を整えてキミトに狙いを定める。

 先ほどの愚痴の間も、少しずつ体を修復しつつ反撃に移っていた。


「GIGI、『ペルソナ・ブースト』」


 仮面佐藤の体に翠のオーラが纏う。

赤と緑、補色の相対。

 互いに向き合う二人の姿は、驚くほどに類似している。


「MEENN、『ペルソナ・バースト』」

「ぃいいいい!『ラース・オーバードライブ』」


 キミトのオーラの濃度が更に強まる。生身の部分はステンドグラスの向こう側にあるように、ただの影になる。

 仮面佐藤も同様に、オーラの緑は碧を越えて更に濃くなり、そして一点、両手に集まる。

 その両手を前に突きだし、仮面を持つツタの大半を使って地面に体を固定する。

 キミトは見えなくなった表情がまるで鬼や悪魔のように裂け、凶悪な笑顔を描く。

 そのまま、人類圏に無いような動きで仮面佐藤に向かう。


「GIIIMEEEEENNN!!」

「ぃいいいいGYAAAAAIIII!!!」


 二つの咆哮と同時に、緑の照射と赤い鬼がぶつかる。

轟音と切削音の中間のような音が王城内に響き渡り、何度目かの昼間の明るさ再現が起こる。



「GYAAAAAAAA!!!!」


 縦に裂けた口から出る雄叫びとともに、土埃の中から出てきたのは、

仮面佐藤を足の下に敷き、勝鬨を上げているキミトの姿だった。


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