55 浪漫
ラットの異変から更に数日が経過し、リュウコはごく稀にある休日を楽しんでいた。
とはいえ、借りている宿にエリサが来ているため、休日というよりも依頼に行かないだけの日という感じだが。
「で、この前の剣みたいなのを作るの?」
「そう、意外と加工とかが好きみたいで、『紋』を使った実験とかも熱中してる。」
中古品の市場で、かなりの量の鎧や脛当てなどの装備品を買い占めていた。
殆どすっからかんになった品物を見て喜んでいる様子の店主を何人か見た。
「これとか、もう残骸じゃない」
そう言って中古品の山から引きずり出したのは、半分以上が燃えたのか黒く焦げている胸当て。
一見すれば、というか、本当に完全な残骸。なんで中古で売っていたのか。
「こういうのは」
エリサから受け取り、リュウコは胸当てを手の中で1センチ四方に切り刻む。
こうして鉄屑となったものは『異界』に収納。後に溶かすことでリサイクルする予定。
つまり、こういう残骸を先に処分してから、本当の楽しみが始まる。
「はい、あとこれは?」
「はい、それはとっとく」
エリサの手伝いもあり、かなりの速度で山の仕分けは終わった。
それでも、中古品の山が小山になった程度で、座っているリュウコよりも背が高い。
「付属の部品を外して」
装備品は全てが鉄ということは無く、基本的に体に装着するための革製のベルトなどもついている。
加工するにあたってそれでは不便なので、手分けして取り外す。
仕分けとその作業で、丁度一時間くらいかかった。
「火使うから、地下行こう」
前に鉄を溶かしているのが匂いでバレてから、宿の人にはそういうことは地下室でやるように言われている。
そのため、仕訳けたものを一旦『異界』に入れて、宿の地下室へと移動した。
宿の地下室と言っても、全ての壁が石造りの非常にしっかりとした作りの、それなりに広い地下室。
ここら一帯の宿で地下室があるのは珍しいらしく、土地の権利等があやふやなこの街では宿の土地面積よりも広い地下くらい普通にあるらしい。
そんなこんなで、とにかく広大な地下室での実験が始まり、まず最初にやったのは。
「うっそでしょぉおおお!!?【展装】ぅううう!!」
「よしッ!そのままくっ付けてぇええええ!!」
エリサの【展装】による熱の蓄積を利用した融解と、魔力で無理矢理形状を固定するという荒業。
これで、特注の装備品を作ることが可能になる。
「しゃぁ一丁ぅ!!」
「はぁッ、はぁッ。え、これ何個やるの?」
「あるだけ全部。脛当て、腿当て、胸当て、篭手、兜。それぞれ50個くらいあるから。」
「う、噓でしょぉおおおお!!?!」
地下室に響き渡るエリサの声。
その全てを加工し終える頃には、エリサの魔力は殆ど残っていなかった。
◇◆◇
午前中全てを装備の加工に使った後、リュウコ手製の昼食をとっていた。
「結局、エリサの【展装】は生物に使うと危険なんだよね。」
「……ええ、そうね。【展装】で火を纏えば鉄を溶かす温度に耐える必要がある。水や風は影響ないこともあるけど、それも確実じゃない。」
「ウルフ相手に使ってたのを見たから分かる。」
ウルフ相手に火の【展装】を行った時、相手が同じ炎の属性でも内側から爆発するように火が出て、一瞬のうちに絶命していたのを見た。
「【展装】はやろうと思えばなんにでも纏わせることができる。けど、その火力の調整は難しくて、加減に集中力がいる。戦闘中にはできない。」
「ありがとう。」
「……なにが?」
「それ、言うの嫌がってたから。教えてくれたのがうれしくて。」
最初の頃は、【展装】について細かいことを聞こうとするといつも不機嫌になってどこかに消えていった。
話したくない理由は知らないが、できるだけ聞かないようにしていた。
だが、何となく今の雰囲気なら聞けるかもしれないと思った。
「リューの秘密を知ったから。不公平じゃない。」
「そっか。ありがとう。」
なんとなく気恥ずかしくなって、食べ終わるまでの間、少しだけなんの会話も無くなった。
でも、それは悪い意味ではなくて、むしろ逆に―――
◇◆◇
「ねえ、手伝うこととか無いの?暇ぁ」
「『紋』は殆どこういう地道な作業だからね。そっちの方もエリサが自由にしていいから」
「いいわよ。こんなだし。」
エリサは既に『紋』の練習を行っているが、結果は悲惨なことに
魔力の籠め方が粗すぎて破損が3回、『紋』に矛盾があり機能不良が5回。
むしゃくしゃして破壊が2回。
そんなこんなで残骸になったものを山にしているのだが
「あ……そういえば」
修復不可能なモノを刻んだ残骸を忘れていた。
鉄屑の山はまだまだ大量にあるため、一旦『紋』を中止して、そっちを溶かしてどうにかすることに
「ふんぎぎぎぐぃいい!!結局こうなるのぉおお!!」
「しゃぁあああああい!!!」
全ての鉄屑を形ある装備っぽく加工し終えた後、エリサがリタイアしてから夜になるまで、リュウコはずっと『紋』を書き続け。
描き続け、書き続け、書き続け。
「リュー、アンタ……徹夜でやってたの!?」
再びエリサが宿に訪問してくるまでの間、装備の改造を止めなかった。
◇◆◇
水で体を洗って軽くさっぱりしたリュウコは、そのままエリサと作った装備品の調整を行っていた。
本当は依頼を受ける予定だったのだが、リュウコが一睡もしていないということで危険だと判断。ある程度試作品が大量に積まれているため、そっちを試してからリュウコには十分な睡眠をとらせることにした。
「うん、サイズはピッタリね!」
ベルトを付けなおしてから、エリサの体に当ててベルトでキツくない程度に締める。
篭手2、肩当2、胸当て、腰当、腿当て2、脛当て2、靴2
それぞれに大量の『紋』を書き込み、強度を底上げし形状の維持を命令している。
いくつもの『紋』を書き込み、その数は少なくて4つ、多くて8つ。
「結構可愛い感じで、悪くないわ。名前はセンス無いけど」
「え、『Eアーマーセット』だめ?」
「だめっていうか、もうそこまで来たら名前無くていい。」
そうは言うが、識別というかある程度そういうノリというかで、名前が欲しいと思って名付けている。深夜テンションもある。
「じゃあ、試すわ。【展装】!!」
炎を纏って真っ赤に染まる装備達。
しかし、接しているエリサ自身や、その間にある服に熱が伝わっているわけではない。
ちゃんと装備者の安全も考慮した『紋』を書いている。
「良いわね!……でも、これって何になるの?」
「えっ……」
「剣に炎を纏わせるのは攻撃力上昇ってわかるけど、鎧に纏っても意味なくない?」
「———!!?」
完全に盲点を突かれた。思考が疎かになって、完全に目先の楽しさに囚われすぎていた。
「……一旦、装備の改造は凍結。【展装】無しでもある程度硬い装備だから、そのまま使って。」
あからさまにテンションの落ちたリュウコにどう声をかけていいか分からないまま、エリサはその日は帰っていった。
残ったリュウコは地下室を片付けて、昼になる前には眠気のままにベッドで横になって眠ってしまった。




