62 裏乃公人
異世界召喚、勇者、王国、そんなテンプレートが外れてきたのは、やはり彼の失踪からだろうか。
前々から、彼は僕のヒロインであろうと確信があって、ずっと見てきた。
しかし、突然のイベントによって彼は失われ、僕は喪失の数ヶ月を過ごすことになった。
王国の近衛騎士と呼ばれるイケメンや美女の集団を相手に、有意義な実践訓練を行っていても、自分がどれだけ強いスキルに目覚め、魔法も順調に習得していっても、心が芯から踊ることはなかった。
そんな折、ギルドと協力体制をとって行われた実践訓練を終えると、同じく意気消沈していたはずの同志、シオン氏がすっかりとやる気に満ち溢れ、非常に強い意志のある良い面をするようになっていた。
僕は何かを感づき、しかしながら自身にぬか喜びすまいという暗示に似たものをかけ、その事実を究明するまで、疑問を言葉にすることはなかった。
その間の、変化について綴るとすると、
シオン氏の態度が、以前よりも更に軟化し、まさしく噂に聞く聖女のようになっていったこと。
高校では、いくつものクラスにその名が轟くほどに有名で、美貌と性格と成績と、天がいくつ与えたかと言われるほどに優秀無比な彼女ではあったが、ファンではない者の視点で見ると、明らかにその対応は平等に関心が無いように感じられた。
今でも、その様子に変わりは無く、笑顔の目の中にはいつも無表情が隠れていて、見ている僕は毎度背筋が凍る思いではあるが、しかしながら周囲にはそれが好評のようで、彼女の城内人気はうなぎのぼり。
生徒篭絡用のイケメン執事も、逆にガチ惚れさせてしまうほどに、その所作は花の如し。
更に言うと、他人を気遣うフリに力を込めているようで、いわゆる聖女派と呼ばれるファンクラブは日に日に勢力を広げており、なんと王子の数人までもが加入しているらしい。
僕自身も、対立したいわけではないので、一応という形で勧誘された際に加入している。
話は変わり、生徒たちはこの数ヶ月間で実力がはっきりと分かれてきた。
ステータスを見る限りでの上位は、松田聖夜、シオン氏、金谷、モモカ氏であるが、特殊技能や一芸に秀でた者も数人いるようで、オゼキ氏などは依頼先で手に入れたという謎の杖の力なのか、オリジナル魔法『圧界』なども更に凶悪な性能になりつつある様子。
詳しく聞こうにも、どうやら避けられているらしく聞き取りは困難な状況。
同志なのだから、仲良くしたいところではあるが、無理強いするつもりはない。
松田聖夜と言えば、更に実力を伸ばしているらしく、ステータスだけならば近衛兵の平均を超え、スキルもそこそこ強くなり、第一騎士団長に攻撃を当てることもできるようになっているとのこと。
不得意(自称)な魔法も、更に習得し成長熟練しているらしく、強化系の魔法にだけ注力すれば、一部のステータスを倍以上にすることも可能らしい。
同じ時間だけ訓練しているハズなのに、ずいぶんと差をつけられてしまったようだ。
とはいえ、よほどの落第生なども無く、一番ドベの佐藤三兄弟でも、本当に悪いわけではない。
ステータスや実践での行動を成績として貼りだしたとき、三兄弟がワーストを占めていたために目立っただけの話。
とはいえ、我々生徒たちは順調に成長しているわけだが、ここまでは良い面を強調して話している。
もちろん、彼がいなくなってから悪くなった所もあるわけで。
アクタミサキ先生氏。彼女はより強くなることを望み、あまりにも無茶な訓練を繰り返した結果、セイヤに次ぐ実力を手に入れはしたものの、その鬼気迫る姿から人との関わりが犠牲になっている様子。
特に生徒の危険に敏感らしく、新しい依頼を受けに行く時は常にピリピリしている空気を出してる。
とまあ、色々と変わってしまったクラス内ではあるが、一番変化があったのは僕であると自負している。
元々はクラスの陰キャ枠でしかなかった僕が、異世界に来てから大切な人との別れを経験して一皮むけたと言っても過言ではない。
主人公然とした人達に囲まれた『裏主人公』である僕。
『裏乃公人』が、この物語の主人公!!
と、テンションが上がったため色々と叫んでしまったが、僕が裏主人公枠で確定的と思ったのは、彼が消えた次の日のこと。
ステータスという非日常的な画面に慣れてきた頃。成長して伸びてきたステータスを死んだ目で見ていたところ、スキルの欄に異常を見た。
それは、他と違うカッコで縁取られたスキル。
【裏スキル:憂鬱】
【裏スキル:虚飾】
そういう知識にも一通り精通している僕は即座に理解し、そのうえで興奮を覚えた。
七つの大罪だとか、八つの枢要罪だとか、そういうことだというのも分かっている。そういうの大好き。
だからこそ、このチート(推定)スキルの保有者が世界中にいるとか、逆に僕のスキルとして今後目覚めていくのかもしれないと、妄想が膨らむところではあるんだが。
話を戻してその二つのスキルについて隠れて実験をしてみたところ、本当にチートスキルだった。
【憂鬱】は一言で言えば拘束系。一度に使える対象が3つと制限があるものの、対象にかけることで『現状維持』を強制できる。
【虚飾】は見た目を変化させることができるらしい。これは幻術の類ではなく、本当に肉体を変化させているようで、感覚があり、機能として成立しているらしい。しかし、他の生物に変えるのは難しいらしく、自分の腕を増やそうとして痛い目を見た。
持っていれば最強というわけではないが、かなり便利な能力で実験は大いに捗った。
そして、僕のチートはそれだけでは終わらなかった。
日が経つごとに増えていく僕のチート裏スキル。
ログインボーナスでももらっているかのように増えていく能力に、検証が追いつかなくなることも何度か。
表の評価でセイヤに大きく下回る僕が、たった一ヶ月程度で、最強勇者を追い抜くほどのチートを得た。
いや、うん、まあ、あの勇者を追い抜いたっていうのは、ちょっと過言かも……
ステータスが軒並み1000以上で、スキルの習得数も馬鹿みたいに多いらしいし。
僕なんて、裏スキル以外の純正スキルは5つくらいしか覚えられてないし。
うん、まあ、とにかく。
そういう感じです……




