75 裏乃公人らへん
謹賀新年ということで、連続投稿させていただきます。
「———オンさぁあああん!!助けてぇえええええぃ!!」
城内に響き渡る声に目を覚ます。
辺りを見渡すと、月明りの差し込む室内はまだまだ暗く、眠気も濃く重怠い。
聞こえた声は緊急性が高そうではあったが、如何せん眠さが勝つ。
自分が行かなくても、他の誰かが向かって解決する方が早いだろう。
しかしながらと、あまり回らない頭の中で、自分に立てた誓いの言葉が反芻される。
『聖女は助けの声に応えるもの』であると、聖女たれという誓いが訴えてくる。
「見に行くだけでも……しようか。」
◇◆◇
走りながら逃げるキミトの足には既に疲労が見え隠れしていた。
キミトは回復系の魔法が得意ではない。その分【裏スキル】で表面上の外傷は直すことができるため、そこまで困ってはいなかった。
しかしながら、疲労は溜まる。足の筋肉を変形させても、そこに溜まった疲労物質は分解されない。練度を上げれば分解もできるようになるのかもしれないが、今はできない。
「えっほえっほ!弱点は光って伝えなきゃ」
呑気なことを言っているように見えるが、キミトにとっての精神的安定はこれによって整う。
どんな時でも、メンタルを叩かれれば脆い。
一般高校生でしかなかったキミトは特に、メンタルを鍛えるような環境が無かった。
だからこそおどける。チョケてふざけてボケる。
それこそが自分のペースだと、そう自分に言い聞かせて安定を得る。
「ひょえぇええええ!!!もう復活してきたぁあああ!!」
背後の音から、ツタが再生してキミトの追跡を再開したことを察知する。
振り返ることはしない。今はとにかく逃げて、とにかくシオンと合流することを第一に考える。
残存魔力は二割を切っている。足もいつ止まるか分からない。
少なくとも、全力疾走が可能なのはあと30秒ほど。
残りの魔力を使って、後ろのツタたちを消すことで時間を稼ぐか。
他の打開策が思いつかない以上、その選択を取ることしかできなくなる。
しかし、先ほどツタを消滅させることができたのは、潤沢に魔力が残っていたから。
その時に使った魔力の半分以下で、ツタが崩壊するほどの光を出すことができるのか。
悩んでいる時間。その間にも、ツタはキミトに迫ってくる。
「『炎矢』!」
火の矢のようなモノ。どちらかと言えば棒に近いソレを投げ、ツタを焼こうと試みる。
しかし、ツタはそれを避け、またその程度の光は効果が無いと、動きがゆるむことも無い。
「くっそぉおお!!!」
光を放つにしても、タイミングがつかめない。
人の気配がないせいで、魔力を使い切るのに抵抗がある。
「誰かぁああああ!!」
こんな時にこそ、新しい【裏スキル】が覚醒してほしいところではあるが、現実はそううまくいかないということで。
キミトが捕まるまで後5分。時間はそこまで残されていない。
◇◆◇
聖女は目を覚ましてから数秒で、城内の異変に気付いた。
異様で異質な魔力の気配。しかも無数で散り散り。
人間由来のものではない。それは無自覚に知覚している『魂力』が示している。
しかし、聖女の体は一つ。さて、元凶を叩くか、この悲鳴の主を助けるか。
「この声、裏乃君だよね。」
一年近く同じクラスで過ごしている間柄だ。声での判別くらいはつく。
最近、口を閉じさせようとしたくらいには、関心ある相手。
それゆえに、気まずさから少しの間どちらに向かうかを迷っていた。
殺しかけた相手の命を助けるという矛盾。そもそもキミトが叫んでいる助けの相手というのは、きっと自分以外だろうと考えていた。
「棟が違うのか。ちょっと遠い。裏乃君の方が近い。うーん」
シオンの感覚を言ってしまうと、ソナーが一番近い。
魔力による遠隔知覚。光属性と聖属性による生命探知。
まだシオンは実物を見ていないが、仮面とツタは魔力を持っているため、探知に反応する。
効果範囲は城を大きく囲んで、城下町に少し差し掛かるくらい。
リュウコとの再会以降で得た魔力とその技術。
シオンはそれを常時展開しているのだが、魔力が枯渇するということはまずない。
「この魔力、見覚えがある気がする。」
どこでだったのか。記憶を深く潜るよりも先に、対処の方を考える。
「光って言ってたっけ。じゃあ、『闇祓い』」
魔力の範囲内で、城内にのみ絞り魔法を行使する。
そう、この範囲内であれば、精度はやや落ちるがどこでも好きな魔法が使える。
それがシオンの会得した『魔界領域』という技術。
キミトが逃走した時も、遠隔で氷漬けにすることは可能だったが、万が一に備えて直に止めるために追いかけた。
そして、『闇祓い』というのはただの光の魔法。
光属性魔法で2~4個目くらいに覚える初級魔法。
しかし、それだけ膨大な魔力に反応し、光量を増やすこともできる。
それにより、キミトが放った光弾以上の光を照射。タンスの隙間すら一切漏らさず、隅々光っていった。
狂気的なほどの光量でありながら、人間の目が失明することは無い。
光という概念そのものを押し付けるような攻撃。
それによって、王城内に生え広がっていた大量のツタたちは消滅し、仮面も同様に消滅した。
そう、王城内の仮面は全て―――




