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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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53 元一般人の勇者

 次の日になってからも、リュウコの修羅場は終わらなかった。

 というよりも、時間が経過するごとに酷く荒々しくなっていき、ランとエリサは特にソリというものが合わないらしく、ことあるごとに言い争いを繰り返していた。


 騎士のサムの気遣いによって、帰還する前に一日だけ休日として自由にしてもらったらしい。

 サムはリュウコの存在を知らず、ランとシオンによって誤魔化してもらっている。


 ここ数日で見慣れ親しんだ街並みなのに、動悸は止まらず冷や汗が溢れている。


「リュウコ君……」

「で、こっちの女はなんでこんなにべったりなのよ。」


 二人の喧嘩そっちのけで、リュウコの腕に絡みつくようにしているシオン。

どちらもの痛い視線も気づかないし、腕が既に鬱血するくらいに締め付けられている。

 昨晩も無理やり部屋から引きずり出さないとそのまま一緒に寝そうなほど、絶対に離れなかった。


「リュウコと一番仲良かったからね。目の前で消えたとも聞いたし」

「消えたってどういうこと?」

「『コロポの里』ってところでネクロタクルって魔物に襲われたことがあってね」


 特に止めることでもないので、ことの経緯について軽い説明をするランを見守る。

 言われて困るようなことも無いため、口を挟まないでいるが


「リューはその、消えた後はどうしてたの?」

「コロポの里の地下でめちゃくちゃ修行してた。」

「修行って……」


 事実を端的に伝えたのだが、それでもエリサは半信半疑といったところ。

実際、リュウコ自身でさえも第三者からその説明をされたら疑う確信がある。


「その時に集めた大量の魔核でB級にまで昇級した。かなり強くなったから『進化変異』相手でも戦えた。」

「アンタの実力についても、元勇者ってことについても、別に疑ってないの。でも、スケールが大きすぎてよくわからないのよね。」


 手で大きさを表して、困惑を示すエリサに、同意を伝えて話を続ける。

コロポの里から出てからのこと、何故戻るつもりが無いのか。

 ランやシオンにも伝わるように、自分の気持ちもかみ砕いて話す。


「じゃあ、本当にこの世界で色々旅したいってこと?」

「はい」

「私達も一緒に行ってはいけないの?」

「はい、危険すぎます」

「エリサは良いの?」

「……」


 詰めてくるランに痛い質問をされて押し黙る。

リュウコは確かに、エリサだけを別枠として扱いすぎている。


「ちょっと外に行こうか。街の外」


 そう言ったランの提案に従い、人気の少ない北西の墓地の近くに来た。

リュウコが『ホロゥゴブリン』の討伐をした場所。


 その近くの広場、何もない寂れた空間で、四人は適当に散らばる。

リュウコは何も無く仁王立ち。ランはその正面に立ち、シオンを片手で掴む。

 エリサは少し離れた場所から、話し合いの趨勢を見守っている。


「あのさ、多分誤か――」

「『圧界』」


 リュウコの言葉を切り捨てるように発生する風の檻。

複数のラットがミンチになる程の圧力を持つ密閉空間を作り出すランの最大魔法。


「ランちゃん!?なにやってるの!!」

「私!リュウコと一緒に行けるくらい強いって証明するから!」


 叫ぶシオンに負けないくらいの声量で怒鳴るラン。

鬼気迫る表情をしているランと、地面すら抉り取るように発生した『圧界』に、エリサは無反応。

 肝が据わっているという次元をはるかに超えた落ち着きを見せている。


「リュウコ君!リュウコ君!!」


 取り乱しているのは『圧界』の破壊力を目の当たりにしていて、かつリュウコの強さを未だに見たことが無いシオンだけ。


―――バリッ

「誤解だから、エリサを特別扱いしてるわけじゃない。」


 まるで紙でも破るかのように『圧界』を破ったリュウコは、平然と弁明の続きを話し始める。

 その光景に理解が及ばない二人だったが、それよりもリュウコの一言が逆鱗に触れた。


「エリサは君たちより強いんだ。」

「———ッ」


 二人、特にランがリュウコの目に見たものは、絶対的な信頼。

その先が自分に向いていないことを理解するだけで、腹の底から溶岩のような熱があふれ出して


「じゃあ試すから!!」

「ちょっ!?」


 ランは標的をエリサに定めなおしたようで『圧界』の対象にした。

風の空間に閉じ込められたエリサに、リュウコは反射的に魔法で防御を張ろうとしたが、グッと腹に力を入れて押し止まる。


「———助けなさいよね。【展装】」

「————ッ」


 周囲に纏っていた風、それを全て掌握して、自身の持つ剣『Eソード3号』に集めてしまったエリサは、動かなかったリュウコに悪態をつく。

 別段傷を負うレベルの魔法ではなかったものの、それでも動くか否かという選択の結果に文句をつけたくなる。


「『圧界』って言ったっけ?ソレくらいD級の冒険者でも対策できるわ。」

「くっ!」


 クソと言い切る前に押しとどまったランを賞賛するべきか、『圧界』を防ぐための実力はC級以上が必要そうだと見立てを訂正するべきか。

 呑気なことを考えているリュウコとは違い、顔を真っ赤にして怒っているランはブレーキが壊れてしまったようで。


「んぐぐぐぐぐぅ!!『圧界』!!!」


 何もない空間に微小サイズの『圧界』を発生させると、それを縦横無尽に振り回し始める。

 内側に閉じ込めて削り殺すものを、別の用途で使う柔軟な発想。

 『圧界』特有の掘削能力によって、地面や空気がガリガリと削られている。


「【展装】」


 しかし、それもエリサの剣が纏った風に打ち負ける程度。

応用を覚えたところで、魔力の出力に問題があるため効果はそう高くない。


「んんんんん!!!」


 力みながら魔力を練り出そうとしているランだが、それももう叶わない。


「もう決まったよ。その実力じゃ、絶対に連れていくことはできない。」

「んぃいいいい!!!!———かっ」


 魔力を根本からせき止めて意識を奪う。

油断している相手にしかできない方法だが、怒りで我を失っているランには効果的だった。


「エリサさん……」

「なによ。てか、アンタ初めてアタシの名前呼んだわね」


 昨日からずっとリュウコの名前しか呼ばなかったシオンが、初めてエリサの事を見た。


「あなたに勝てばいいんですよね。」


 ドロッとした殺意と共に練り上げられているのは魔力と『魂力』

未知すら知らないようなエリサには理解できていないが、シオンは『魂力』を使っている。


「『零氷聖体』」


 体に纏ったのは【零】と【氷】と【神聖】の魔力。

そして、純粋なシオンの、産まれたときから在った『魂力』

 その二つが絶え間なく循環することで、シオンの身体に強大な恩恵をもたらす。


「———シィッ」

「え……?」


 エリサの動体視力ではまるで捉えられないほどの速度で、急接近したシオン。

 当然反応できないエリサの首元に接近するシオンの拳に、待ったをかける。


「エリサ試験は合格。リュウコ試験を始めよう」


 黒く凍った拳を受け止めて、第二の試験が始まった。

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