63 裏乃キミトの冒険
裏乃キミトは迷走していた。
必修の基礎訓練時間が終わり、各自の訓練が始まってからというもの、まだ他人に秘密にしている裏スキル以外のスキルを練習し、更に新しいスキルを習得するための訓練を行う。
ステータスがめきめき伸びてまだ楽しい時期の基礎訓練よりも、しんどさが勝つ嫌な訓練。
キミトの持つ表スキルは『剣術』と『体術』と、『魔力増強』と『成長加速』、『簡易分身』などの基本スキルのいくつか。
最近になって魔法補助スキルである『属性魔法:闇』や『魔力熟練:弱』などが発現した程度で、周りの勇者たちも同じくらいのスキルを持っている。
「良いぞキミト!そのまま盾で殴る盾術も習得するんだ!」
汗だくになって片手剣を振っているキミトに対して元気に指導しているのは、騎士のメルク。
身長体格などはキミトに近く、しかし性格は真反対という中々の天敵。
初対面からずっと、なぜかキミトに対してやたら世話を焼く陽キャ騎士に、キミトはいつも振り回されている。
とはいえ、指導力は確かなもので、メルクの指導によっていくつかのスキルが発現しているのは事実。
褒めて伸ばすタイプであることもストレスなく訓練を受けられる要因の一つと言える。
キミトの戦闘スタイルも固まってきて、今はその器用貧乏ぶりを活かした『魔法剣士』スタイルの練習をしている。
魔法を扱う杖の役割を持つ剣を持ち、魔法を通しやすい盾を持つ。
最終的には、剣に魔法を纏わせて斬り、盾に魔法を纏わせてガードする戦い方をする予定。
メルクはそういう想定で訓練をしているのだが、肝心のキミトはそうではなかった。
ついに10個を超えた【裏スキル】を使って実験をしたいと考えながら、最近は自由時間になった深夜帯を使って実験している。
しかしながら、一瞬でパパッと強くなるようなスキルはまだ手に入っておらず、どれもすごいサポート系の能力ばかり。
変身、拘束、状態変化等……
強化系の能力は生えてこなかった。
しかし、それでへこたれるキミトではない。
昨今のチートは単純なものではなく、少しクセの強いものが多い。
そもそもにして、他の勇者たちに出ていない筈の【裏スキル】というものを手に入れている時点でやはり主人公であることは疑いようが無いッ。
キツイ訓練で汗だくになり、息も絶え絶えのキミトの顔からニヤつきが消えないのはそれが主な理由。
そして、そんな笑みを消す可能性が近づいて来る。
「キミト、少し訓練に付き合ってくれ。」
「ひぇっ、センセ、どうしました?」
「お前の態度……妙に真剣さが無い気がしてな。この地獄を甘く見てるみたいなら叩きなおすつもりだ。」
芥ミサキ先生の鋭い視線を受け、キミトの背筋に大量の冷や汗が滴る。
元の世界にいたときの体育会系の溌剌とした印象はどこへやら、目の下にはどす黒い隈ができ、綺麗な肌のあちこちに引っかき傷のようなモノができている。
この異世界の事を地獄と称し、どんな手を使ってでも生徒を守ろうとする修羅に成り果てていた。
ギルドとの提携訓練の際も、引くほど抵抗した挙句、刃傷沙汰になったほど。
「そ、そんなことありませんって!」
「まあいい、模擬戦だ。騎士、どっか行ってろ。」
特に、異世界の人々に対する態度がかなりひどくなっている。
名前で呼ばないどころか、目も合わせなくなっている。
「あくまで訓練だが、半端なら当分はベッドから離れられなくなるぞ。」
「ちょ、ちょ待」
「『連環・鴉通い』」
円を描くような奇妙な斬撃。小盾ではガードするのも難しく、顔を守れば足を、足を守れば首を取られる。
『剣術』スキルの一つだが、習得するのが難しいものらしい。
「だぁあい!!?」
運動神経ゼロな回避方法、受けることをせずにバックステップでとにかく逃げた。
スキルと言えど剣の刃渡り以上の攻撃範囲は無い。
偶然とはいえそれが最善の回避方法だった。
「『瞬速・貫突』」
牙○を放つミサキ先生に、ぎょっとしつつも、ドッジボールで鍛えた回避が冴え渡る。
盾での防御なんて一切、頭の隅にもかすめないほどの完全回避。
そもそも、連撃の間が恐ろしいほどに無くて強化魔法で身体機能を強化する暇も無い。
つまり、喧嘩を売られてから今現在、完全素の状態で二回もスキル由来の攻撃を回避しているということになる。
キミトは運動神経こそ平均以下だが、緊急事態の切り替え力は目を見張るものがあった。
「避けるばかりか?『大車・宴』」
回避させないとばかりに、全身を回転させての三連撃。
全方位への攻撃が可能なスキルだが、回転力に注力すれば、連撃の回数を増やすことも可能。
既に触れられるだけの距離にいたため、キミトの回避能力でも完全回避は不可能で、顔への攻撃は逸らし、小盾で防いだものの、太ももに深めの傷を負ってしまう。
簡単に機動力を封じられ、絶体絶命のピンチ!
ちなみに、ミサキ先生は調子に乗っているキミトを再起不能にしようとしていて、最悪手足を取ってでも生きていれば大丈夫な状態にしてしまおうと考えている。
「わぁああ!!『闇治』!!ぎいいい!!」
叫びながら、自分に使える唯一の回復系魔法を使う。
『闇治』は切り傷などの軽傷なら簡単に治せるが、その際にかなりの苦痛を伴うハズレ系スキルの代表格。
本来の用途は拷問で対象を死なせないためという性格の悪い魔法である。
治癒の能力もそこそこで、切れた筋繊維は繋がったが、皮膚の一部が繋がった少しグロい状態で再生は終わった。
痛みはないが少し痒い。
「『ホロゥバックラー』!『サイレントエリア』!」
遠隔で浮遊する複数の小盾、の幻影。
それに特定の範囲内の音を消す結界魔法。
五感の内聴覚を封印することで、バランスがわずかにずれる。
しかし、それでもなおミサキ先生は止まらない。
「……————」
詠唱は音が出ていなくても有効だが、本来の目的である行使意志の明確化という点でやや効力が落ちる。
デバフとしては非常に便利だが、そのために消費する魔力も多い。
範囲はキミトを中心とした半径10メートル。
しかし、静寂以上の付加は無い。
――――ッキイイィィィイイイイイ
「ばっわぁああ!!?」
何のスキルなのか、詠唱が聞こえないため判別できなかったが、まるで全身にバネでも仕込んでいるかのような動きで、縦横に三連もの斬撃を放って空間を切った。
「お前、何か隠してないか?」
ミサキ先生の視線は更に鋭くなり、キミトを射貫くように睨んできた。




