33 魂力
魂を理解したリュウコは驚くほどのスピードで魂力についての理解を進めていった。
その知覚に5秒、解析に15秒、掌握に30秒という破格のスピードでの理解。
1分にも満たない時間での理解は、全て大きな大きな土台があってのものではあるが―――
「それは禁則事項だ。黙ってな。」
「何言ってんだ?」
「こっちの話だ。それよりも続きだ。界力に魂力を入れるやり方。」
「ああ、おーけー。今、すごくなんでもできる気分だから。」
魂力はその名前の通り、魔力以上に優秀で万能で無敵な力。
マトモな人間は絶対に知覚できず、使えば使うほどに魂という絶対的なリソースを削ってしまうという壊滅的なデメリットがあるが
それに目を瞑れば、およそ完璧な力である。
「よっしゃ、来い。」
「だりゃあああ!!『魔力砲』!!」
魔力と魂力を混ぜた『魔力砲』。その威力は今までのものと比べ物にならず、悪魔の小柄な体格を全て覆い尽くすほどに極太な光の照射が行われ、地面に生えているナイトメアシープの毛が一部禿げるほどだった。
「魔法の威力を高める。クリア。」
「破技!鬼殺し!」
「肉体の強化。クリアだな。」
リュウコの拳は、今まで鋼のように無傷だった悪魔の片腕を中ほどまで粉々にした。しかし殴った拳は反動によるダメージを受けていない。
「じゃぁっしゃあああ!!!」
「奇声は抑えてくれ。うるさすぎる」
「んのぶっ!!?」
テンション高めに攻撃していたリュウコも、簡単に軽いアッパーを喰らって膝をつく。
しかも、それと同時に体の自由が失われ、その場に前のめりに突っ伏すことになる。
「それが魂力のデメリットだ。お前は自分の魂の1割ほどを使って今までの攻撃を行って来た。やろうと思えば半分以上を使っても動くことができるが、全て使い尽くすことは死を意味する。」
「……どれくらいで回復する?」
「自然回復はしない。お前の魂はどこから湧いて来るものでもないしな。」
「……」
突き放すようなことを言われたが、リュウコはそこまで焦っていない。
そんな非生産的で自滅的な方法を、悪魔が教えることは無いという確信があったから。
リュウコを殺すという目的だけなら、悪魔は今まで何万何億何兆回と、リュウコを殺すことができている。
「これで界力を使うのか。」
「正解だ。」
界力の説明で、他のエネルギーに変換できるというものがあった。
魔力の補充を最初は意識していたのだが、それは魂力のことを指してもいる。
悪魔の指導は最適解しか転がっていない。
まるで、何度もそれを行ったかのよう。
界力の変換は初めてだが、力の変換はかなり簡単で缶ジュースを飲むような感覚で魂力を補充することができた。
「ちょっと違和感があるな。」
「変換したばかりの魂は無地無垢な純粋魂だ。それを魂力として扱うことも可能ではあるが、そんな繊細さがお前にあるかな?」
「じゃあ、やっぱり魂力は有限なのか?」
「一日も待てば馴染む。変換した魂を使うというのも手だ。それは鍛錬次第だな。」
リュウコは違和感を明確にして、魂の継ぎ目を知覚しようとするが、それはかなり難易度の高い技能で、早々にそれを放棄した。
体の自由は取り戻したが、再生させた肉体が少しボロになっている。
「ステップなんだったかな。」
「覚えてない。」
「魂力を覚えたらそれでいい。次でラストステップだ」
「へぇ、うれしいね。」
肉体的なダメージは完全に回復しているように見えるリュウコだが、精神的な疲労は隠せない。
そんな状態で聞かされるラストステップ。
その内容は
「真剣勝負で俺に勝って見せろ。」
「無理無理無理無理」
絶対不可能と確信できることだった。
◇◆◇
3日が経過した。12時間の戦闘と12時間の休憩を繰り返して3セット目。
顔が変形するまで殴られて気絶して蹴られて気絶してを繰り返して、もう日にちの感覚も無くなってきたリュウコ。
そろそろ精神的にも限界かもしれないが、悪魔の顔を見ているとどこからともなく活力が湧いて来る。
「破技!鬼殺し!!」
「破技、鬼殺し」
悪魔はリュウコが物理的な攻撃をするとそれに合わせて同じ技を使ってくる。
その度に起こるのは相殺ではなく、威力違いの反撃で、大体反動と悪魔の桁違いの膂力による部位破壊。
毎回腕がボギボギにされて治すのに時間がかかっている。
「ッ!!!」
「足りないな。練度、覚悟、気合。馬鹿にする分には十分な概念だが、戦闘においてそれは欠いて良いものじゃない。」
口で『魔力砲』を放つリュウコに、それを片手でいなして何か真理のようなものを呟く悪魔。
時折、悪魔はそういうことを呟いてからリュウコを気絶させてくる。
「魂力までで十分かと思ったが、もう一歩が必要らしいな」
「あン?」
しかし、今回はそうでもないらしい。
いつものように腹にキツイ一発を入れて終了ではなく、反対に回復の手助けをした。
ものの数秒で全快状態にされたリュウコは、5メートルほど離れた場所で悪魔の出方をみる。
「俺達は非力だ。」
「……は?」
「ステータスが無い。それはこの世界において弱者でしか在れない。『ステータスシステム』の有無で、人はアリと恐竜くらいの差がある。」
「……システム?」
「だからこそアリでしかない俺達は、恐竜を殺せる武器を手に入れる必要がある。それが宝力や界力や魂力。システムの外にある、世界が元々持っている力だ。」
「……」
リュウコは黙って聞いているしかない。自分をアリだと言った悪魔の一挙手一投足が、リュウコの警戒網を刺激する。
「魔力を含めれば四つ、お前は手に入れた。しかしながら、それでも意味は無い。なんせ、使い手が未熟すぎるからな。」
「……」
「どれか一つでも完璧に習熟し、極めたら、それだけで世界を取れる。そんな力ばかりなんだが」
「……」
「サービスにあと二つ。教えてやる。」
「—————ッッッ!!!」
反射的に体が動く。心臓を掴まれるという慣用句のように、本当に鼓動が歪に歪んで、咄嗟に体が動いた。
リュウコがいた場所には、真っ黒なのか透明なのかもわからないような、曲線的な『手』があった。
「『死力』と『殺力』、これは少々特殊な力だが、『死力』は全く同じものをお前は扱えるし、『殺力』は精神力に依存するから、多少はマシに扱えるはずだ。」
「使い方は!?」
「ずっとそうだろう。実戦形式だ。」
こうやって、ラストステップ後半戦が始まった。




