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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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51 九龍破導

 リュウコの拳が顔面に直撃したマッドラットの『進化変異』は、傷を抑えながら水飛沫を巻き散らして暴れていた。


『ぎゃぁあああああ!!?』

「シオン、少しだけ我慢して」

「ぇ……んぐぅ!?」


 見れば腹部にも大きな傷ができているシオンは、満身創痍の状態で痛々しい。

治療系の魔法を使えないリュウコは、シオンの傷口に手を当てると『宝力』を流し込み、異物を排出させ、殺菌をしつつ自己治癒力を高める。

 魔力の疑似組織を使って傷口を再現しつつ、『界力』を変換させた『魂力』を注ぐことで体組織を復元。

 シオン自身が魂力を理解していないため、肉体再生もできる自然治癒という程度に収まっているが、欠損部位はちゃんと復元されるように調整し、水から上げて寝かせる。


 応急処置もでき、シオンも痛みで気絶してしまったらしいので、誰の目も気にせずに暴れることができる。


『なんだお前!なんなんだ!』

「うるせぇよカス。『死殺砲』!」


 怒りに任せつつ、しかし大規模な破壊は避けるように、対物性能の低い照射を放つ。


『ぎぃいいいいああああ!!?』

「……ん?」


 断末魔の叫びをあげている『進化変異』の種族。

ヒト型で人語を介していることから『進化変異』だと確信している。

 その『進化変異』の種族は、この地下水路で発生したマッドラットだと思われた。

 しかし、ソイツの見た目は虹色の体色でマッド系の茶ではない。

ネズミっぽいパーツは見えるが、それよりも明らかに人型に近い。

 コロポの『進化変異』は見た目的特徴はふわっと膨らんだ頭髪くらいだった。


 見た目は血みどろだが、それは外傷によるものではなく、近くにあるラットの大量の死体と、シオンのものだろう。


『あぁ……ははぁ、ひひっ』

「だろうな、お前も『進化変異』なら覚えるだろうな」


 マッドラットの、そうでなくてもラット系の進化変異であれば、超級か超常級にまで強化されている。

 知力もその分高く、学習能力も高い。

 コロポやエンペラーウルフのように、死力と殺力を理解して、更に強くなることだろう。

 つまり、死力による強制死や殺力による精神攻撃も意味が無くなる。

それは別にいい。


「邪技、九龍(くーろん)破導」


 それは、急所以外を貫く九連撃。

一撃が骨すら寸断するような破壊力を持ちながら、敵を殺すために用いず、痛みを与えることを目的とした『邪道』な技。

 リュウコは自分の扱う武術が何なのかを理解していない。表面的な用途については理解しているが、それは記憶の残りカスに過ぎないのだが。


『ごぉあっ!?』


 喉、上腕、膝、肋骨、額、股間。

悶絶するほどの苦痛を感じる箇所ではあるが、どれも絶命には及ばないような部位。

 それを強く打ち付けられても、ラットは一瞬悶えるだけのダメージしか受けていない。

 痛みを訴えているように、目から涙のようなものを流しているのに、それは明らかに嘘でしかない。


「『螺旋・混沌砲』」


 魂力死力殺力など、全部を込めた魔力砲。リュウコの使える現在一番の破壊力。

 つまり、もう殺す気でいるということ


『いぎゃあああああいいいいああああ!!!?』

「『魔力弾・乱』、破技、龍殺し」


 とにかくできる全てを使って、ラットをミンチにしようと襲い掛かる。


『げぶっ』

「まだ息があるのか、しぶといな」

『ぼっぱぁ、たずげ』


 この期に及んで何かを言っているラットにそのまま止めを刺す。

貫手で心臓部を貫けば、死ぬだろう。


 そんな時に、リュウコの耳に異音が届く。

水の上を歩く足音。

 ポチャポチャと鳴る音に意識を奪われ、振り返る。


「りゅうこ?」

「オゼキさん?」


 小関フランソワ。名前がコンプレックスで下の名前で呼ばれることを極端に嫌う少女。

 そんなオゼキさんがここにいるのは、恐らくシオンと同じ勇者として依頼を受けたからということだろう。

 クラスメートとの再会ということで喜びたい気持ちもあるのだが、


「それよりも先にトドメ」

『らぁっきぃいい!!』


 ゲラッと一回笑ったラットは、そのままリュウコの射程圏から離れると、ほとんど千切れているような状態の両手両足を引きずりながら高速で移動していった。


 一瞬、警戒を解いた結果。

ラットは魂力すら理解して、やはりというべきか、欠損した体も再生させてしまった。


『危なかったぁ!惜しかったねぇ!お前、絶対殺すぅ!!』


 ラットはほぼ全快し、魂力を練り上げて肉体を強化している。

数秒前よりも明らかに強くなってしまったラット。


「オゼキさん!離れて!」

「『圧界』!」


 リュウコの忠告も無視して、ランはラットを閉じ込めるための魔法を使う。

風を使って密閉した空間を作り、圧縮して殺すという中々残酷な技。

 しかし、魂力をマスターしたラットの肉体強度には一歩及ばず。


『はははっ!痛くないよぉおおお!!』


 血管から血が噴き出し、皮膚はバリバリと音を立てて裂けているのに、ラットはまるで愉快な光景を見ているような表情で叫ぶ。

 つまり、それすらラットにはダメージではないということ。


「シオンを連れて逃げて!」

「嫌!」

「じゃあソレもうちょっと持たせて!」


 『圧界』を覆うように魔力を広げ、限りなく綺麗な球体を創り出す。

それはただの魔力球ではなく、『圧界』ごとラットを磨り潰すための檻。


「『魔力牢』」

「ひゃっ!?」


 内側に加圧するよう細工し、即興で強度を高める『紋』を描く。

そう長くはかけられないということで、魂力を振り絞って『圧界』を強化する。

 そのためにランの手を握ったのは了承してほしいところではあるが。


『ぎぃいいあああああ!!?』


 魂力の強化によって圧縮が強まったのか、ラットの悲鳴が強くなる。

時間稼ぎは順調。圧界へのエネルギー供給と並行して、魔力牢に力を入れる。


 外殻を縮小し、それに合わせて宝力を含めた力の全部を込めていく。


『ぎ、ぎ、ぎぎぎいいいいい!!』


 もう余裕を嘯くこともできず、ただ汚い悲鳴を上げているだけのラット。

圧縮だけでなく、ミキサーのようにぐちゃぐちゃにされているのだから当然。


 直径30センチ程度の大きさにまでなった『魔力牢』は、中の魔物の生命消失を感知して、自動的に崩壊する。

 はずなのだが


『が……が、が、が』

「しぶといな」


 断末魔というか、なんだろ、肺から漏れた声のようなものを発して、ほとんど死んでいた。


「おぇ、グロ……」

「オゼキさん、できればシオンさんを介抱してもらえると」

「ぁ……シオン!」


 リュウコが言い切る前に、ランはシオンに気づきその重傷さに驚いている。

それはそう、前腕部欠損に腹もかなり深い傷がある。失血もかなりの量になっているだろう。

 

『が……ぁ』


 やっと死んだらしいラットの死体が光り、ぐにぐにとキモイ変形を始める。

コロポは剣になったが、ラットはいったい何になるのか。


「ねぇリュウコ、なんでここにいるの?」


 一本の杖のような形状になったラットを差し置いて、修羅場が始まろうとしていた。

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