40 無属性
「君、1人でここまで来たのか?馬車とかも無く?」
「はい、実力には自信がありますので。」
「君くらいの歳の子供が……すごいな。」
門兵のおっさん二人と話すのは、少しだけ猫を被っているリュウコ。
当然だがガイドは人前で喋れない。だからある程度は設定を叩き込んで、自分の口で話す。
「これ、バスターウータンの魔核です。」
「うぉ、これ、ホンモノ……?」
「本物だな。上級の魔物を狩れる実力があるのは確認した。身分証明になるものは?」
「持っていません。」
「うん、じゃあ名前と、年齢。武器とかは携帯している?」
簡単な質疑応答の後、簡易的な身分証明書を渡されて通される。
この身分証明書で宿やギルドなどを利用できるが、使用の期限は三日とかなり短い。
「じゃあ、リューさん。君がもしこの中で悪さをしたら、それが万引きでもここから追い出すことになるから。そこのところ注意してね。」
最後にそう忠告され、リュウコは街の中に入ることを許可された。
名乗ったのは偽名『リュー』。本名と違いすぎると偽名とバレるし、本名はもっての外浮きすぎる。
「ギルドは……ちょっと遠いし道も複雑だから、見物しながら探すと良いよ。君ならきっと有名になれる」
その言葉を後ろに聞き、リュウコは街の中へ―――
「ちょっ!どうしてくれんのよ!私の外套に汚れがついちゃったじゃない!」
「すいません」
「これ結構高かったんだからね!」
かと思えば、リュウコは一人の少女に捕まっていた。
なんでも、リュウコが踏んだ水たまりから飛んだ水滴が外套についてしまったという、言いがかりにもほどがある内容で。
「はい、本当に申し訳ございません。」
「……はぁ、ついて来て」
「え?」
「いいからついて来て!」
その少女はリュウコの手を掴むと、無理矢理引っ張っていく。
振りほどくことも可能だろうが、そうなると少女の腕は肘から肩にかけてのどこかで千切れてしまう。
そうなると街中で大問題になる。
「……あんた、名前は?」
「えっと、リューと申します。」
「そ、あたしはエリサ・ジンジャー。」
「あ、はい、よろしくお願いします。」
「うん、話が早くて助かるわ。これから仲間としてよろしく」
「……へ?」
どうやら厄介な相手に捕まったらしい。
その少女が向かった先には、冒険者が集う『ギルド』があった。
「あんた運が良いわ!あたしみたいな未来のS級冒険者の仲間になれるんだから!」
◇◆◇
「どぉいうことよぉおお!!!」
ギルド内に響くエリサの絶叫。甲高い金切声が綺麗に響き渡り、目に入る屈強な冒険者たちが耳を塞いで顔を顰める。
「で、ですので、まずは適正の依頼をこなして、それから級を上げていただかないと」
ギルド、冒険者というものには級が存在し、適正とされる依頼が設定されている。
その階級は基本的に6段階。
S級 超常級と戦って勝つ可能性がある。
A級 最上級を討伐可能。
B級 最上級と戦闘可能。
C級 上級を討伐可能。
D級 上級と戦闘可能。
E級 中級を討伐可能。
リュウコ達が登録してなったのはその番外であるF級。
最初に登録した新米冒険者がなるランクで、1、2個の簡単な依頼をこなすだけでE級になれる程度。
F級にはF級用の簡易依頼というものがあって、それしか受けられないのだが
「だから!このフォレストラットの討伐依頼を受けるって言ってるでしょ!」
「ですから!それはD級の依頼です!F級の依頼しか受けられません!」
F級の依頼に討伐系は無い。街の雑用的なことしか依頼として扱っていない。
しかし、それをこなせば簡単にE級に上がれるというのに、かれこれ30分もこのやりとりを繰り返している。
「もう、これに行きましょう。」
「はぁ!?草むしりって何言ってんのよ!」
リュウコが差し出したのは『草むしり』の依頼書。商街で幅を利かせている商会の別邸の庭を綺麗にするという、難易度もクソも無いが割の良い仕事。
いくつかあるF級の依頼の中では一番良い選択で、かつこれ一発でE級に上がることは可能な依頼。
「パーティであれば、申請していただくことで一つの依頼で昇級できますよ。」
「そういうのは早くんぶっ!?」
「はい、申請したいです。あとこの依頼も受理してください。」
「わ、わかりました。」
魔力で口元を塞いで、エリサの金切声を止めた後、リュウコは諸々の手続きを済ませて出ていった。
手足まで簡易的に拘束されているエリサの姿を遠巻きに見ている他の冒険者らも、それを見て嵐が去っていくのを安心するしかできなかった。
◇◆◇
「っぶは!!なにすんの!」
ギルドからかなり離れてから、エリサの口元の魔力を解除すると、やはり大きな声で騒ぎ始めた。
手足の拘束がもう少し緩ければ、リュウコを殴っていたかもしれない。
「話が進まないてっ……すぎるんで強引にいてっ……進めいてっ」
否、普通に殴られている。
全身を使って器用に殴ってくるのを極力無視しつつ、話を進める。
拘束を強めた方が良いか。
「きゃっ」
「とにかく、このままでは何時まで経ってもE級にすら上がれないので、パーティを組むのはもういいですけど、とにかく早く昇級しましょう。」
「あたし、絶対に草むしりなんてしないからね!」
エリサは地団太を踏みながらいやがるが、リュウコにとってはそれくらいでも別に構わない。
「構いません。俺一人でやりますから」
そう言うと、その場にしゃがみ込んで唸り始めたエリサを放置して、魔力を練り始める。
何度も使った魔法の再現。今回は魂力を使わない純粋な分身の魔法
「「こんな感じで、人手はいくらでも増やせます。」」
あえてシンクロさせた言葉に、ぎょっとして見るエリサ。
まったく瓜二つの顔と背格好のリュウコがそこに立っている。
「あんた、そんな魔法……【無】属性の『分身』よね?」
「はい、俺は属性魔法が扱えないので、【無】属性を使います。」
「【無】属性って魔力の消費が激しいうえにどこまで行っても属性魔法の下位互換なのに……どんな練度してんのよ」
そうぼやくエリサは、今度は大人しく草むしり依頼の場所について行くことにした。




