52 超修羅場
「ねぇ、私達がどれだけ心配したか分かる?」
「はい……」
「なあオゼキ、その辺で……」
「馬鹿は黙ってて!」
結局、重傷のシオンを出口に運び、カオミとイッセイの二人と合流した後、ランに激詰めされたリュウコはその場で正座して反省を促されていた。
「とにかく、サムさんに色々説明して、依頼主に挨拶してから、一緒に帰るからね!」
「あの、それなんですけど」
「なに?」
「一緒には帰れません。」
ハッキリと伝えたことに、ランも他二人も呆けた顔でフリーズする。
「……ぇ?」
「……どぅえ!?」
帰還しないという意志を伝えたところ、ランが無表情のまま滝のような涙を流し始めたため、リュウコも驚いてバッと立ち上がる。
脱水症状待ったなしと言わんばかりの大量の涙に、横の二人も驚きの顔を見せる。
「えっ、ちょ、なん、えぇ!?」
「なんで一緒に帰れないの!!」
困惑しているリュウコの体に手を回し、万力のような力で抱き締めてくる。
リュウコが鍛えた肉体を持たない一般人なら、今頃肋骨が外に出てる。
クラスメイトが号泣しながら抱き着いて来るというイベントを経験したことがないリュウコは、それ相応に困惑し何をするべきか分からない。
そんなリュウコに訪れるのは、次なる修羅場
「リュー!アンタなにやってんのよ!?」
「あびゅ」
騎士のような恰好をした男を連れたエリサが、ヴェルモ伯邸の近くに来たのは、まったく偶然ではない。
別行動だったはずなのにいきなり待機場所に飛んできて異変の場所を教えてもらって飛んできたのだから、それを追ってくるのは必然。
そして問題は、リュウコに抱き着いている女がいて、エリサにそれを目撃されたこと。
「女といちゃつくためにあんな急いでたっていうのぉおお!!?」
「リュウコぉ!あの女がいるから!?ねぇ!ねぇってば!!」
「あばばば」
ランにホールドされたまま、エリサに首を絞められ、リュウコはこの世界で一番死にかけた。
◇◆◇
結局リュウコの宿にランが来る形になり、他メンツは自分たちの宿に戻っていった。
サムと名乗った騎士が最後までランを説得していたのだが、それでも頑なに拒否するので、仕方なく置いて行かれた。
できれば連れて帰ってほしかった。
「で、リュー。これはどういうこと?」
「リュウコ、この女とはどういう関係なの?」
未だに詰められているリュウコは、心の中で自分は悪くないと思いつつも、それを口に出す勇気は無く、ただどうにか誤魔化せる言い訳を考えていた。
「ねえ、とにかくなんで一緒に帰れないのか教えてよ。」
黙り込んでいるリュウコに対して、埒が明かないと感じたのか、ランは別の方に切り出すことで、回答を促して来た。
「……あの、できれば異世界で好きに生きてみたくて」
一応あらかじめ用意していた言い訳を答えることでどうにか誤魔化すが、ランの視線はリュウコに突き刺さるばかりで止まらない。
時でも止まったかのような空気の中で、今度はエリサの方が突っ込んでくる。
「ねえ、つまりなんだけど、リューは勇者の一人だったってこと?」
「……はい、そうです。」
「なんで仲間のアタシに秘密にしてたの?」
「……勇者だってことは誰にも知られずにいたかったので」
「でさ、アレクサンドラ姉さまの事を知ってて近づいたの?」
「……?」
知らない名前が出てきたことで、リュウコは返答に困り首をかしげる。
騎士の人たちの名前などはあまり忘れてはいないが、そんな名前に心当たりが無いから。
その反応を見たエリサは少しだけ表情をやわらげて、緊張感が薄まる。
「いいわ。今回は許すけど、他に秘密があるなら先に喋っておいて、絶対に守るから」
そう言ってくれるエリサだが、その言葉を疑うことは無い。
エリサはたとえ命が危険になってもリュウコの秘密を守ってくれる。
数日の付き合いではあるが、それが実感できるだけの関係経験がある。
「ねえ、リュウコの旅に連れてってよ。」
「……ふぇっ!?」
突然、ランがそんなことを言ってくる。
思考停止からの間抜けな声を出してしまうリュウコ。
そんなことを言い出すとは微塵も思っていなかったから。
「絶対にダメ!!」
「えっと、うちのリーダーもそう言ってるので」
「リュウコが拒否しないなら絶対ついて行くから」
やたら頑固なランに気圧される。
どうしてここまでリュウコに固執しているのか、本人だけが分かっていない。
「ねえ、リューが困ってるでしょう?」
「アンタこそ部外者なんだから黙っててよ!」
「あァん?」
「あん?」
先ほどまでの柔らかな表情のエリサはどこへやら、そこにいるのは二人のチンピラ。
バチバチと撃ち合う視線の火花が幻視できる程。
「ちょっと表出なさいよ。」
「一人で行けば?私はリュウコと話があるの。」
「なンですってぇ!?」
鼻と鼻がぶつかる程の至近距離でメンチ切る二人。そこに乱入してきたのは、第三の修羅場で
「ちょっとシオン様!安静にしていないと!」
「リュウコ君!ここにいるの!ねえ!」
静止する男性の声とシオンの声が聞こえ、バタバタと騒がしい音が鳴り響く。
そして、破壊されたかのように勢いよく開いた扉から、慌てた様子のシオンが入ってきた。
「リュウコ君!無事でよかったぁあ!!」
泣きながらそう叫んで飛びついて来るシオンに、二人は呆気にとられ、遅れてきた騎士のサムは頭を抱えてため息をつく。
「シオンさんこそ、手のケガは?」
「これもリュウコ君が治してくれたんだよね?」
そう言って差し出して来たのは、シオンのキレイな手。
魔力で作った模造品でもなければ、以前触れたものと全く同じ形をしている。
「ぇ……?」
「本当にありがとう。助けてくれて、会いに来てくれて、とっても嬉しい。」
リュウコに抱き着いたまま、甘い声でそう囁く。
涙が服に染み込んで冷たいのに温かい。
何より、二人の視線が痛すぎる。
「ちょ、ちょっと離れてくれないかな」
「ダメ、無理、嫌、絶対に離さない」
先ほどまでの甘い声はどこへやら、シオンの絶対零度に届き得る声音に、リュウコは何も言い返せず、その日は満足するまで離されなかった。




