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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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28 進化

「——ぁぁあああああああ゛あ゛あ゛!!!!!」


 喉が押し潰れる程、腹の底から叫んだ。

そうしなければ、痛みと喪失感で気を失ってしまいそうだったから。


 目線の下には、水面に少しだけ見える自分の腕。

そこに流れていく、真っ赤な血液。


「『アイス』!」


 失血を防ぐため、どうにか氷で腕の先を凍らせた。

しかし、腕と共に落ちた大量の血液で、体力がごっそりと削られた。

 

 そして、止血が済んで、意識を切り替えたシオンは、周囲への警戒を強める。


シオンが攻撃しようとした時、マッドラットの塊から何かが飛び出し、シオンの腕を切り落として、魔力の気配すら探知できていない。


 ラットの塊は、もう全部が死体となっていて、一匹たりと生きている個体はいない。


 それなのに、驚くほどの静寂と、ありえないほどの止水。


 シオンは、自分以外の生命など、この場にいないと断言できるほど、強く警戒網を張っている。


『A、AAA、ああ』

「———ッ!?」


 声のする方に目を向ける。

そこには、天井に張り付く何かが、ラットやシオンの血を浴びた黒い何かがいた。


『ナ、Ni、こ、レ』

「……え?」

『EEEE、EE』

「声を、マネしてる?」

『コエをマネシテル』


 次第に流暢になっていく言葉。ギラギラと光っている双眸に宿る、知性的な光。

 その姿に、シオンは根源的な畏怖を覚えた。


「こ、殺さないと、まずい!『アイスハンド』!」

『ころ、殺す。アイス、ハンド』


 肘から先の氷を更に伸ばし、整形し、手の形をとる。

魔力を使って、手と同じような挙動ができるように調整した。

 痛みは完全にマヒしているが、動き自体がぎこちない。

それでも、無いよりはマシだ。


「『フリーズブラスト』ォォ!!」

「『プロ、テクト』」


――バシィッ!!!


 現時点で最高の破壊力を出せる魔法を、地下水路の破壊も厭わずに放ったのにも関わらず、そのネズミは、六角形のような形をした、魔力の塊のバリアで、あっさりと防いでしまった。

 

 『プロテクト』は【無】属性の超基礎的な魔法、生徒たちはカオミを除き全員扱える。それどころか、それよりも強い属性系の防御魔法を扱えるようになったら、それ以降は一切使われなくなるくらいの、初歩の魔法。


 そんな魔法で、自分の必殺技を防がれた。


「うそ……」

『ウソ……じゃないよ』


――――バリィイン!!!


 再び、ソレの姿が視界から消える。

それと同時に、シオンの氷の腕が砕け、散った氷片が水面にボチャボチャと落ちていく。


 二度目のことで、すぐさま振り返るシオンだが、その先にあった光景に驚き、動きが止まってしまう。


 それは、あまりに悍ましい光景。


その何かは、シオンに背を向けていた。

 マッドラットの塊に向かって、しゃがんでいる。


 しかし、そこから聞こえる音が、その姿勢の意味を伝える。


――バリバリ

――――ッチャッチャ

――ングッングッ


 高速で奏でられる咀嚼音。

ソレは、マッドラットの山を無心で、一気に、食べていた。


「なん、なんで、食べて」


 誰に聞いたわけではない。答える相手を求めたわけじゃない。

ただ、思ったことが口から出た。それだけだが

 その場には、答える誰かがいた。


『お腹、空いてるんだ。生まれたばかりだから。』

「……え?」

『みんな、ぼくのおなかの中で、一緒に生きるんだ。ぜんぶね』

「あ、あなた、喋れるの?」


 言葉を発していたのは、産まれたナニカ。

その姿は、マッドラットとは似ても似つかない異様さで、人間と似たような骨格をしているように見えれば、しっぽや耳には、やはりラットのような特徴が表れている。

 血であまり見えないが、体色が明らかに、マッドラットのような茶色ではない。

 むしろ、それとは反対に、様々な色で描かれた虹。

水面に垂らされた油の膜のような色をしていた。


『うん、喋れるよ』

「ねえ、じゃあ、ここから出て行って。そしたら、追って殺すようなことはしないから」

『出ていく?』


 端的に言う。シオンは選択を間違えた。

産まれたてのナニカは、最初からシオンに攻撃をしている。

 一度目の奇襲、二度目の攻防、その結果で、シオンの心は折れ、どうにかこの場を、良い感じに収められないかと、あきらめのフェーズに入っている。

 

 だからこそ、言葉が通じる相手に対して、交渉しようと持ち掛ける。

人間の不思議なサガ。言葉への信仰。会話の神聖視。


 そんな奴の末路は一つ


『ここはぼくのばしょなのに?』

「え?」

『お前が出ていけよ』


 再び視界からナニカが消えた。

残像のように残った返り血から、体色がはっきりと見えた気がした。

 目を潰す太陽が持っているという、虹色。

 不規則で、まるで常に動いているかのような歪なラインを描きながら、ありえない動きをしていた。


――ガギッ!


 咄嗟に凍った腕でガードした、首から上を狙った攻撃を警戒して。

その警戒は半分正解で、丁度首に当たる部分で氷の半分くらいを何かが削った。

 しかし、もう半分がシオンの腹部を大きく裂く。


 噴水のような血液が、水路の水を赤く染める。

大量の失血で体に力が入らず、シオンはその場に倒れ込む。


 仰向けに倒れたのはよかった。水での窒息は免れた。

溺死は苦しいらしい。失血は苦しいが、半分は眠るように死ぬと聞いた。


『あれ、はずれた?』

「……」


 首への攻撃が防がれたことに疑問があるらしい。

ナニカは上から覗き込むように、シオンの顔を見る。

 ナニカの疑問に答えるような余力は、もう残っていない。


『でも、死ぬよね』

「……」

『楽にしてあげるよ』


 首に向かって、高質化した爪を向けるナニカ。

トドメを刺される瞬間、つまり、シオンという人生が終わる瞬間。

その脳裏には走馬灯らしい映像が流れる



『初めまして、僕は鬼神龍虎。変な名前だけど、リュウコって呼んで』

『大丈夫だよ。僕がなんとかするから。』

『きっとそれは、運が悪かったんだ。』

『良い人なんてのは、自分にとってって枕がつく便利な言葉だぜ。』

『黙れ。聞きたいのはそんな言葉じゃない。』

『今度の夏祭り、一緒に行こうよ。』

『勉強とか、教えてほしいな。』

『ぶっ殺す!絶対に殺してやるぞ!勇者ァアアア!!!』

『あぁ……なんで、もっとはやく……』


『愛してる』



「りゅうこ……くん」

『りゅーこ?名前?ねぇ、反応してよ。まだ生きてるんでしょ?』


 ぼそっと呟いた。ただ名前を言いたかっただけの、意味の無い呟き。


「また……会えるかな」


 そんな呟き、聞き入る相手もそこにはいない。

いないはずだった。

 

 それは、世界が知らない存在だから。

 それは、予定外のことだったから。




「待たせて悪い。こんな俺だけど、また会ってくれるのか?」



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