45 上位
「ちょっと!?アンタもちゃんと戦ってってば!」
神狼の森に入ってから30分程が経過、未だに『ファイアウルフ』しか出現していないものの、既に7体の討伐を完了。
エリサは体力もあるようで、まだ息も切れていない。
「ちゃんと魔核回収してますよ!ほらほら!次来ますよ!」
「んきゃぁあああ!!?」
一拍遅れての反応ではあるが、それでもズバズバと的確にウルフの急所を狙い斬る。
とてつもない精確さで、足取りとは違い剣筋には迷いが無い。
「ああ!もう!リューあんた覚えておきなさいよ!」
「はーい!あっ!フレイムウルフ来ました!」
リュウコの魔力探知に引っかかる『フレイムウルフ』の魔力。
距離にしてまだ200mという遠い場所にいるが、移動速度は全力疾走の自転車並み。
そして、森の中の荒れた足場をものともせずに一定のスピードで近づいて来る。
「あと30秒で来ますね!」
「ちょ!?それもアタシが相手するの!?」
「はい!!」
「なんでそんなに返事が良いの!?」
「ありがとうございます!」
そんなやり取りをしつつ、周辺のウルフたちを片付けて接近してくるフレイムウルフに警戒を回す。
切り替えの早さも良い。少なくとも並みのE級とはまるで違う。
「『魔力網』」
魔力で作った『魔力糸』を更に広範囲に展開した『魔力網』
これによって敵の正確な位置の探知、魔力を用いた攻撃、簡易的な拘束が可能。
リュウコの編み出した基礎魔法の一つ。
『GURAAAUU!!!』
「しぃっ!!」
『GUYAAAUUU!!?』
「———ぇ」
フレイムウルフを相手したエリサの剣技はすさまじいもので、抜刀に近い横薙ぎで口元に一閃。
そこから更に縦に一閃。
これほどまでに綺麗な十字を見たことが無いというくらいに、鋭い二連撃。
炎を纏った剣での二連撃を放ったエリサは、今までの様子とまるで違って見えて、リュウコは一瞬だけ目を奪われた。
「リュー!次は!もう来ないの!?」
「———ぁ、次は2体!前方から来ます!」
「もう!リュー!もう1本!」
エリサのリクエスト通りに、二本目のエリサ専用ソード『Eソード3号』。
付与内容は『2号』と同じだが、二刀流用にやや重量を軽くしている。
「【展——」
「右手は水!左手は風で!」
「――装】!」
反射速度も申し分なく、リュウコの言った通りの【展装】を使う。
水を纏って急激に冷えた2号と、風を纏っているが何も変化は見えない3号。
それを振り回し、目の前に現れたフレイムウルフを2体、三枚おろしにしてしまった。
「リュー!チェンジ!今度はあんたが戦いなさい!」
「……了解」
フレイムウルフ3匹とその他の討伐。体力の限界が来たのではなさそうだが、魔力の温存を目的としたものと解釈して、リュウコは応じる。
「『魔力弾』」
向かい来るフレイムウルフの眉間に正確な射撃を命中させる。
内部で炸裂する弾丸によって、一撃死するウルフたち。
逐次投入される追加戦力のフレイムウルフの位置は、森全体に張っている『魔力網』によって把握完了。
「『魔力弾』」
「リュー!あんた魔力大丈夫なのソレ!?」
エリサの心配する声を無視しつつ、第二陣のウルフに対する準備を開始。
「『魔星』」
衛星型の魔力球を3つ展開。『魔力網』の感知情報と連動するように設定して、そのまま森の中心部に歩みを進める。
「え……なん、えぇ?それ、あたし、えぇ……」
言葉にならない弱い悲鳴を上げているエリサ。
おそらくその意味するところは
『なにそれ、あたしが頑張ったのはなんだったの』
ということであろうと思われる。
◇◆◇
向かい来る、討伐したフレイムウルフの数は10を超え、事前の依頼書の内容との違いにすこしの違和感を覚えていた。
エリサはもうリュウコについて来るだけの状態になり、途中から不満そうな顔を隠さなくなってきていた。
「ねぇ、なんでアタシとパーティ組んでんの?その変な玉があればもう冒険者としてもやっていけるんでしょ。」
「ええ、多分」
「———じゃあなんで剣とか用意して、アタシと組んでんの!」
エリサの叫び声に呼応するように、周囲からフレイムウルフが跳びかかってくる。
『魔力網』によって探知していたのが4匹と、それをすり抜けて来たのが2匹。
その情報の違いにリュウコの判断が、十分の一瞬だけ立ち止まる。
「『魔力弾』!」
フレイムウルフ4体は『魔星』による斬撃で殺せた。
しかし、残った2匹の『クリムゾンウルフ』の内、1匹にしか『魔力弾』命中しなかった。
しかも、急所ではなく肉を貫くだけの軽傷。
「エリサ!」
「——【展装】」
剣を抜く速度も間に合わず、エリサにできたのはクリムゾンウルフの顔に手を触れて魔力を込めることだけ。
本来であれば、バフとして属性を付加する結果になるはずだったソレが、クリムゾンウルフに牙を剥く。
『GURRUUUUBOBBBBBB!!!?』
炎の属性に強い耐性のあるクリムゾンウルフが、燃えて死ぬという異様な事態。
内側から爆発する炎にのまれて炭になるウルフだったものを見て、リュウコは胸の内の熱いモノを自覚する。
「『魔力砲』!」
とにもかくにも、それに一旦蓋をして、残ったウルフを消し飛ばず。
雑に魔力を込めただけの照射で、逆に魔物を呼び寄せる結果になっても、それはそれで結果オーライということで。
「エリサさん、依頼の内容よりも難易度が跳ね上がりました。行きますね?」
「————うん」
◇◆◇
クリムゾンウルフ。フレイムウルフの上位種で最上級の魔物。
体毛が炎のようだったフレイムとは違い、体色が深紅に染まったシャープな見た目をしている。
その見た目の通り敏捷性と膂力が高まり、基本的に出現しない珍しい魔物。
「これが出たってことは、難易度は軽く見積もってA級。既に2体出現していながら、中心部はまだまだ遠い、つまり」
「更に強い魔物が発生している可能性があるってことね?」
「おっしゃる通り。」
「ドつくわよ。」
慇懃無礼な態度をとるリュウコにけらけらと笑いながら、物理的な突っ込みを入れてくる。
既にドつかれた脇腹をさすりつつ、森の移動を続けているリュウコの目の前には、大量の『クリムゾンウルフ』
確認できる数にして10を超えており、その全てが『魔星』や『魔力網』では対処できないレベル。
「半分お願いしますね」
「任せなさい」
片や初依頼の初心者冒険者、片や化物から指導を受けて強くなった異端者。
異変の片鱗はここから始まる。




