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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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24 氷と神聖

 道路や地下配水など、日本だけではなく世界中でよく見られるマンホール。

かの有名な『真実の口』も古代のマンホールだったという話が、頭の隅をかすめる。

 しかし、それ以上に目の前の不自然さに目を見張る。

二人が見たのは、地下水路への入り口ということで案内されたハズの場所。


「マンホールみたいだけど、何かの【紋】が刻まれてる」


【紋】とは、魔法形態の一つ。

【陣】よりも簡易的で、かつ汎用性の高いものではあるが、その分強力な魔法の行使が難しく、複雑な術式などを書き込むことはできない。

 また、物に書き込むことでその効果を付与することも可能。

【陣】であれば使用のために魔力を注ぐ必要があるが、物に書き込む場合の【紋】は空気中の微量な魔力を効率よく循環させて自動化することも可能。


「なんて書いてある?」

「多分二つ、『魔物忌避』と『魔力自動循環』」

「じゃあ、これのお陰で水路から上がってこないんだ。」


「そうです。この出入口はこの街に12ヵ所。現在発生しているという4ヵ所もこの蓋によってラットが登っては来ません。」


 案内してくれた男がそう答える。


「しかし、1ヵ所だけが子供のいたずらで外されてしまい、度々ラットが出てきてしまうのです。その際に地下で繁殖していることが判明して、依頼を出させていただきました。」

「では、ここから下に」

「はい、この街の冒険者は現在、空いている蓋の場所で外に出るラットを駆除していますので、あなた方には大元を駆除していただきたい。」


 この街に来るまでの間に騎士のサムから聞いていたのとほとんど同じ内容を確認しつつ、シオンはマンホールに手をかけて、ゆっくりと開いた。


 開けた瞬間にラットが飛び出る可能性を考慮して、ランには少し離れた場所で魔力を練ってもらっている。


 もちろん、自分自身でも対処できるようにと、魔力での警戒は怠っていない。

 

「開けるよ」


 少し重たい蓋を、両手でしっかりとつかんで引く。

強い抵抗を感じたが、二ヶ月の訓練で鍛えられたシオンの腕力なら、ちょっと開きにくいビンの蓋も同然。


―――ギィ


 耳障りな音が路地に響き、中の暗闇が見えてくる。


『CHUDHUDHU』


 かすかに聞こえてくる、生物の声。

一瞬の静寂を置いて、気配が一気に登ってくる。

 少し大げさに起立してくる鳥肌を我慢して、蓋を横に置くシオン。


『DHUOOO!!』

「『アイスアロー』」

「『ウィンドボム』」


 一斉に駆け上ってくるマッドラットに対して、魔法で迎え撃つ。

マッドラットの属性は【地】で、それに相性の良い【風】の爆発と

『獣爪種』そのものに強い【氷】の矢。


 その二つで迎撃する。


『DHOO!?DHUDHUU!!!』


 手ごたえあり、最初の攻撃魔法で仕留められたのは2匹のマッドラット。

しかし、登ってくるラットはその2匹だけではない。


 大量のラットが、我先にと登ってくる。

自分の仲間でも足場にして、とにかくひたすら光に向かって。


「『氷乱槍』」


 大量のネズミを殺すために、10本の氷柱を突き落とす。

1本につき1体なんてのは理想で、1体に2本刺さるときもあれば、かすっただけで穴の下の暗闇に落ちていくものもある。


 ついにマンホールから飛び出して来たマッドラット。

 群体で数が分からないが、それでも倒した数より多いのはわかる。

このまま放置していたら、それだけで街の脅威になるかもしれない。

 冒険者が空きっぱなしの穴を放置できない理由もわかる。


だからこそ


「『圧界』」


 マンホールの入り口から、1メートル圏を対象に、風の壁を作る。

その壁は少しだけ滞留すると、そのまま中心に向かって小さく縮まっていく。

 範囲の縮小に伴い真空になっていくその空間内で、1匹、また1匹と、ラットは圧死していく。


 これが、オゼキフランソワが得意とするオリジナルの魔法。


『GHOOOO!!!』


 力強い断末魔と共に一掃されていくネズミ。

中々にグロテスクな光景ではあるが、血飛沫も『圧界』の中で完結し、それが飛び散ることはない。


「衛生的に問題があるから、中に戻すのはやめてね。」

「分かってるよ。」


 ランは圧縮されたネズミ塊を隅に置き、追加のラットが登ってこないかを警戒。

 目の前で仲間が一つになったことで、恐らく後続のラットは登ってこない選択を取った。

 人間換算で5歳児程度の知能を持っているというのも、ラット系の特徴である。


「『アイスアーマー』」


 シオンは全身に簡易的な氷の鎧を纏い、穴の中に入ることにした。

念のため、ランには外で討ち漏らしを対処してもらうことに。

 今の戦いで、ある程度敵と自分の戦力差が感覚で理解できたシオンは、臆することなく中に入っていく。


「『コールドエリア』」


 シオンを中心に、空気を凍らせる魔力の波を展開。

その低温でネズミを寄せ付けないまま、水路の中に辿り着く。


 暗く、上から覗く光も薄いような、真っ暗な世界。

地下水路、暗渠あんきょとも呼ばれる、直径3メートル程度の空間。


 通路の両端にある、移動用の足場は水に濡れていないが、それでもその中は少し臭い。

 そんな地下水路で、とにかく増え続けることだけを目的に、成功している存在。


『DHUUUOOOOO!!』


 暗い視界に広がる、無数の双眸。


「『光球』」


 ただただ光るだけの魔力の玉、【光】属性を帯びた魔力の塊というだけで、LEDライトよりも激しい灯りが生まれる。


『DHU!!!!』


 そんな光を、闇の住人が直接見たらどうなるか。

その結果が何十件も目の前に広がる。

 急激な閃光に目を焼かれ、ネズミたちは悍ましく暴れまわる。

そうなってしまえば、ただの的が数十個。


「『零氷聖界』」


 シオンは練り上げた魔力を解放する。

『多重』も『圧縮』も、絵描きにとっての手癖のようなもので、ほとんど反射で行えるようになった。

【聖】や【氷】の練度を高め、【神聖】や【零点】の属性にまで高めた。

魔力の量だけで言えば、生徒たちの何倍も。


 そんなシオンの魔法は、その場にいた117匹のマッドラットの息の根を、文字通りに止めた。



 

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