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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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37 踏破

 コロポソードの性能は破格の一言だった。

刃物としてはこの世界で見た中でも一番で、軽いのにやたら硬い。

 刃渡りは1mより短い程度だが、その分小回りが利くのがリュウコと相性が良い。


『強化方法は大まかに3ツ。魔核を食わせル。魔力を纏って魂を持つ敵を倒ス。その他。』

「その他って?」

『細々とした例外がいくつもあるんダ。』

「そう。で、アレは何?」


 リュウコが視線を向ける先には、小さな通常モデルのコロポが立っていた。

こちらを見ているだけで、特に襲い掛かってくる様子もない。


『アレがこのコロポの里のダンジョンマスター。この迷宮を設計シ、運営していル。』

「ただの雑魚コロポにしか見えないが?」

「そういうアバターだからね。無害を印象づけたくて作った姿だ。」


 リュウコの言葉にコロポが言葉で返してくる。

穏やかな口調とゆったりとした雰囲気で、戦意は全然湧いてこない。


「やあ、コロポと呼んでくれて構わない。今回は色々と話したくてね。」

「まあ、聞くよ。そうじゃないと帰してくれないだろう?」

「そうだね。」


 コロポの雰囲気に緊張も砕かれたリュウコは、ゆったりとした会話を続ける。

 コロポは会話の際に動くタイプなのか、その場で円を描くように歩き始めた。


「迷宮の踏破。それは君たち人類にとっての快挙に他ならない。だからこそ、我々も君たちの結果を尊ぶことにしている。」

「それは、あらかじめ用意されている文言なのか?」

「そうだよ。で、本来はいくつかの選択肢を与え、踏破の報酬を与えることになっているんだが」

「だが?」


 コロポは言葉に詰まっているらしい。やはりというべきか、リュウコにはその詰まりの原因を察している。


「そうだな。全て話した方が早いのだろう。」

「ああ、文句を言うことは無いと思う。」

「一つ、ステータスの底上げを行う『加護』の付与。二つ、迷宮の権利の一部共有。三つ、巨大な魔核の贈呈」


 力の結晶らしき何か、契約書らしい紙、そしてリュウコの身の丈ほどの魔核。

 

「ステータスが無い俺には加護は意味が無いし、魔核はもう十分なくらい持っている。で、迷宮の権利ってのは?」

「定期的にコロポの魔核を提供する。」

「……四つ目とかは無いのか?」

「残念ながら、しいて言えば叶えられる範囲で要望を聞くことは可能だが」


 リュウコは思考を巡らせる。簡単に選択するのなら、迷宮の権利を求めるべきだが、コロポの魔核を定期的にもらって何になる。

 1日10個や100個であっても、自分で狩った方が早い。

であれば、どうするべきか考える。


「踏破の権利を委譲ってできるか?」

「———できる。結論から言うとね。しかし、いったい誰に?」

「俺の仲間なら、その加護とやらで力をつけることができるかもしれない。」


 もう一か月以上見ていない、大切な仲間の顔が脳裏に浮かぶ。

今のリュウコに必要の無いものでも、仲間たちには必要になるかもしれない。


「わかった。すこし待ってくれ。」


 コロポは自分の手の中で何かをこねくり回し、そして一枚のメダルのようなものを差し出して来た。


「これを持ってもう一度この迷宮に足を踏み入れた者。その者に私が話し、報酬を与える話をしよう。」

「そうか。ありがとう。」


 そのメダルを受け取って、リュウコは懐にしまい込む。

コロポは地面に魔法陣のようなものを出し、その向こう側から声を掛けてくる。


「これに乗れば、君は外に出ることができる。出る場所は少し不安定だが、地上で、コロポの里の入り口に近い場所だろう。」


 もう少しだけ朧げになった記憶の中の、馬車の窓から見た外の街並みを思い出す。

 きっと、そこに飛ばされるのだろう。


「達者で。君の数奇な運命に少しでも幸があらんことを」

「ホント、ずっと人間みたいな毛玉だな。」


 気恥ずかしさを悪態で誤魔化す癖は、悪魔から受け継いだものかもしれない。

 リュウコは少し反省しつつ、魔法陣に足を乗せた。


◇◆◇


「それで、目的は十分に果たされましたか?」


「おう、リュウコは十分強くなったし、無事にクソ勇者とも引き剥がせた。あいつはまだリュウコを見つけていない。全ては順調だ。」


「それは良かった。私としても、あなたはできるだけ早く死んでほしいので。」


「ああ、そのために協力は惜しませない。」


「……私を殺すかね?」


「まだ殺さない。お前の事も嫌いで憎んでいるが、お前にはまだ役目がある。それにお前への嫌悪は、ただ坊主が着ている袈裟だからだ。」


「?それは、どういう慣用句だね?」


「リュウコの故郷の言葉だが、やはり自由度が高いな。気に入っている。」


「そろそろ消えるかね?」


「ああ、羊を使って一時的に現れただけだ。もうじき完全に消える。」


「よかった。君がいるだけで悪寒と鳥肌が止まらない。」


「けッ、こんな残滓にビビるのか。腕一本で何ができるよ」


「その腕一本で、我々神を10柱も殺してみせた。君は畏怖の対象だ。」


「まあいい、きっと近いうちに再会する。じゃあな、調神」


「ああ、できれば会いたくないがな。悪魔よ。」



◇◆◇


 リュウコが再び目を覚ますと、そこは広く青々とした草原の丘だった。

見渡す限りの草の原。

 地平線の先は見えず、青い空が広がっている。


 空気が綺麗で、草と太陽の匂いがする。


「ぜんっぜん街じゃねえぇえええ!!!」


 リュウコの叫びが青く高い空に吸い込まれる。


 そこは、キリエルラ平原。広大な土地面積を誇る豊かな場所ではあるが、高位の魔物が大量に発生するせいで誰も寄り付かないということで有名な、未開の平地である。

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