67 粗相の裏乃キミト
男子二人は、女の子の泣いている声を聞いてもヘタレて声を掛けることなんてできず、気まずいため外に出て買い物でもすることになった。
「なぁ、なんでこういう本って日本語で書いてるんだ?」
「異世界モノあるあるなら、翻訳の魔法が掛かってるとか。」
ウィンドウショッピングのように露店を練り歩く二人。
目当ては異世界っぽいものならなんでも。
「城の図書館にも置いてないようなすごいの、探そうぜ。」
「僕は魔剣とか探したいかな。」
男子高校生二人、しかし厨二。
手持ちの金もそれなりにあるが、それでも無限に持っているわけではない。
宿代や飯代はすでに支払われ、手持ちの金は自由に使えるという贅沢な状況。
王都ほどではないが大きな街で、それなりに賑わいのある表通りなので、色々なモノに目を引かれる。
「すっげ!!これ!読むだけで火の属性適性が身につくって!」
「こっちも見てよ!ククリナイフ!初めて見た!!」
調リンの泣き声の事のこともまるで忘れて、楽しく買い物を続けた。
◇◆◇
『もし、そこなお兄さん。少し話を聞いちゃくれんかね。』
買い物も楽しみ、それなりに美味しいものを買い食いした後で、佐藤はキミトとはぐれて裏路地に来ていた。
人気のない裏路地、まだまだ日は落ちていないのにそこはあまりにも薄暗く、ほこりが舞って少し臭い。
そんな裏路地の突き当り、ヒトなんて絶対に来ないようなところにある、奇妙な露店。
そこに座るのは、目深にローブを被った老人?
聞こえてくる声はしゃがれすぎていて、男女の区別もつけられない。
しかし、その路地には佐藤と老人のみ、声を掛けられたのは間違いないだろう。
佐藤は訝しみながらもその老人に近づく。
妖しさ満点、不審者レベルMAX。
しかし、その声にはどこか引き付けられるものがあった。
『見たところ、あなた、勇者様ではありませんか?』
少し耳を傾けようとしたところで、一気に警戒が強まった。
「……違う。僕は勇者じゃない。」
絞り出した誤魔化し。しかし、それは嘘ではない。
佐藤の認識の中では、本当に勇者なのはセイヤただ一人。
周りのシオンやモモカたちですら、聖女や剣聖などという別称があるのに対して、セイヤはただそのまま『勇者』である。
つまり、周囲の評価としては、佐藤達その他クラスメートは『勇者の仲間』でしかないということ。
そんなことを頭の隅で考えながら、佐藤はその老人の動きに注意する。
『いえいえ、あなたは勇者に間違いありません。私はあなたに用事があるのです。』
「用事?」
怪しさに拍車がかかったことで、警戒は更に強まり佐藤の表情は険しくなる。
勇者だと理解して近づいてきたということは、何か利用する目的があるということ。
「言っておくけど、僕は勇者たちの中でもそこまで強くないからな。」
『構いませぬ。私の目的はその器です故に』
突然、佐藤の意識は暗転する。
佐藤は見ていなかったが、路地裏の壁、そこをトカゲのように這い回るなにかが佐藤の首筋あたりに飛びついた。
『サトー・イチロー。大切なのはお前が男で、勇者であるということだけだ。』
老人の笑い声が響き渡る。
眼下に倒れ込む佐藤を覗き込み、何が可笑しいのかも分からないまま、老人の声だけが聞こえている。
◇◆◇
「良い買い物だったね。」
「修学旅行で木刀を買った記憶が思い出された。」
夕陽を背景に、キミトと佐藤は互いに買ったものを見せ合い、談笑をしていた。
佐藤は中身がまるで読めない魔導書のようなものを買っており、キミトは装飾の少ない小剣を買っていた。
「これを鞘から出すとぉ」
スッと鞘から刀身を引き抜くと、そこには紫色の奇妙な紋様が走っていた。
「これ、『紋』の特殊な技術らしくって、スキルを刻み込むことができるんだって。これを応用して他の武器にも同じことを施せれば」
「へぇ、そういうの考えて買ってんだ。俺そんなの考えなかったよ。」
感心したような佐藤に、どや顔で返す。
他にも色々と買ったものを見せ合って、それぞれの意見を交換し合う。
その中でも、最も目を引いたのは佐藤が買ったという一つの『面』。
それは一見するとただの木製の仮面でしかなく、目と口のところに穴があるよく見る簡素な作り。
しかし、『紋』のようなものが描かれており、わずかに魔力の流れを感じる。
キミト的には、ただの変な装備にしか見えないが。
「それ、どんなモノなんだ?」
「ん、ん~?えっと、なんだっけ。色々買ったから、買ったときの事忘れちゃったぜ。」
「えぇ……?」
その歳でもうボケたのか等と駄弁りつつ、宿のところに戻る二人。
そんな二人をこっそりと見ている一つの影
◇◆◇
「遅い。お代わりの分は無いよ。」
「「え!!?」」
宿に帰ると、リンが二人の帰りを待っていた。
宿の人が容易してくれた夕飯は、二人の分だけ残っているが、リンは既に食べ終わっているらしい。
用意されていた二人分以外は全て食べたと宣言されたことではなく、リンが平然としていたことに驚く二人。
しかし、デリカシーの概念を齧ったことのある二人は、昼間の泣き声の件については触れずに、自分たちの夕飯を食べることに。
買ってきた品物についてリンに話して、少しだけ盛り上がった。
昼に買い食いをしまくっていたものの、流石に高校男子二人、簡単に食べ終わってしまった。
「ところで、私にお土産とか無いの?」
「んッ゛」
薄々と感じていた、お土産要求の気配。それについてついに言及されて、キミトの喉に料理が詰まる。
軽くむせつつも、その脳みそは解決への道を探していた。
キミトが買ってきたのは、簡単に言えば『男の子ってこういうの好きだよね』系。
剣や魔法の本など、異世界ならではのアイテムばかり。
対して、リンの求めてくるお土産とはつまり、お菓子やアクセサリーなどの可愛らしいもの。
ここで、お土産が無いと知られると、リンは不機嫌になってこの依頼期間中の空気が終わる可能性がある。
それだけで済めばいいが、もしかしたら帰ってから生徒仲間から白い目を向けられる可能性すらある。
それは絶対に回避しなければ。
同じくむせている佐藤に目配せをするが、佐藤の表情はキミトとは少し違う。
「ふ、ふふ、シラベさん。そういうと思って用意しているんだな。」
「おっ、意外と気が利くじゃん。」
「こちらです!」
佐藤が自身満々に出したのは、一つの小瓶。
ピンクと紫の間くらいの色をしているのは、その中身の液体のようで、ドリンクだとしたら少ないくらいの量だった。
「ふふふ、こちら惚れ薬ということで、自分と好きな相手の二人で飲めば両想いになれるということです!」
超絶自信満々に差し出す佐藤とは対照的に、リンの顔はあからさまに陰ができ、ちらっと覗く顔には、ここまで綺麗に浮き出るものなのかと、怒りの青筋が立っていた。
「……死ね。」
そう一言呟くと、リンは荒々しく席を離れ、大きな音を立てて自分の部屋に戻っていった。
「それはアカンやろ佐藤君。」
「えぇ?絶対喜ぶと思ったんだけど。」
首をかしげる佐藤を横目に、キミトも早々に食事を切り上げて部屋に戻ることにした。




