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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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69 裏乃キミトカムイ

 話し合いはキミトの背中に当てられているナイフから始まる。

シオンはいくつかの質問をして、キミトがそれに正直に答える。

 質問は一方的で、そしてキミトの答えが全て肯定になるような確信があるような言いぶりであった。


 質問が10を超えたあたりで、シオンは座っている位置を調整し、今度はキミトの首元にナイフをあてがう。


「これがほとんど最後の質問。キミトくんはリュウコ君が生きてると思う?」

「……シオン殿も、生きていると思っているのですか?」


 ここで初めて、キミトはシオンの質問に対して質問で返した。

質問に質問で返すのがどれほど罪深いのかを理解しているキミトでも、そのことについてはそのタブーを犯さないといけないほど、この話題はデリケートなことだから。


「良いから答えてよ。」


 答え次第では―――と続きそうなことを言ってくるシオンに冷や汗を掻きながら、キミトの冷静の皮がペリペリ剝がれかける。


「……生きてると思います。」

「そっか。なら—――」

「———」


 スッと引かれるナイフ。金属のひやりとした感覚が首筋を動く。

頸動脈がスパッと切れ、大量の血が流れ―――


―――なかった。


 金属の冷たさに背筋が震えただけで、首からは何も出ていない。

顔から冷や汗が滝のように流れる。


「じゃじゃーん。ニセモノでしたー!!」


 首筋から離れ、目の前に出されたナイフを見る。

それはただの鉄の板をナイフ状にしたようなもので、刃もなにも無い玩具だった。


「ふふっ、ドッキリ大成功!」


 視界がぐるぐる回る中で、シオンの顔を見てみると、いつものクラスのアイドル、勇者の中の聖女の顔になっていた。


 一目見ればコロッと堕ちてしまう魅惑の笑顔。

キミトの全身から緊張の硬直が抜けて、肩の力がゆるんでいく。


 そこで、窓から見える太陽の光と、シオンの頭が重なり、シオンの表情が逆光で見えなくなる。

 まぶしさで目を細める一瞬、キミトの顔に何かが当たる。


 久しぶりに聞く缶を開ける音。

少し遅れて、頬のあたりから妙な熱さを感じ、何かの液体が顔から首にかけて流れているのを感じる。


「————ぁぁいいいい!!?」


 ナイフの玩具の先端が、キミトの頬を貫いていた。


 気づいた時には、歯と歯の間に挟まる刃をがちがちを嚙みながら、椅子ごと後ろに倒れ込んでいた。

 

「リュウコ君は生きてるよ。この前会ったんだ。」

「へひゃいぃぃい」

「でもね、それは秘密なんだよ。ランちゃんとか馬鹿二人は仕方ないけど、それ以上の人に知られるリスクは回避しておきたいの。人脈づくりもまだまだ始めたばかりだしね。」


 転がるキミトを跨いで見下ろすシオンの顔は、最初に見たときよりも無表情に近く。逆光も重なって更に何も見えなくなっていた。


「殺しはしないよ。けど、当分喋れないようにするね?」

「う、うあふひふ……えぇ!!?」


 口元への攻撃で活舌が機能しない。歯に当たる金属板のせいで碌に言葉が発生できない。

 危惧していた、口が使えずにスキルが使えない状況。

 それがこんなに速く、しかも味方の手によって起こるものだとは、キミトにとって予想外だった。

 いや、予想していなかったわけではない。

 リュウコの失踪から始まるクラス内での異変を、キミトは肌で感じていた。

皆が皆、多かれ少なかれの疑心暗鬼を持っていた。


「うん、スキルを使うのに詠唱が必要なタイプなのはわかってたからね。無詠唱での練習が足りないのはわかってたし、自然治癒だけしか方法は無いね。」


 頬のナイフを抜こうと手を動かすと、見透かすように手首を踏んで止められる。

 小柄で軽い方とはいえ、ヒト一人分の体重が手首にかかるため、折れないにしても苦痛で声を上げそうになる。


「筆談もできないようにするね。大丈夫、手の筋に傷を入れるだけだから。スキルで簡単に治るよ。」


 今度は本物の短剣を懐から取り出すと、踏んでいる手の根本に近づける。

開いている手で口を塞がれているため、叫ぶこともままならない。


「良い?君を襲ったのは突然現れたこの魔物だからね。私がそう説明するから、君は首を縦に振る以外しちゃダメだよ?」

「んー!んんん!!」


 頬にささったナイフの隙間から少しの声が漏れる。

必死になって抵抗しようとしているのに、今度は首元を氷で固定されて動かせない。


「もう、動かないでよ。」


 シオンの得意な氷の魔法は、ある時期から更なる洗練さを得て、勇者の光の魔法に迫る技術を手に入れていた。

 それによってつくられた、キミト専用の処刑台。


 手に迫るナイフ。逃げ場はない。

 冷たい刀身に、触れていないのに鳥肌が立つ。

 狂気に当てられ、恐怖を味わい、痛みから目を離せない。


 しかし、キミトの地獄が始まるのはここからだった。


ピンと、何かが繋がる音が聞こえた気がした。

 しかし、それは新しいスキルの萌芽ではない。



 スキルと魔法には練度が存在する。


 スポーツにおいて、素振りやピッチングや走り込みは一つ一つの技術であると同時に、その全てにコツと練習量に比例する結果がある。


 スキルと魔法の練度は至ってシンプル。

 使用回数と知識によって練度が決定される。


 治癒系の魔法を一般高校生が扱うのと、医大生が扱うので、同じ魔法でも違う。

 体育で竹刀を始めて振った学生と、剣道の有段者で、剣術スキルに差が出る。


 ステータスがありアビリティがありスキルがあるが、これは現実の延長である。


 そして、キミトにとっての初体験。

スキルの練度が上がった瞬間というのは。


 キミトにとっての真の地獄の始まりだった。



【裏スキル:社会的不公正】発動



「ぁんぎぃいぃやあああああああああッッッ!!!!!」




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