41 初依頼
「で、なんで属性魔法が使えないの?」
「さあ?才能無いんじゃないですか。」
依頼にあったクラスト商会の屋敷、その別邸で二人は呑気に雑談をしていた。
その間も、リュウコの分身は草むしりを行い、庭を綺麗にしていた。
「剣とか……持ってるみたいだけど、使えるの?」
「使えますよ。魔法の方が得意ですけど。」
嘘は言っていない、リュウコの認識上の得意な戦法は同率1位で拳と魔法、次点の次点でやっと剣術。
そもそも武器に自分の命を委ねるというのが肌に合わない。
「でも【無】属性って基礎の基礎でしょ?どんなに練習しても魔力の消費量が多すぎて、結局属性魔法が一番効率良いのよね?」
「らしいですけど、使えないものはしょうがないので」
「あの、依頼の追加箇所をお願いしてもよろしいでしょうか?」
二人が話しているところに、監督役の私兵が話しかけてくる。
商会の専属になっていて、元冒険者というバーミットさん。
長年警備の傍らで庭師のようなことをしつつ、たまに来る新米冒険者の相手をしているらしいが
「あの壁の蔓が上の方まで伸びていて、魔法だと外壁が傷つく恐れがあるので」
「わかりました。」
そう言うと、やたら身長の高い分身を生成し、壁の掃除をさせる。
それを見たエリサは、不思議そうな顔でリュウコに尋ねる
「魔力でちょちょいっとできないの?」
「外壁の状態を無視するならそれが良いのですけどね。細かい作業なら目と器用な指先がある分身が適切かと。」
「……ふーん」
答えが詰まらなかったのか、足元の草を弄りはじめ、もう何も答えなくなった。
まだ出会って半日と経っていないから、何を話せばいいのかわからない。
「ところで、エリサさんは何が得意なんですか?」
「……え?」
「得意なものですよ。剣や魔法。前衛か後衛か。同じパーティなら、情報の共有をしておきましょう。」
「———リュー……そうね、情報の共有は大事ね。」
顔を上げたエリサは、そのまま立ち上がると腰に携えた小剣を抜くと、天にぴんと刺し上げる。
小振りではあるが、エリサの身長と推定筋力を加味すれば適切な武器。
「ふふんっ【展装】!」
構えられた剣の刀身が炎を纏う。
ここで初めて、リュウコはエリサの事を直視した。
「ただの『装』の魔法じゃない。これは私の【固有】属性なの!」
【固有】属性、それは【基本】や【特殊】などの属性体系に入っていない、孤立した属性のこと。
その数は少なく、他属性と比べてマニュアル化されていない分習熟が困難だが、その分どんな属性でも非常に高い能力を持っているとされている。
「【光】と【闇】で使う『付加』とも違うわ。この属性はなんにでも好きなように好きなものを纏わせることができる。」
「今その剣は、炎を纏わせているということですか?」
「そう!水でも風でも光でも!なんでも纏えるのよ!」
「それ、一回止めた方がいいですよ。刀身溶けちゃってるんで」
「え?……きゃぁ!!?」
纏った炎に溶かされて、少しだけ鉄が溶けてしまっていた。
地面に溶け落ちた鉄が地面の草を少し焦がす。
「あぁ!!あたしの剣!」
「……まあ、そういうこともありますよ。次はもっと安全なもので練習しては」
「むぅ、笑ったわね!」
きゃっきゃと談笑を続ける二人。分身らの草むしりも、あと少しのところまで来ていた。
分身の操作はリュウコのセミオート。それでも、リュウコの目は明らかにエリサの【展装】にくぎ付けだった。
強引に引き入れられたパーティ、不満はある、面倒だとも思っている。しかし、リュウコは意外にも自分の運が良いのかもしれないと思い始めていた。
◇◆◇
一時間程度で草むしりを終えたリュウコ達は、依頼書に証明の印を貰ってギルドへと戻ることにする
少しだけ覚えてきた道順を遡りながら、街並みを覚えようと色々なところに視線を向ける。
田舎者と指を差されることもあったが、リュウコは気にせずに街の様子を観察している。
「お茶、美味しかったわね。」
「ええ、趣味らしいので」
当分落ち込んでいたエリサも、バーミットさんのお茶を飲んで機嫌を取り戻した。依頼が早く終わったことに対して、時間を調整するという名目のもと、簡単なお茶会を開いてもらったのだ。
リュウコも、本当に久々に美味しい飲み物のありつけて良い気分になっている。味の無い水か、口に入った魔物の返り血くらいしか、飲み物は飲んでいなかったから、非常に楽しいお茶会だった。
そうして、二人は気分よく帰り道を歩いていたのだが、その緩やかな空気が裏目に出ることもあって。
「【展装】は、人に対して使えますか?」
「———ッ」
「エリサさん?」
「あたし、今日は帰る。依頼はリューがどうにかして、明日またギルドに行くから。」
リュウコとしては、何の気なしに尋ねた、雑談の延長というだけの話だった。しかし、それを聞いたエリサは顔も見せずにどこかに走り去っていった。
何が逆鱗に触れたのか。そもそも怒ってどこかに行ってしまったのか。
それもまるで分らないまま、リュウコは一人ギルドの方に向かった。
◇◆◇
「ずいぶんと早かったですね。エリサさんはどこに?」
「えっと、具合が悪いらしいので」
「そうですか。」
受付嬢に依頼書を渡し、1人である事情を軽く説明する。
そこで、リュウコは受付嬢の表情が暗いことに気づく。
「エリサさん、なにかあるんですか?一緒にギルドに登録したハズですけど。」
エリサは自信満々にギルドに入り、リュウコと共に冒険者として登録をした。
だからこそのF級で、最初の依頼もごねていたのだが、やたらと手慣れている感はあったし、受付嬢もエリサのことを知っているようだった。
「えっと……そうですね。あまり言っていいことではないんですけど」
受付嬢は声を小さくし、リュウコの耳元に顔を近づける。
リュウコも耳に手を添えて、言葉を聞き逃さないように傾けた。
「エリサさん、これで冒険者になるの、5回目なんです。」




