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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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46 オオカミの皇帝


「ちょっとぉ!!こっちに寄ってるんだけど!」

「二秒待ってください!『魔力砲』!」


 最上級の魔物『クリムゾンウルフ』の大量発生と対峙し、エリサとリュウコはやや優勢に戦っていた。


 特に、エリサの扱う【展装】はクリムゾンウルフの炎を凌駕するほどの火力を出し、かつ弱点の水や風を使うことができるため、有利に戦闘を運んでいる。

 ウルフたちもそれを本能で理解しているのか、先にエリサを潰そうと戦力を投入している。


 対してリュウコは、『魔力網』を空間での敵探知に使い、『魔星』を斬撃から『魔力砲』に切り替えて半自動化。

 肉弾戦は中古剣で作った『Pソード5号』で行い、かつ魔力の運用だけで身体強化を行って戦う。

 【無】属性魔法だけならいくらでも乱発し、その中でできる全部を使って戦っている。


「『魔力腕』!」

「どぅえええええ!!?」


 肩から二本ずつ腕を生やし、六本腕の阿修羅スタイルになったリュウコの姿にエリサは目が飛び出るほど驚愕する。

 リュウコは出現させた四本の腕と自前の手に『Pソード』を持たせ、六刀流の構え。

 口に咥えて七刀流でもよかったかもしれない。


「『魔力斬』!!」


 とは言っているだけで、実際は魔力を纏わせた剣で斬りつける。

魔力を纏わせることで発動する『紋』がいくつか刻まれているため、それでも殺傷力はかなり高まる。


「て、【展装】!」


 リュウコの奇行から意識を離したエリサは再び魔力を纏わせ、クリムゾンウルフを切り伏せる。


「これと!これ!」

「こっちもぉ!!」


 残りのウルフを片付けると、一息をついてから森の奥を睨みつける。


「で、あの奥には何がいると思う?」

「クリムゾンウルフよりもヤバいのがいるかと。」

「そうですね。奥には『ウルフキング』がいる可能性が高いかと思います。」


「「……え!?」」


 第三者、聞き覚えはあるものの、この場所では聞くハズが無い声。


「リューさん、エリサさん、ダメですよ。異常事態が起こった場合は速やかに退避。迅速丁寧な報告が必要です。」

「う、受付嬢さん?」

「はい、受付嬢のミルル・イミティです。」


 名札を指差しでそう言う受付嬢、ミルルは、突然そこに現れたように見えた。

 少なくとも、リュウコの魔力探知や気配察知には反応が無かった。

 

「連れ戻すつもり?」

「はい、リューさんはともかく、エリサさんはE級です。最上級上位のキング相手では、危険すぎます。」


 ランクの事を引き合いに出され、エリサの表情がこわばる。

しかし、それでも引き下がることはせず


「最上級のクリムゾンウルフだって倒せてるんだから、良いでしょ!」

「それも、リューさんのサポートによるものだと判断します。」

「なっ……!?」


 エリサの表情が更に険しくなる。

険呑とした雰囲気があたりを漂い始め、リュウコの頬を汗が伝う。


「……で、どうすれば続行可能ですか?」


 話の方向性を入れ替えるために、別の視点をぶち込んでいく。

エリサは確実に不機嫌になっていて、それはつまり状況の悪化。

 どうにか話を逸らして誤魔化してできるだけ波風を立てないように


「エリサさんは即時帰還。リューさんは偵察をして、情報を持ち帰っていただきたい。」

「ちなみに拒否権は?」

「……強行するおつもりですか?」


 今度はミルルから殺気とも取れない異様な雰囲気が滲み出て、リュウコの警戒心が刺激され、反射的に殺気を返しそうになる。

 怒った人を見たら腹が立ってくるのと同じような感覚で、ついつい殺気が、『殺力』がにじみ出る。


「強行します。」

「ダメです。」

「「……!」」


 バチバチと弾ける視線。睨み合うリュウコとミルルの間を取るように、奥からラスボスが現れる。


『GURUUUOOOOOO!!!!』

「うわっ、なにあれキモッ」


 エリサの言葉に二人の視線が森の奥に向く。

 咆哮の主、つまり、今回のラスボス。

 筋骨隆々で3メートルを超える巨体を持つ、首だけ狼の化物。

 体毛が赤色で二足歩行をする一見キモイ姿。

 外見的特徴は『ウルフキング』そのものだが

 

「コレ……」

「違いますね。」

「え?え?」

「「『エンペラーウルフ』」」

 

 超級のウルフ種であり、キングよりも上の個体。

体毛だけでなく体色も黒めの垢であり、頭部の体毛が王冠のように逆立っている。


「「エリサさん!逃げてください!」」

「あ、アンタたちは!?」

「ミルルさんも逃げてください!」

「リュウコさん、逃げてください。」


 全員が互いを心配するばかりで、誰も逃げようとしない。

リュウコはそれを見て観念して臨戦態勢に入ると同時に、ミルルやエリサも警戒を強め、ウルフの出方を見ている。


「『魔力砲』ぉおおおお!」


 気合を込めた”波”で牽制を掛けつつ、次手への時間を稼ぐ。

中級以下であれば一撃で消し飛ばせるだけの威力を出しておきながら、エンペラーウルフは体毛がチリチリになるだけのダメージで済ませてしまった。


「リューさん、時間を稼ぐので逃げてください!」

「絶対断るッ!!『魔星』ぃ!!」


 ボボボンッと空気の歪み、空間の湾曲を意味する音が響き渡り、三つの人間大の『魔星』が発生する。

 歪な表層を変形させながら、巨大なクッションのような形になって、エリサとミルルの二人を掴んで引き離す。


「リュー!離しなさい!」

「リューさん!!」


 二人の声が離れるのを聞き流しながら、目の前のウルフを睨みつける。


『GYAAAOOOOOAAAAAA!!』


 鼓膜を突き破る遠吠えに呼応するように、森に散っていた残りのウルフたちが集合してくる。

 『ファイアウルフ』『フレイムウルフ』『クリムゾンウルフ』

 そして、『エンペラーウルフ』

 集団戦となると、その依頼の難易度は跳ね上がり、これは『S級』相当の依頼と言って差し支えない難易度へと変貌した。

 

『ケケケッ、ゲヒッ、ギヒヒヒッ!』

「んだよ。キモい笑い方しやがって」

『あのコロポよりも強い敵ダ。思わぬ展開だガ、お前には好都合だろウ?』

「なわけあるかボケ。緊急事態の連発で楽しい冒険者ライフに水差されてご立腹だよクソカスがァ」


 猫を被るようにしている反動か、誰もいないからととにかく口が悪くなるリュウコ。

 ガイド以外に聞いている者がいれば、もう少し柔らかい表現でかつオブラートを何十枚も重ねて話していた。


「『螺旋・死魂砲』!」


 死力と魂力を混ぜ込んだ魔力砲。それに『螺旋』と『多重』の技を組み合わせて、とにかく殺傷力の高い一撃をぶちかます。


『GYUUUOOOOOO!!!』


 超常級とB級冒険者の戦いが本格的に始まろうとしていた。

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