36 超常
エンペラーコロポの進化変異は、全裸だが人間とは違い、隠すべき場所は無かった。
人間らしい動きで、しかし人間を超越した速度で攻撃を繰り出し、少し呂律が回っていないが、少しずつ流暢に話し始めていた。
「お前を殺して自由を手に入れる!」
「別に俺を殺さなくてもいいと思うんだけど。」
呑気に見えるかもしれないが、リュウコとコロポの戦いはかなり熾烈を極めていた。
体術は粗が見えるが超人的なスピードと威力で攻撃してくるコロポに対して、柔術や合気などの搦め手中心で躱すリュウコ。
魔法は風と地を主に使うが、時折水や火、闇などでフェイントも入れてくる。
リュウコが扱う魔法の技術も見て覚えているらしく、その成長スピードは目を見張るものだった。
なにより
「魔法を使え!」
「やだよ、身体強化だけ見てそんなに強くなるんだから。」
最初の特攻で反射的に魔力で防御してしまって、それを見たコロポが大幅に成長したのを確認したリュウコは、それ以降は魔力の使用を体内で完結。
宝力などの他の力を一時的に封印して戦っている。
「やたら強いし、絶対にこのまま殺すからな。」
「だったら魔法を使え!」
コロポはある一定の戦闘力から変化していない。
肉体の連携度だけで戦う力はここまでで打ち止めらしい。
これに魔法での戦闘が加わってしまえば、きっとリュウコは勝てなくなる。
「正拳突きからの竜巻蹴り!」
極力技も使わないように気を付けて、適当な動きであしらう。
「くそっ!『jl9h-4』!!!」
両手に収束した魔力を放出する。つまりは『魔力砲』と同じ理屈の魔法を使う。
なんと発音しているかはわからない。『魔力砲』という名前を聞いたらそう叫ぶようになるのかもしれない。
そんなことを思いながらも、リュウコはその攻撃に脅威を抱く。
ただの魔力の放出であっても、それは立派な魔法であり、そこから何かを派生させて攻撃のレパートリーを増やすかもしれない。
少なくともリュウコは以前それをした。
この成長力ならそれは絶対に近く起こる現象で、警戒が必要な状況。
であるのならば、早期決着が必須。
「逃げるな!『jl9hqy』」
続いた攻撃は『魔力弾』らしき粒。
リュウコ達の扱う魔力弾とは違い、BB弾のような形状で大小様々。
飛んでくる速度も様々で、それが逆に軌道を読みにくくさせている。
「当たれ!『jl9hqy』」
一点集中の『魔力砲』は諦め、手数で有利な『魔力弾』をとったらしい。
魔力の限り大量の弾がエリア全体に散らばる。
指向性を捨てて速度と威力に振った攻撃らしい。
魔力で防御していないから、最低限当たることがある。
特にダメージにはならないが、軽く魔力で穴を埋める。
「見たぞ。」
「やべっ」
魔力で傷を覆うのを見られた。その影響か、コロポの魔力のキレが良くなっている。
今の流れ作業程度でも『多層』や『圧縮』の技術を見て覚えられた。
「『jl9hqy』!『jl9hqy』!」
またしても放たれる魔力弾だが、その形状、形式はリュウコの扱う弾丸形に近いモノになっていた。
空気抵抗を少なくできる形状で速度も上がっている。
「ははは!もっと見せろ!オレを強くしろ!」
「……ガイド」
『ん?なんダ?』
「あいつって魔核をドロップするのか?強くすることにメリットがあると思うか?」
『……メリットはあル。進化変異は魔核ではなく武器を落とス。『魔武装』と呼ばれるソレは一介の魔道具や魔法具を凌駕する性能を持チ、何より成長する武器となル。しかシ、基本的にその成長率は武器化前の方が高イ』
淡々と話すガイドと、それを聞いて思考するリュウコ。
メリットを聞いてこの話をするということは、事実を教えるからメリットがあるかどうかは自分で考えろということらしい。
ガイドはそう判断すると、それ以降は何も話さなくなる。
「——いひっ」
色々な思考が頭を巡るが、最終的には一つの答えに辿り着く。
最大級に強くしてから殺す。
もしリュウコに匹敵、もしくは凌駕するほどに強化されたとしたら、それを乗り越えた先に今の自分を超えた自分がいる。
今までのリュウコには無いマインド。悪魔との修行でできた承認欲求に近い何か。
「『魔力壁』『魔力球』『魔力弾』『魔力拳』『魔力砲』」
リュウコは自分がよく扱う魔法を惜しみなく投入。
でき得る限りの最適の形式でとにかくそのエリア内に大量配置する。
主に『魔力球』がメイン配置。攻撃衛星、防御衛星としての役割を持っている数十個の『魔力球』をエリア内に旋回させる。
『魔力壁』はとにかく強度に振って旋回させている。
地面から生やすだけでなく、空中に足場としても活用できるように。
『魔力弾』は直接コロポを狙わず、空間内をぶん回す。
『魔力砲』も同様。反射性を高めてとにかく攪乱しまくる。
初めて扱う『魔力拳』は、リュウコの外付けの腕として扱う。
前腕部分がガントレットのような形状でリュウコの肩と脇に配置、ぎこちないが腕としても扱うことができる。
「よしっよしっ!『魔力弾』!『魔力砲』!」
コロポは詠唱も完璧なものにして、自分の魔法として放つ。
今まで使っていたのとは比べものにならないほど習熟した高い練度の魔法。
「おおおおおお!!!!」
コロポの雄叫びがエリア内に響く。
学習の結果、様々な技術を理解したコロポの魔力の扱いはまさに超一級、王城で出会ったこの世界の一流魔法使いたちよりも卓越している。
「死ね!リュウコぉおおお!!」
もはや魔法の名前を詠唱することもなく、コロポは空間内を縦横無尽に駆け回る。
重力というものが無いかのようなふるまいに、リュウコの頬を冷や汗が伝う。
「じゃああああいい!!」
「うるさぁああああいい!!!!」
叫びながら襲い掛かってくるコロポに、怒りを込めて応答する。
飛び蹴りに対して右ストレートの応酬。
つまり、強烈なカウンター。
「ぐぉぶえっ!!?」
「んんんぶぶぶ!!!」
顔面に蹴りが入ったリュウコと、鳩尾に拳がめり込んだコロポ。
1秒で距離をとり、今度はリュウコも立体機動を始める。
三次元的な動きの中で、魔力の流れもそれに伴い四次元的に拡がっていく。
流れるようで鋭利な魔法は、互いに互いの体を切り裂き、貫き、叩いて。
とにかく濃密な数秒の間で、両者は互いの技術を理解し、互いを理解していった。
コロポはリュウコから多くを学んだ。肉体的な戦闘技術をはじめ、魔法を扱う魔力の技術。戦闘そのものの技術も高まり、産まれたばかりの頃より飛躍的に強くなっている。
逆に、リュウコ自身もコロポからいくつかを学んだ。
自分だけではわからなかったこと、悪魔から学んだことだけではできなかったこと。それらをリュウコを学ぶコロポから学んだ。
気づかなかった悪癖の矯正や、新発見の技術形態。
リュウコとコロポの戦いが30分を過ぎた頃。
二人は互いに高みへと到達し、そして決着がつこうとしていた。
「コロポ。楽しかったか?」
「楽しかった。生まれたばかりだが、これからこれ以上の楽しみは無いかもな。」
「良いぞ。俺がもっと楽しいところに連れて行ってやる。」
最後の一撃、リュウコの拳がコロポの胸を貫いていた。
静かな決着。絶命したコロポの体は、魔核が落ちる時の崩壊とは違い、粘土のようにグニャリと一つの塊にまとまり、そして形を変えていた。
「コロポソードか。いいね。」
『ネーミングセンス死んでんナ。もっと凝った名前にしてやれ。』
できたのは片刃の西洋剣。鍔の部分に小さな宝石のような部分があり、装飾は少ない質素なデザイン。
しかし、リュウコの目にはその中に宿る魔力がちゃんと映っている。




