64 金色の裏乃キミト
「お前、何か隠してないか?」
そう聞いて来る先生に対して、キミトは何も答えない。
ただ、ちょっと冷静になった頭と、高まったテンションに任せて、ノリノリでポーズをとる。
真剣な厨二と、一筋の小ボケが1つになったような、わかりやすい軽率なガキの行動。
両手の人差し指と中指、そして薬指を合わせて唱える
「『領域○開』!」
「……ふざけているのか?」
「【裏スキル:環境汚染】」
さっきまで張っていた無音の空間よりも数倍大きな結界魔法。
それは、キミトの持つチートで作り出した隔離結界。
外部からの干渉を完全に遮断し、自身に対するバフと敵に対するデバフを両立させることのできる。
なによりの効果は、周囲から見ればただの薄汚い大きな玉のようにしか見えない点。
これによってキミトはその内部で存分にスキルを行使でき、かつ外部からの侵入を防ぐこともできる。
「なんだこれは……【固有スキル】というやつか?」
特定個人にのみ発現する唯一無二の強力なスキルのことを【固有スキル】と呼ぶ。
これによって行使するスキルはどれも強力無比ではあるのだが、その分数は少ない。
勇者の上位は軒並み固有持ちで、ミサキ先生も持っている。
「ちょっと違いますネ!【裏スキル:虚飾】」
見た目を帰るスキルを発動。このスキルの優位点は、ムキムキの筋肉を持つように変身すれば、本当にムキムキの力持ちになれること。
身長2メートルもの巨漢に変身する。
「いったい何が起きているのか分からないが、すこしは戦えそうだな。」
巨大化したキミトに対して大げさなリアクションは無く、淡々と持っていた剣を地面に突き立てる。
そして、何もない空間に手を置くと、そこには平面と立体どちらにも見える魔法陣が現れる。
そこから、刀身が燃えているような剣が現れる。
「【灼刀】」
これがミサキ先生の【固有スキル】……その能力の一つ。
現れるだけで、その空間内の温度が十数度上がったほどの熱量を持つ。そして、その気温上昇は灼刀の在る限りずっと続く。
ミサキ先生への効果は大きくないが、密閉空間では室温上昇の効果はあって、それを受けることも覚悟で出した。
理由は一つ、手足を切断したとしても、即座に焼けて致命にはならないから。
「【裏スキル:憂鬱】」
キミトの拳が紫色のオーラを纏う。それは拘束する対象に発生する印であり、キミトは自分の拳を拘束し強度を上げる方法を編み出していた。
「『正拳突き』!」
これも一応スキルの『体術』の一つである。
対象が岩でもヒビを入れられるくらいの威力がある右拳をミサキ先生に向ける。
「轟亜亜亜亜亜!!」
――――ジュッ
「ぎゃあああ!!?」
当然、燃える剣で上腕部分の中ごろまで切断され、その痛みでもだえる結果となった。
それどころか、熱で肉が焼ける感覚がダイレクトに脳を揺らしてキミトの思考を完全シャットアウト。
しかし、最初からの狙いは達成できた。
「……これはッ」
「しゃああぁああ!!いってぇええええ!!」
キミトの体、特に末端部分は裏スキルで作ったガワでしかなく、再生自体は可能だが、未熟ゆえに神経が通っていてダメージがある。
しかし、触れてしまえばこっちのもので、ミサキ先生の【灼刀】は【憂鬱】の効果でその『空間』に拘束される。
動かせない剣に四苦八苦しているうちに、斬られた腕を再構築。
まだじくじくと痛むが、どうにか見た目だけは治すことができた。
そして、ミサキ先生の本気度を理解し、次手への警戒をする。
何故なら【灼刀】そのものは【固有スキル】ではない。
「……ある程度の搦め手ができるのは理解した。次だ。正攻法の実力を見せてみろ。」
「いや、えっと、正攻法はちょっと」
「じゃあ大人しく切られてくれ。」
ミサキ先生の【固有スキル】は【万武】。あらゆる属性を纏った武具を召喚することが可能となるスキル。
魔力の消費と本人の想像力によって変動し、ありとあらゆる武器、装備を創り出せるが、現時点で同時に発動できる個数は3つ。
キミトの拘束している【灼刀】は消せないらしく、そのまま宙に浮いている。
「次だ。【氷双】」
「ぃや、あの、暴力反対!平和主義万歳!……授かったぁああ!!?」
氷のような双剣を構えたミサキに対して完全に降参の姿勢を見せる。
拘束で3つを封印するつもりだったのだが、先に二つで一対のような武器を出されたためにアドバンテージを消されたから。
しかし、そんなピンチも新しいスキルが発生したため、一つのチャンスが生まれる。
「【裏スキル:節制】」
キミトの全身を黄色のオーラが包む。スーパーで野菜チックなスリー。
もしくは第六の術。
変化していた肉体が解除され、空間の維持が薄れる。
新しい能力の使用に意識が持って行かれている証拠。
「次は何をする?」
「よっしゃぁああ!!強化技だぁああ!!」
「———ッ!?」
叫んだ声はミサキ先生の背後から聞こえた。
注意を外したわけではない、視界から突然消えたキミトに、背後に回り込まれるまで気づかなかったということ。
反射的に【氷双】で迎撃を試みるが、それも失敗に終わる。
それすら見切ったように、そして時間を置いて行っているように再び背後に回り込み、振り抜かれた後の氷の双剣を掴む。
刃の部分を持ったのに傷が無いという超強化。
「先生、降参してください。僕の強さは理解してもらえましたね?」
「……そうだな。」
「よかった、暴力はんぶろっ!!?」
「今のは負けた腹いせだ。」
顔面に良い蹴りを入れられ、強化したハズの鼻から血が噴き出る。
どうやら蹴りと同時に強化が消えたらしい。
発動時間は脅威の10秒ッ!
痛みから、全てのスキルが解除され、元の闘技場に戻った。
ミサキ先生に詰め寄っている騎士と、キミトを心配して近寄ってくるメルク。
当然、勝手な私闘であるとして二人ともお説教を受けることになり、お叱り慣れていないキミトは割とマジでへこむことになった。




