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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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03 特殊組

 次の日の朝。専属のメイドに起こされ、リュウコは眠たい目をこすりながらも起床した。


「おはようございます。お召し物の準備はできています。さあ、脱いでください。」


 やはりグイグイと脱がせようとしてくるメイドをどうにか躱しながら、新しい服に着替える。

 白いシャツに青いジャケットのような物。下は白くてゆったりとしたズボンに長いソックスで、全体的に動きやすそうな服だ。


「それでは、片付けをしていますので、食堂へ。」


 メイドに見送られながら、まだ眠たい頭を揺らしてどうにか食堂に向かっていく。



「おや、リュウコか。今起きたのか?」

「ンだよ。いつにも増してガキみてェな面だなァオイ!」


 廊下を歩いている途中でばったり会ったのは、クラスメイトで召喚された勇者仲間の臥狼桃日ガロウモモカ金谷昇カネタニノボル

 一本結びの黒髪を揺らして、凛とした佇まいの綺麗な姿で、用意された衣装も似合っている。

 剣道でいくつかの大会を制覇しているらしく、全国で指折りの実力者ということは知っているが、それ以上に学校の美人ランキング(非公式)で常にトップ5に入っているほどの美女。

 なにより、どれだけ影の薄いやつでも名前と顔を憶えているというのが、人気のある裏の理由なのかもしれない。


 もう一人の、金谷昇は、いわゆるヤンキー風な不良という、かなり筋金入りのワル。ではなく、基本的にそういう見た目をしていて、かつ言動もそれっぽいので勘違いされるだけの、一般クラスメイト。

 刈り上げは別に校則違反でもないし、服装も既定の範囲内。体中に生傷が絶えないが、それはある理由がかかわっているだけで、喧嘩上等なわけではないとのこと。

 リュウコに声をかけてきたときも、凄んでいるというよりは、弟に対して元気よく声をかけているような雰囲気で、悪印象などは特に無かった。


「では、やはり君も訓練に参加するのか。」

「あンま無茶すンなよ。」


 軽く談笑しながら、並んで食堂に向かう。

昨日のこと。これからの生活で、リュウコがどうするかを話しては、二人とも驚いたような顔をしている。


「む、どうやら我々が一番乗りではなかったか。」

「よォ!三文の徳だなァ!マツダァ!」


 食堂内いっぱいに響き渡る声であいさつしたノボルに、軽く反応して会釈を返すのは、クラス委員である松田聖夜マツダセイヤ

 さわやかイケメンで高身長のイケメンランキング全校部門1位のスーパーイケメン。

 とにかく顔が整っている上に、成績も優秀で素行も優良な人気者。

誰にでも分け隔てなく優しいイケメンの中のイケメンだ。


「リュウコ君、ガロウ君、カネタニ君、おはよう。」

「私を苗字で呼ぶなと言っている。というか、リュウコはリュウコで呼ぶのに私は苗字なんだ。おかしいだろ。」

「おはよう。」

「キレンなよ。怖ェって。」


 モモカは苗字で呼ぶと怒る。自分の苗字の事がコンプレックスらしく、呼ばれるとどうも機嫌が悪くなる。

 その怒り具合は、気合の入っているノボルがひるむほど。


「リュウコ君はリュウコ君だからね。ところで、そっちは……ああ、ソノオ君か。」

「……おはよう。」


 どうやらリュウコ達の後ろにもう一人ついてきていたらしい。

セイヤの言葉に三人が振り返ると、そこにはリュウコよりも少し背の低いクラスメイト、園尾倫ソノオリンが立っていた。

 身長が低く、前髪を伸ばして目元を隠しているため、どこを見ているのか、何を考えているかがあまり分からない。変な子扱いされているところも見かける。リュウコは名前くらいしか知らない人だ。


 気づいたリュウコがした挨拶に小さく返すと、ササッと抜けて食堂の端の方の席に座った。

 元々内向的な性格なのは知っていたが、異世界に来たからと言ってそこは別に変らないらしい。


「まだ全員集まるのには時間がかかるだろう。ゆっくり待つとしよう。」


 セイヤの言葉に賛同し、皆適当な席に座って待つ。


談笑していると、数分程度だ大半の生徒が集まって、そこから遅れて国王と数人の騎士、料理を運んでいるメイドが入ってきた。


「おはよう。昨晩は良く眠れただろうか。それでは、朝食を用意している。食べながら余の話を聞いてほしい。」


 パンとスープ、サラダに厚めのハムという、やや豪華な朝食を食べながら、国王の話に耳を傾ける。


 国王が話したのは、この世界の情勢について。


 この世界には、人間以外にも文明を持つ生き物がいて、人間とは違うものとして扱われているらしい。

 いわゆる魔族という種族と人間は、この大陸の覇権を長い間争っているらしい。


「魔物という人類の敵と戦いながら、魔族とも戦争がはじまりつつある。この事態に備えるべく行ったのが勇者召喚。」


 つまり、強力な戦力を複数確保し、魔族との闘いや魔物という害獣の駆除を行ってほしい。

 それらが、今回の目的だと。


 問題は、人間側も別に一枚岩で魔族と敵対しているわけではないらしい。

この大陸にある国のうち、明確に魔族と敵対しているのは三つだけ。

 今いるこの国オロクルと、帝国と呼ばれる王国の隣国。その更に遠くにある神聖国。

 これらの国だけが、打倒魔族を掲げて戦っている。


「強制はせぬ。しかし、それだけ困窮した状態であるということは知っておいてほしい。我々ができるのは、救いを求める懇願のみ……」


 悲痛な表情でそう語る国王。

その話を聞いた生徒も、やはり暗そうな表情だった。


「ともかく、朝食が終わり次第、三手に分かれてもらおう。」


 パッと顔を戻し、話に戻った国王は、近くにいた騎士に声をかけて続きを任せた。


「まず、ここで戦いたくないという者は挙手してくれ。特に責めることはしない。戦う者を分けてそれぞれで教練する。」


騎士の声に、手を上げる者は一人もいなかった。

 意外なことに、気弱な生徒も混じっているこのクラスで全員が戦うことに賛成していたということ。

 これには、ミサキ先生もびっくりしているみたいで、一度驚いた顔をしたあと、天井を仰いで目元を手で覆っていた。


「ありがとう。その心意気に全霊の感謝を。」

「では、これから名前を読み上げる。呼ばれた者は私について来てくれ。」


 紙に書かれている名前を順番に呼んでいく。どういう基準での選考かは分からないが、体格の良い人が多く呼ばれているし、多分これは筋力組なのかもしれない。


「次に入ります。呼ばれた人は私について来てください。」


 今度は、昨日の黒ローブの人と同じ格好をした魔法使い風の女の人が持っている紙を読み上げる。

 これはたぶん、魔法組だろう。呼んでいる人の恰好とか、雰囲気からして多分。


 リュウコはどちらでも呼ばれないまま、数人が残っている中にポツンと取り残されていた。

 

「はい、では残った人たちは私と一緒に行きましょう。」


 リュウコたちを案内するのは、ぽわっとした雰囲気の女性。

騎士と同じ様相の甲冑を着ているということから、その人も騎士の一人だとは察せられるが、あまり強そうではない。


 こうして、筋力でも魔法でもない第三枠に収まったリュウコは、何をするのか不安に思いつつもそのゆるふわ騎士について行くことになった。



◇◆◇


 リュウコ達が連れて来られたのは、昨日案内された『講堂』。

そこで、できるだけ教壇に近いように座らされ、教壇には案内してくれたゆるふわ騎士が立っている。


「皆さんは魔法や武に向いていないと判断された特殊組です。もちろん、魔法も武術も基礎的な部分は習得してもらいますが、大切なのは長所を伸ばすことです。」


 壁にかかっている黒板に、チョークのようなもので文字を書き始める。


「特別な能力を持っているあなたたちには、自分の長所を伸ばして得意を活かす。スペシャリストの素質があります。ですので、あなたたちにはそれぞれ個別の指導者がつきます。」


 ゆるふわ騎士が手を叩くと、数人の女性騎士が講堂内に入ってきて、それぞれ座っている生徒の隣に座った。

 そこでようやく気付いたことで、特殊組にいる生徒の中で男はリュウコともう一人だけだった。


「個別指導ということで、軽い説明の後にそれぞれ指定の訓練部屋に移動してもらいます。これから長い付き合いになるとは思いますので、仲良くしてください。」


 リュウコの隣に座ったのは、キリッとしたツリ目と真面目そうな顔つきをした、厳しそうな女性。立っている時点で既にリュウコよりも身長が高かったのに、座高では対して差が無いという、手足がありえないほど長いのが印象的。


 美女ではあるが、威圧感の半端ない人の個人指導という予想不可能な展開に、緊張するしかできないリュウコであった。

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