68 ゼロから始める裏乃キミト
色々とゴタゴタしたところはあったものの、依頼自体は滞りなく終了。
軽い観光も終わったキミト達は王都へ戻る道の途中にいた。
「青髪は見かけたんだけど、ピンク髪って見かけなかった。」
「僕はピンク見かけたよ。白よりの青髪は見かけたかな。」
異世界あるあるの一つである、色とりどりの髪についての話に花を咲かせながら、ちらちらとリンの様子をうかがっていた。
あれからというもの、露骨に機嫌が悪くなったリンにおののきつつも、キミト達はオタトークを続けた。
リンとの友好レベルは変動しなかったが、佐藤とは比較的仲良くなっていた。
意外とアニメや漫画などを読んでいて、キミトと話が合う程度には異世界モノに関わる知識があったということで、この数日で色々な会話を楽しんでいた。
そして、帰り路の途中で、佐藤が全てをひっくり返すような一言を呟く。
「異世界あるあるならさ、リュウコ君は生きてるのかな。」
その一言で、空気は氷点下を体現し始めた。
特にひどかったのが、リンが全身から漂わせるドロッとした粘性の魔力で、当てられたキミトの背筋から氷柱が生えたかのような悪寒が走っていた。
恐る恐るリンの方を覗き見ると、その目はまるで闇の底。
人の目がここまで真っ黒になるということを初めて知る程に、光を吸収する黒に見えた。
「どういうこと?」
聞いてきたのは、ただの一言。
しかし、その意味するところは理解できる。
キミトは佐藤に対して、批難の一瞥を剥けてから、リンに向き直る。
「異世界モノの定番で、クラス転移した中で一人だけ行方不明になったら、最強のスキルに目覚めて生き残るっていう話なんだ。」
「リュウコも、そうだってこと?」
「その、だってリュウコ君は、ステータスが見えない特別な人だったから。」
キミトが裏主人公だとしたら、リュウコは正統な主人公であると、そう思っている。
だから、行方不明で死体も見つかっていないリュウコは、今もこの世界のどこかで生きているのだと、そう信じている。
「僕も、正直リュウコ君は生きてると思う。けど、この世界でステータスの確認ができない。魔法も少ししか使えない。スキルも、まだ教わってなかったから、生きていてもきっと苦しんでるかもしれない。」
キミトは、ここで初めてクラスの勇者仲間に自分の考えを話した。
親友であるリュウコの失踪でどれだけ苦しんでいるのか。今まで人に話さなかったのは、同情されたくなかったから。
しかし、リンの殺気のようなモノに怖気づいたキミトは、リンをなだめるためだけに心血を注ぐ。
そこで、やっとリンの漂わせている空気が軟化して、止まっていたであろう佐藤の呼吸が正常に戻る。
酸欠一歩手前くらいの顔色が悪い佐藤を横目に、リンの目を見る。
「……?」
そこには、先ほどの高い湿度を感じさせるリンの表情はなく、満開の花のような、輝く笑顔をしたリンの顔があった。
それも、目と鼻の先に。
「それ、ホント?よかったぁ。そういうことは早く言ってよ。」
声も、今まで聞いたことも無いほどに高揚し、溌剌で、元気になっていて。
どこか狂気を感じさせる声音をしていた。
帰り道も半ば。キミトは残りの道を、それまでの何倍もの長さに感じながら帰ることになった。
◇◆◇
帰ってからパーティが解散になると、キミトはまた一人になった。
はじめに座学を学んだ部屋に入り浸る。
数ヶ月の異世界生活の間で、常識や知識の粗方を身に着けた勇者たちは、この部屋に来ることもなくなった。
この部屋に来ると、異世界に来たばかりの頃のことを思いだす。
組み分けされ、それぞれで教育を施されていたこと。
テンションが妙に上がって、変なテンションでリュウコにダル絡みしていたこと。
そして、いつの間にかいなくなったこと。
時の流れを感じながら、キミトは黄昏ていた。
そんなキミトの脳内に、アナウンスが響き渡る。
【裏スキル:怠惰】
ここにきて、少しだけ理解したことがある。
裏スキルは今まで、ほとんどランダムに授かるものだと思っていた。
しかし、何度も授かっているうちに少しずつ、その法則のようなモノが見えてきた。
一つは、キミトにとっての大きなキッカケに気づいた時。
一日に授かるタイミングは一つ。
その種類は、ある程度シリーズ分けされていて、共通項のようなモノがある。
ただ、シリーズが分からないものや、そもそも日を跨ぐこともあるスキルで、入手条件なんかはまだまだ不明。
キミトは人目が無いその部屋の中でも、新しく発生したスキルの検証をする気にならず、一時間ほどをその部屋の中でぼーっとしていた。
「で、何か用ですか?」
「よく気づいたね。足音も気配も消してたんだけど。」
「聖女のスキルじゃなくて草」
ぼんやりと窓の外を眺めるキミトの背後に立っていたのは、今や王城内だけでなく、王都や周辺の街で『聖女』として有名になってきているセキ・シオンその人。
しかし、今キミトの背後に立つ彼女は聖女としての顔ではない。
キミトの背中にナイフの峰を当てているシオンの顔は、張り付いたような笑みと真っ黒な瞳の、一目で恐怖を感じる異質。
「キミトくんさ、何を考えてるの?」
「それはナイフを突きつけているセキ殿のことでは?」
「ちゃんと答えてくれたら何もしないよ。」
目の端で見えているシオンの顔に変化はない。
人当たりのよさそうな笑顔。その目の奥の闇。
先日の調リンを彷彿とさせる圧。
「ねえ、隠し事あるよね?誰にも言ってないスキルがあるよね?」
「はい。ありますね。で、その根拠は?」
「勘」
シオンとキミトの一触即発の会談は始まったばかりだった。




