49 ホロゥ
エンペラーウルフとの戦闘から数日が経過し、エリサとリュウコはいつものように依頼を受けるためにギルドへと来ていた。
「ねえ、討伐依頼は無いの?」
「良いのは見当たらないね。」
適度に打ち解けて来て、敬語が抜けてきた二人は掲示板を見ながらそう話す。
あれからというもの、日帰り程度の簡単な依頼を数回受けた二人は、それなりに互いのことが分かってきている。
「でしたら、こちらの緊急依頼などはどうでしょうか?」
「「緊急依頼?」」
「はい、期間が定められていない、早急に解決する必要がある依頼の事です。」
そう言って差し出されたのは一枚の紙。
『地下水路でのマッドラット討伐』と書かれた依頼書。
「マッドラットって、中級だかのアレよね?」
「はい、ソレです。」
「これのどこが緊急なの?」
「問題は発生している場所ですね。」
依頼書に書かれている地下水路というのは、オーラド商街の地下に広がる下水施設。
ドデカい暗渠が張り巡らされており、街の清潔さの要となっている。
十数個のマンホールから入れる地下にある水路で、いつどうやって作られたのか明確ではないらしい。
「噂の異世界から来た勇者様も遠方から参加している大規模な依頼です。人数はいくらあっても良いとのことなので、是非顔だけでも見に行くのはどうでしょう?」
「……」
「勇者!?行く!絶対に見たい!」
目をキラキラ輝かせて嬉しそうにしているエリサの横で、リュウコはひっそりと顔を顰める。
勇者たちには接触しないように動いているというのに、あっちの方から来るというのは予想外だ。
「リュー!一緒に行きましょうよ!」
「えっ……と、エリサ行ってきなよ。マッドラットなら全然大丈夫だと思うし、俺は別の依頼を受けようかな。」
「……ちぇっ、わかったわよ。じゃあ今日は別行動ね。」
「ミルルさん、この依頼見せてください。」
なにか思うところはあるらしいエリサだが、それでもリュウコの意思を汲んで別行動をとってくれる。
ここ数日で、あまり無理な我儘を言わなくなったエリサだが、こうして嫌な顔は普通に見せてくる。
「では、エリサさんだけ緊急依頼に参加。リューさんは『ホロゥゴブリン討伐』の依頼ですか。」
本来なら今日受けるつもりだった依頼書を差し出し、それぞれが別々の依頼を受理してもらう。
「『ホロゥゴブリン』は中級の魔物ですが、特定の討伐方法があるタイプの特殊な魔物です。準備は万全にしてくださいね。」
一応とばかりに忠告だけして、ミルルはそれ以上何も言わなかった。
◇◆◇
『ホロゥゴブリン』、鬼種のゴブリンが『死生種』のホロゥと同じ特性を持つようになった特殊な魔物。
物理攻撃は効果が無く、魔法での攻撃も一部を除いて効果が薄いらしい。
【聖】属性魔法のみが特効で、その次に【光】が効果がある。
他の属性魔法は物理攻撃よりは効果があるが、そういった背景があるため『死生種』には【聖】属性の物を持って行くか、使える魔法使いや賢者を同伴させる。
リュウコはそんな依頼に単独で挑むのだが
『GEGYAGGYAGGYA!!!』
「やっぱりうるさい……」
そこはオーラド商街の北西辺り。
街よりも狭いがそれなりに土地面積がある共同墓地で、死体を食い漁るゴブリンが出現したらしい。
そのゴブリンは同様に湧いた『ホロゥ』と敵対、同士討ちの結果『ホロゥゴブリン』と成ったそうだ。
そんな魔物を退治するためのに訪れたリュウコだったのだが、目の前には
「これ、ゴブリンじゃないよなぁ」
『GYAAGYAAGYAA!』
『GYUGYAGYAGYUGYAGYA!!』
明らかにリュウコより頭一つ分大きな体を持っている魔物2匹。
外見的特徴からして、オーガと呼ばれる鬼種の中級に類似している。
つまり、相手は『ホロゥオーガ』。上級中位の魔物ということ。
「なんでこんな異常事態ばっかり起こるのかね。」
ちらっと腕に巻き付いている疫病神を見ながら、リュウコは魔力を練り始める。
「『魔力砲』『魔星』」
『GYUAAAA??』
『GYUUOOOO!?』
コロポソードを絡めた『魔星』と、墓地を傷つけないよう射角を高めにした『魔力砲』で仕掛けてみる。
結果は予想通り、貫通した胴体は煙のようにぐにぐにと変形し、何事も無かったかのように元通りになる。
対して、コロポソードでの斬撃はどうやら効果があったらしく、切っ先が胴体を中ごろまで切り付けたオーガは、驚きの緊急回避で後ずさった。
『GYOOO!?GYUGYUOOO!?』
「はっ、痛かったかい?」
胸についた傷に困惑しつつ、傷口を抑えて悶える片方のホロゥオーガ。
ホロゥになってから初めてのまともな外傷を受けて、痛みへの恐怖がよみがえったらしい。
その場でのたうち回っているのを相方のホロゥオーガに見られながら、ジタバタと暴れまわっている。
対して無傷だったホロゥオーガはその姿を見てリュウコへの警戒を強めたらしい。
「コロポソードが有効なのは理解、次だ。」
『魔星』はそのまま周囲を旋回させつつ、次の手段を取ることに。
それは『死生種』への有効打の模索。
「『死砲』!『殺砲』!」
黒い砲と透明な砲が、無傷のホロゥオーガに襲い掛かる。
加えて、未だに転がっているホロゥオーガに対しても
「『魂砲』『界砲』」
と、死体撃ちならぬ死霊撃ちをし始める。
結果は想定通りの有り様で
『GYAIIIIAAAAAA!!!?』
『GYAGYA!?GYAGYAGYUGYAAA!!!?』
『魂砲』の効果が大きかったのだろう、悶えていたホロゥオーガはそのまま魔核だけを残して消滅し、地面に浅いクレーターを作っていた。
健在なホロゥオーガは、『死砲』の方が効果があったらしく、胸に空いた穴は塞がることなく向こう側が丸見えになっている。
穴にダメージは無いのか、塞がらないことに困惑している様子で痛がっている風には見えない。
恐らく全身を死力で包むようなことをしないと効果は無いのだろう。
「これで実験は終わりだな。破技、鬼殺し」
宝力を込めた拳でホロゥオーガの腹をぶん殴る。
もちろん、魂力でとどめを刺す準備をしているが、それが発動することは無い。
『GYUAAAAAA!!?』
宝力を押し込まれたホロゥオーガは、そのまま爆散して空気中に散ってしまった。
結局、『死生種』の対抗策は『宝力』と『魂力』ということで会議が可決してしまったわけで
「どうしよう。帰りたくねぇ」
依頼が終了してしまったという事実に打ちひしがれながら、リュウコはその場にしゃがみ込む。
墓地の地面は少しだけ酸っぱい臭いがした。
『おい、街に戻れ』
「は?なんで?勇者との遭遇はなるべく控えろってお前が」
『緊急事態だ。戻って空きっぱなしの蓋の近く、エリサに話を聞いて行け』
話の本筋が見えないまま、ガイドに急かされてリュウコは立ち上がる。
何かに焦っている様子のガイドを一瞥してから、リュウコは街の方に走り出す。
空気が冷たくなっているのを感じた。




