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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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04 1億と2万年と3千年

「では、まずは自己紹介だ。私はミラ・フォスター。24歳。趣味は花瓶集め。特技は花の種類を見分けられることだ。」

「へ、へぇ、すごいですね。趣味もかわいらしい。」


 個別指導ということで、『訓練場』の中の別空間に来たリュウコ達特殊組。

訓練所の中の個別指導部屋。大きさは十五畳程のそれなりにダイナミックに動けるくらいの広さの部屋。

 

 その中で、リュウコと指導係になった騎士ミラは、対面して立っている。


「僕は鬼神龍虎。趣味は……読書で。特技は、体の関節が柔らかいです。」


 突然始まった自己紹介に、とりあえず返したリュウコ。

対面しているうえに、1メートルという近い距離に立たれているため、ミラは体感倍以上大きく見えている。

 そのため、全身から発せられている威圧感も桁違いだった。


自己紹介で和やかな雰囲気を感じ取りはしたものの、やはりそれもギャップという形でリュウコの緊張を後押しすることしかしていない。


「リュウコ。君が特殊組になったのは、ひとえにそのステータスの異質さからだ。ステータスが存在しないというのは、場所が場所なら大問題として扱われるようなこととなる。」

「そんなに大変なことなんですか?」

「ああ、先ほど国王陛下が仰っていた神聖国であれば、ステータスは神より与えられた人間の宝として扱われているため、それが無い君は人間として扱われるかどうかも怪しい。そのため、できるだけこの事実は公言せず、隠しておく方が良いだろう。」

「わかりました。」


 リュウコの返事を聞いて、満足げにうなずくと、ミラは自分の腰に携えた剣のうち、一本を鞘ごと外してセナに投げた。


「そのため、君にはステータスを持つ者たち以上に努力してもらい、同等の力を手に入れてもらう必要がある。訓練は厳しいが、頑張ってくれ。」

「は、はいっ!」


 リュウコは受け取った剣を持つと、ミラの真似をして革か何かの鞘をつけたまま同じようにして構える。

 一度、剣を打ち合って実力の程を試そうというわけだ。


「———」

「……?」


 生まれて初めて持つ真剣。それなのに、リュウコの手はありえないほどしっくりと馴染んでいる。

 違和感が無いという違和感を始めて理解した。


 そんなことを考えているリュウコの様子を変だと感じたのか、ミラは少し考えて


「大丈夫だ。私も騎士として何年も訓練している。素人の振りでケガはしないよ。」


 ややぎこちなく笑みを浮かべるミラを見て、打ち込む決心を固める。

最初の一歩が難しかったが、一度足を踏み出せば、後は体がどうとでもやってくれる。


「———シィッ!!」

「ッッ!!?」


――――ギィイイイイインッッッ!!!


 革同士では鳴りえない、硬質な音が室内に響き渡り、二秒間を静寂が支配する。

 金属音の止んだ2.5秒後。

 ミラが持っている剣からは湯気のようなものが立ち上り、中ほどから真っ二つに割れていた。

 響き渡る、折れた剣先の落下音。


ミラとリュウコの視線は、その折れた剣に注がれ、数十秒もの間、言葉を発することができなかった。


◇◆◇


「これはいったいどういうことだろうか。」


 膝を突き合わせ、面と向かって話している二人。

一旦『講堂』に戻って話をしようということになった。


 机の上には、鞘ごと両断された剣。


 ミラだけではなく、ゆるふわ騎士もそれを見て困った顔をしている。


「これは、あまりにも飛躍しすぎた問題ね。ステータスが見えないだけの可能性が再浮上してきたけど、現状では何も断定できないわ。」


 リュウコのステータスが表示されない問題について、原因候補はいくつかあった。

 1、ステータスが存在しない。

これは前例がなく、しかし異世界人ということもあって可能性としては一番大きいもの。

 2、自動的にステータスを隠蔽するスキルを持っていて、その効果。

これは前例こそあるものの、使用した水晶であれば看破が可能という物であったため、あまり可能性は高くない。

 3、ステータスがあまりに強大すぎてカンストエラーを起こした可能性。

そもそもが今までステータスに触れてこなかった異世界人であり、他の25名が全員平均よりもやや高い程度だったことを鑑みても、その可能性はあまりに荒唐無稽だとして、最初に切り捨てられたもの。


 しかし、剣を鞘ごと断ち切った剣の技量と、打ち折った方の剣は鞘にわずかも跡が無いということを考えると、3の可能性が有力候補ということになってしまった。


「剣の経験は無いと言っていましたが、偽り無いと誓えますか?」

「はい、剣道の授業は選択なので、僕は卓球を選んでました。」


 軽く尋問のようなものを受けるが、心当たりがない以上はっきりとしたことは何も返せない。

 できるだけ誠実に、本当の事だけを話そうと努めるが、やはりこの剣の前では空回りしているようにしか見えない。


「困りましたね。どうしましょう。」

「では、私がこのまま、リュウコの能力を見極めてまとめましょう。それであれば、ステータスが見えずともある程度の指標になります。」

「でも、危険よ?本人に自覚が無い以上暴発暴走の危険も……」


 心配そうに言うのを視線で遮り、ミラはリュウコの手を握る。


「彼の事を見極める役目、全力で果たしてみせます。」


こうして、再び二人は個人指導室に戻ることになった。


◇◆◇


「剣は再び、支給品を待つしかない。そのため、様々な武器を扱えるか試してみたいが。その前に、徒手での格闘が可能かどうかだな。」


 軽く股関節の可動域を確かめるように足を回し、肩から先を回し、全身運動を続けて数秒。

 同じようにストレッチしているリュウコも、じんわりと体が温まる。


「行くぞ!」


 見たことの無い構えでタックルを繰り出すミラ。

長身の強みを生かした、超前傾のタックル。反応できる速度でもないはずのそれを、リュウコは


「———ッシャァアア!!」


―――ぐりゅんっ


 完璧な回転をもってして、100%を合わせて見せた。


 勢いをそのままに、胴の中心を軸に回転したミラは、綺麗に1.5回転して、背中から地面にぽすんと倒れた。

 受け身すら完璧かつ、丁寧でケガに配慮したような神業。それだけに、一度だけでは自分の身に何が起きたのか分からない。

 リュウコもミラも


「い、今、何を?」

「え、えっと、なんでしょうか。」


 本当はわかっている。重心のある胴体の中心に手を当てたことで、上半身が向かうハズだった移動の向きが軸回転してその場で回った。

 リュウコはそれを知っているが、それでもたったそれだけのことを説明することすら、混乱している頭では不可能だった。


「———次。」


 軽やかな動きで立ち上がったミラはそのままどこからか取り出したハンマーを振りかぶると、遠心力を利用して大きく振りまわす。

 当たれば骨折は必至の重量攻撃。

 しかし、リュウコの視線はとても冷静で、それでいてどこを見ているかまるで分からない。

 当たる瞬間、確実に手ごたえがあるはずだったところを空振り、予定外の回転が体軸のバランスを崩す。


「——ッ!!」


 振り抜いて力が抜けているところを掴まれ、ミラはリュウコによって持ち上げられてしまう。

 地面から足が離れ、重心を掴まれている状態で何もできなくなり、反撃が不能な状態になった。


 パチパチ


「確かに異様な戦闘能力ね。ミラをそこまで翻弄して完封できる者が、この王国にどれだけいるか。」


 遠巻きに見ていたゆる騎士の拍手で、リュウコは我に返り、ミラを下ろす。

腹の、それも鳩尾辺りを掴んで持っていたため、互いに気まずい空気が数秒流れたものの、それは試合ということで、どうにか持ち直した。


「奇妙な武の技術。スキル由来のものとはまるで違うという印象以外、何もわかりませんでした。」

「これは、経過を観察していく他なさそうですね。実戦形式で実力を測っていくしかないようです。」


 リュウコが黙っていても、二人で話を進め、今後の方針について決まってしまう。

 しかし、現状の把握に一番重要な自己の認知という部分を置き去りにしていることに目を瞑れば、それは悪くない判断なのかもしれない。


「リュウコ。私との一対一の模擬戦を繰り返してもらう。君のその謎の高等技術の底を知り、今後の方針にすり合わせたい。構わないかな?」

「え、その、えっと。まだよくわからないんですけど。」

「ああ、そこは追々だな。今はこの戦いを楽しもうか。」


 そう言いながら取り出したのは、四巻きほどの長い鞭。

バシンバシンと空気を弾きながら自由自在に操るミラと、困惑のまま驚くほど淀みのない構えを取るリュウコ。


 訓練一日目の午前中とは思えない光景がつづく。

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