56 破戒僧
結局、次の日になっても駄々下がりのテンションは元に戻らず、リュウコは浮かない顔のままエリサと共に依頼を受けることに
「この前のホロゥゴブリンって、ちゃんと一人で倒せたの?」
「ぁあ、うん。なんかこう、頑張ってぶっ殺した。」
「えぇ……大丈夫なのそれ」
「——はっはっは!!ホロゥは頑張っただけじゃ倒せねぇよ!!」
エリサとの会話に割って入ってくるのは、豪快で活気溢れる男の声。
ドスンドスンと、重量感のある足音を響かせて近づいてきたのは、リュウコの身長を無視しても明らかに大きな巨漢だった。
「オイラぁ僧侶をやってるガーボン。アンタらの話を聞いたが、【神聖】を使える僧侶をパーティに入れる気はねェかい!?」
図体と同じように声まで大きい。
特徴的なのはその照明の光を反射する綺麗な禿頭と、反対に胸板まで届く顎髭。
僧侶というにはあまりにもバンプしすぎな見た目に、二人は戸惑いを隠せない。
しかし、そこで一つの違和感に気づいたエリサが突っ込む。
「【神聖】まで使えるのなら、僧侶じゃなくて神官になっているハズよ。使えないケド神官って人は見たことあるけど、【神聖】を使う僧侶なんて聞いたこと無いわ」
堂々と言い切るエリサに、そうなんだと新しい知見を得たリュウコ。
その発言に対しても、豪快な笑いで吹き飛ばすように
「なんせオイラぁ破戒僧だからな!神官なんて偉いヤツにゃ成れねェよ!!」
堂々と宣言していく。
ここまで来たら、どんな悪党だろうとよい人に見えてしまうかもしれない。
そう破戒僧とは、広義的には悪党だ。
そもそも、僧侶を束ねる神官。その神官はなんの神に仕えているのか。
それは、神聖国ヤメランで強く信仰されている『主神』である。
その教義のメインは『人間至上主義』
魔物はもちろん、亜人を人とは扱わず、人類のみを人として扱う宗教。
もちろん世界に広がる神聖教徒は魔物に強い効果を持つ【神聖】を崇拝し、魔人の扱う【闇】系の属性を忌避するだけの簡易なもので、過激なのは神聖国の原理主義たちだけ。
オロクルの僧侶や神官は、ただの【聖】や【神聖】の属性が使えるだけの人と考えて良い。
そういった背景の中での破戒僧というのがどういう立場になるのか。
「破戒僧ね。教義を押し付けられない分は良いけど、仲間にしたら結構目立つわね。」
神聖国では人権すら無いものとして扱われるような破戒僧でも、他の国では亜人も普通に人として扱うタイプの僧侶として、割と普通に受け入れられている。
とはいえ、破戒僧という名称から、仲間にする場合は相応の覚悟が必要となる。
「くかかかっ!!オイラは訳あってC級だが、力には自信がある。見ろ!この山のような筋肉を!!」
そう言って、上腕二頭筋をこれでもかと膨らませるガーボン。
その言に偽りは無く、光沢のある岩石のような筋肉。新人看護師でも簡単に注射針が刺せそうなぶっとい血管。
そのためだけに肌寒い季節になってもノースリーブなのかと思ってしまうほど、その肉体美は本物。
「ヨロシク、頼もしい筋肉です。」
「応!!見所の分かっている男よォ!!」
「……ぇ、この筋肉ダルマ、本当にパーティに加えるの?リュー!?ねぇ!!」
状況が飲み込めず、突然加入が決定した筋肉男ガーボンに対して、エリサはあまり乗り気ではない様子。
対して、リュウコは完全に筋肉に魅了、もとい打ち解けていった。
◇◆◇
ガーボン参入の記念として、その実力を測るべくB級のホロゥ系討伐依頼を探した。
しかし、ホロゥはかなりレアな存在でその数は少ない。そのため、都合良くそういった依頼を見つけることはできなかった。
「【神聖】って回復とか強化バフとかも使えるんですよね。」
「応!一通りの魔法は習得してるぜィ!!」
ということなので、B級の討伐依頼を探すことに、10分程吟味した結果。
『ネオオーガの討伐』というものを発見。
ネオオーガ、声に出すと呼びにくいし、文字でも読みにくいが、そういうオーガの上位種が存在している。
ラット事件の時に戦ったホロゥオーガと同じ階級だが、ホロゥ特有の難易度ではなく、順当に強い化け物ということになる。
「オーガか!善い好い!この筋肉の錆にしてくれる!」
よくわからないが、すごい自信があるらしいガーボンが率先して受付に持って行く。
それと同時に、リュウコ達のパーティに加入するという手続きも済ませた。
「今回はガーボンさんとの競合パーティではなく、完全に加入という形ですね。少々お待ちください。」
「競合パーティって?」
「……そうでしたね。競合パーティは複数のパーティが1つの依頼を受ける形式のことです。大規模な依頼などで主に活用される制度ですが、難易度の高い依頼などでも使われることが―――では、こちらにサインを。」
別の受付嬢から回された書類に、三人の署名を行うと、それでパーティが完了したらしい。
話をしながらも手続きの作業をしていたため、非常にスムーズに済む。
「この話は、必要になったときにまた話しましょう。それか、また今度食事でも?」
「ぃえ……その、遠慮しておきます。」
リュウコに対して、受付嬢ではないミルルとしての表情を見せ、ウィンクまでしてきたことに、リュウコは色々な意味でドキッとする。
エリサの視線が尋常ではない鋭さでリュウコに向かっていたから。
「では、ネオオーガの討伐。お気をつけて」
爆弾だけ残して、ミルルはリュウコ達を見送った。
◇◆◇
ネオオーガは、商街から南東、コロポの里から脱出したリュウコが商街に来たときのルートと同様。あの魔境の近くになる。
「がっはははは!!!」
何が面白いのか分からないが、とにかく笑っているガーボンと、その声に耳が痛くて塞いでる二人。
大小小という構成の奇妙なパーティではある。
ガーボンはちょくちょく出てくる中級程度の魔物を片っ端からぶん殴っては殺して魔核にしている。
道中でのリュウコとエリサに出番は無く、完全に長距離の散歩でしかない。
「ほいっ!えいやっ!」
なんとも軽い掛け声で、中型の魔物をバンバン殴り殺すのだから緊張感も何もない。
この調子なら、ネオオーガだろうがハイオーガだろうが、一振りで殴殺してしまいそうな勢い。
「ふんっ!ぜあっ!!」
大型の魔物相手でも、少しだけ殴るときの掛け声が強くなっただけという始末。
本当に散歩程度の苦労で終わってしまった。
「ここが依頼の場所か!!」
そんなこんなでたどり着いた草原の一角。
鬼系の魔物が跋扈している地帯ではあるが、ガーボンの圧で雑魚の魔物は寄ってこない分、強い魔物が分かりやすい。
つまり、残っている大型の鬼が、目的の『ネオオーガ』。
「GUGYAAAAAAAA!!!!」
「やかましいぃいいいいい!!!!」
その咆哮ですら、ガーボンには遥かに負けているわけだが。




