57 模擬戦
結果から言うと、ネオオーガだろうがガーボンの前にはただのデカめの的だった。
その鉄塊のような拳の一振りで、2メートルを超えた巨躯が木っ端みじんになる程。
「リューも見た目以上の馬鹿力だけど、ガーボンはそれ以上かも。」
そのエリサの一言が、リュウコのプライドを傷つけた。
「ほーぅ」
「ほほぅ」
「……?」
リュウコとガーボン、二人から出てくる独特な雰囲気に、乙女なエリサは戸惑いを隠せない。
男が二人いて、どちらの方が力が強いかなんて話題になれば、こういう空気になるのもやむなし。
気づいたときには、二人は適度な距離をとって対面していた。
「「じゃあ、やるか」」
片方は、身長が1メートルと中ごろの超小柄。平均的な男性よりもかなり小さいのが特徴的な、髪の長さと相まっても少女のようにしか見えない少年。
対して、もう一人は身長が2メートルを超えてかなりある超大柄、筋肉の量はそれに比例するように膨張していて、遠目からではその身長を見誤る程。
倍近い対格差の二人だが、滲み出る空気、オーラのようなものは同じくらいの威圧感があり、周囲の魔物は上級までもが遠くに距離をとってしまう。
仲間であるはずのエリサも例外ではなく、全身に走る鳥肌に耐えつつ、10メートルほどの離れた場所をキープ。
いわゆる一触即発。
「拳のみ」
「失神か降参で決着」
「じゃあ」
「「勝負!!」」
―――――ドバキィイイイイイイ!!!!
平原中に響き渡るような、異質な破壊音がした。
それは、リュウコとガーボンの子供と大人ほどの差がある拳が打ち合った音。
どちらの拳も音に見合わず無傷な様子で、その威力に臆することも無い。
二人とも、次の拳を構えている。
―――ズバンッッ!!
―――ドゴッッ!!
――――バシィィイイイイ!!
打撃音は規則的で淀みなく、それが響くたびに周囲の魔物は一歩また一歩と逃げていく。
魔力無しの素手の殴り合い。普通なら血の一つや二つ滲んでもおかしくないのに
「はっはっははははは!!!!」
「がはははははっははっは!!!!」
まるで無傷の両手に、更なる加速を込めてぶん殴る。
殺意は無い、敵意も害意も込めない。ただ真摯な気持ちを込めてぶん殴る。
「いいな!!良いマッスルだガーボン!!」
「強いのぉおお!!お主の事を見誤っていたぞ!リュウウウウ!!!」
二人ともテンションが上がると声が大きくなるタイプらしく、とにかく殴っている合間に叫びあって楽しそうにしている。
それを遠目に見ているエリサには、漢の世界が理解できず、衝撃に驚きつつも阿保を見る目で見つめていた。
「ホントバカ」
◇◆◇
拳での撃ち合い、時間にして10分程度の短い間だったが、それぞれが互いの実力を理解するには十分な時間だった。
「よぉおおし!!次は魔力有りだな!!我が魔力は大層強いぞおおお!!」
水色と黄色に近いような色の魔力が、ガーボンの両手に纏わりついて、その拳にあった微小な傷が消えていった。
あれはつまり、【神聖】の属性による治癒ということだろう。
それに倣って、リュウコも両手に【無】属性の魔力を纏う。
「ぬぅ?属性魔法は扱わんか?」
「使えない。属性なんて高尚なモンは持ってない……です!!」
魔力を篭手のように纏い扱う『魔力拳』。その力は硬度に極振りしている。
ガーボンの、砕けてもすぐに再生する拳VSリュウコの壊れた端から再生する篭手の戦い。
矛矛の戦いに決着は見えるのか!?
「『神聖発頸』!!」
「破技、鬼殺しぃ!!」
拳に合う掌底、その衝撃は骨を伝って胴体にまで伝わる。
発頸というのだから、その性質は内部破壊なのは間違いない。
筋肉を締めようが、骨が上部だろうが、それは当然のようにリュウコの体を貫いて。
そのまま傷を残さなかった。
「……!?」
「【神聖】はそのまま使えば魔物に強く人間にやさしい属性!殴ってできた傷を治癒する程度は造作もないことよ!!」
「ありがとよぉおお!!」
そう言いながらボディに対して拳を打ち抜く。
内部に伝わる衝撃なんてものを使いこなせるわけではないリュウコは、ただ拳に更なる気持ちを込めてぶん殴る。
ただ、今までと違う点というのは、『宝力』を込めて殴ったくらい。
「ぐぼっはぁあああっはっはは!!!」
腹に拳がめり込んで大変な状態になっているというのに、ガーボンの笑い声は止まらない。
何が面白いのか分からないどころか、もはやうめき声以外ありえない状況でありながら、その口からは血と一緒に笑い声だけが響き渡る。
「良いぞおおおおお!!もっと来いぃいいいい!!」
怒気でも殺気でもなく、鬼気というべきその異様に、リュウコの気が押されてしまう。
ただの戦闘なら突かれるだけの隙ではあるが、これはただの模擬戦で命の奪い合いではない。
だから、これはただの小突きでしかなく。
「隙ありぃいいいい!!」
「ぐぼっほおおおおぉぉっっっ!!!?」
脇腹を貫くような拳でドつかれ、筋肉の隙間から内臓を揺らす衝撃で、胃袋がひっくり返ったかと思うダメージを受けた。
内部を貫く宝力の波動で、色々なモノをぶちまけたリュウコは、数メートルほど吹っ飛んで気絶してしまった。
◇◆◇
目覚めは、死ぬほど熱い水を顔面にかけられたことだった。
「ぶわっちゃぁああいいいい!!!!?」
今まで受けた何よりも、無抵抗で受けた熱湯の威力はすさまじく、意識の覚醒にここまで効果的なものは無いと断言できるだけの横暴があった。
「え!?は!?うっそだろおぃ!!」
「大丈夫だ!皮膚が爛れようと【神聖】で回復できる!」
「だからってこれは無いわボゲェ!!」
怒り心頭で口汚いリュウコに対して、それを嗤うかのように笑っているガーボンの恐ろしさ。
もはや狂気と言っても良い領域の精神性に、恐怖が隠せない。
「第二ラウンドだぁ!!次は絶対ぶっ倒す!!」
恐怖が……隠せない?
「バッカじゃないの!?」
「んどぅるぶッ!!?」
殴りつけられた頭部の衝撃の余韻で、少しだけ冷静さを取り戻す。
頭に昇った血が、ダラリと流れて地面に落ちる。
さすった手にも血がついているが、それは特に気にならない。
「ぬぉっ!?エリサ!?それはさすがにマズいぞ!!?」
「良いのよ!どうせリューは無敵で死なないんだから!」
「えぇ……剣の側面で殴ったの……?」
ガーボンの豪気より、エリサの信頼と天然から来る暴力で、二つの意味で頭の血が抜けていく。
流石にその暴挙は二人にとって予想外で、落ち着いたガーボンが頭に手を乗せて【神聖】で治癒を施してくれる。
二回戦に突入しそうだった模擬戦はお開き、暫定勝者はガーボン。
リュウコ達のパーティの前衛が決定した。




