02 宴もたけなわ
全員のステータス確認が終了し、一旦管理するために時間を空け、その間に王城内の案内をしてもらっている。
「こちらが皆さまに生活していただくための寮棟です。それぞれの方に専属の使用人も用意させていただき、不自由の無いよう努めさせていただいています。」
案内してくれているのは、甲冑を着た騎士だか兵士のような恰好の人。
甲冑の中の籠った声ではあるが、ハリの良い低い声をしている。
「まずは皆さまのために用意した個室を見ていただきます。十分後にまた廊下に出ていただき、案内を再開しましょう。」
各部屋の前に立っているのは、メイドさんや執事のような恰好をした美男美女。
それぞれに割り振られた部屋で、男子生徒にはメイド、女子生徒には執事が一人ずつつくらしい。
ちなみに、この世界でも一日は二十四時間で一時間は六十分で、一分は六十秒。三十日で一月で、大体十二ヶ月の360日で一年ということらしい。
寸法やらは、大昔に世界を救った勇者が異世界、つまり日本から持ち込んだ文化をそのまま使っているということらしい。
ともかく、未だに暗い様子の龍虎は、メイドさんにはしゃぐこともなく、そのまま部屋で十分の休憩をとることにした。
「用意したお召し物をお着換えになってください。異世界の服はそれだけですので、汚れや傷の無いよう、こちらで保管しておきます。」
「あ、はい。わかりました。」
凛とした佇まいをしているメイドに、少し気圧されながらも服を着替えようと手をかけるが
「あ、あの、顔をそむけるとか、一旦出て行ってもらうことは」
「ご遠慮なさらず。どうぞ」
メイド、なんと龍虎の生着替えをガン見。
驚くほどにガン見。目線すら逸らさずに、龍虎の方をガン見している。
「えっと。」
「難しいようでしたら、お任せください。」
「え、ちょ、まっ!?」
戸惑っている間に、あれよあれよとあっという間に着替えさせられ、動きやすい装飾のあるジャージのような恰好にされてしまった。
◇◆◇
十分が経過し、メイドさんは部屋に残ったまま、龍虎は他の生徒と一緒に王城案内の続きに行くことに。
大量の騎士たちが訓練をしていて、自分たちもそこで訓練をすることになるという『訓練場』
座学や魔法の実演を行う、教壇と黒板が中心にあって、それを囲む半円状の椅子と机が並ぶ『講堂』
大量の本が詰め込まれた『図書館』
様々な施設を見て回っては、案内役の騎士によって簡単な説明が行われる。
移動で2時間、説明で1時間。効率よく回ったらしいが、合計で3時間ほどかかって、やっと最初に召喚された広間に連れていかれた。
「こちらは王と謁見できる謁見の間。こちらで国王陛下による説明を頂き、本日の案内は終了です。その後は食堂で食事をして――」
長々としたここから就寝までの流れを耳の端で聞きながら、改めて召喚して初めて見た景色を見る。
色々と準備されている品が無くなったからか、簡素というか広いというか。豪華な壺や高価な絵などが飾られているという印象とは真反対のような内装で、赤い絨毯と同じ紋章の刺繍が入った垂れ幕がいくつか並んでいるだけだった。
「お集まりいただき感謝する。余はこの人王国オロクルの国王である、トーマス・S・オロクル。この度は我々の勝手な都合で強制的に召喚したことに対する謝罪の気持ちを込めた宴を開こうと思っている。できることなら、皆に参加していただき、英気を養っていただきたい。」
校長先生ばりに長い挨拶の言葉だったが、要約するとこんなことらしい。
宴、つまり歓迎のパーティを開いてくれるという言葉を聞いて、数人の生徒の顔から緊張が抜けていった。
「普段であれば食堂での食事だが、今回は宴のため、大広間で行う。」
王城内説明の際に見た『大広間』。この謁見の間や、大人数が入れる『講堂』よりも更に広く、壁際に膝くらいの高さの壇のある部屋だ。
案内されたときには、テーブルと椅子もセッティングされていたし、そこから会場設置をしても時間はかからないだろう。
料理の用意も済ませてあるらしく、生徒たちが会場に移動したときには、銀色の半球の蓋が乗った皿がいくつもテーブルに乗っていて、壇上は見えないよううにカーテン?のようなもので隠されていた。
「本日は勇者様を歓迎するため、料理、舞踊、魔法の演舞など、様々な催しを予定しています。存分にお楽しみください!」
騎士の一人が説明すると、おもむろに室内の照明が暗くなり、壇上の幕が開き始めた。
「第一演目『そよ風の~~~』」
なんだかんだと壇上で繰り広げられる出し物に、生徒たちは半分ほど満足げで、知らない場所に来た緊張感が、初めての海外旅行くらいには和らいでいた。
とはいえ、調子に乗って騒ぐ者が出るわけでもなく、龍虎も黙々と自分の前にある料理を食べていた。
「ねぇ、リュウコ君。」
「っん。セキさん。どうしたの?」
話しかけてきたのは、クラスの中でも特に龍虎に話しかけてきていた赤紫音。
愛らしい小動物系の顔立ちをしていて、身長も平均を下回る庇護欲をくすぐる美少女といった感じ。
特に、クラスだけではなく学校全体で有名で、隠れファンクラブなんかの噂もあるくらいには人気のある少女だ。
「ちょっと気になったんだけど、リュウコ君ってそんなに髪長かったっけ。」
「え?」
そう言われて、初めて自分の身に起きている異変に気付いた。
リュウコの髪は、元からやや長かったのだが、それでも肩につくかつかないか程度。それが、今掴んでみたところ、明らかに肩甲骨辺りまで伸びている。
「ホントだ。なんでいきなり」
「ふふっ、こうして見ると女の子みたい。」
クスクスと口元を抑えて笑う彼女に、照れた様子で顔をそむける。
可愛らしい笑顔にのぼせている状況でもないというのはわかっているが、やはりそれでも気恥ずかしい。
「ところでさ、ステータスが出なかったって本当?」
「うん、なんでか分からないけど、僕だけ変だったんだ。」
「それはアタシも聞いたよ。大丈夫なの?」
シオンとリュウコの会話に横から入ってきたのは、今この場では唯一の信頼できる大人である、担任の芥三咲。
男勝りな言動こそすれ、見た目だけなら美人女教師で生徒想いなミサキ先生は生徒人気が高い。
このクラスでも、ミサキ先生の事を信頼している者が大勢いる。
リュウコやシオンもその中に入っている。
「体調が悪かったり、何か心当たりがあることは?」
「特に何も。水晶の調子が悪かったわけでもなさそうですし。」
他の水晶に触れてみたり、別の者が触れて試してみたりと、色々な方法をとってみても、リュウコのステータスは読み取れなかった。
その検証結果としては、リュウコにステータスが無い。もしくは、リュウコのステータスは特定方法でなければ見られない。
そんな仮説しか立てられなかった。
「リュウコ。お前は絶対に勇者として訓練するな。」
「えっ」
「ステータスによる補正が重要だと聞いただろう?それが無い以上、お前は一般人よりも危険なんだ。」
ステータスを読み取る過程で説明されたこと。
ステータスを読み取ってそれらを強化することで、人はデジタルに見える形で強くなれる。この世界の住人は、全てそんな状態だということらしい。
HPならば、どんなに死にかけてもHPを回復するだけで元気になるし、筋力が高ければどれだけ華奢でも大岩を持ち上げることも可能。
そんな、素の身体能力に補正をかける役割があるのが、ステータスであるとのこと。
「大事な生徒を危険にさらすわけにはいかない。」
「危険の無い範囲で頑張りますよ。お願いします。」
まっすぐな目で危険を知らせてくれるミサキ先生に、まっすぐな目で返すリュウコ。
周りが頑張っている中で一人引きこもっているような不真面目なリュウコでもなければ、生徒が死ぬ確率を少しでも下げたいミサキ先生の気持ちがわからないでもない。
そう思えばこそ、自分から折衷案を叩きつけるほかに無かった。
「シオン。リュウコが無茶をしないか。見ていてくれ。」
「は、はいっ」
「そんな保護者みたいな……」
同級生がお目付け役になったことにげんなりしながら、リュウコは料理を食べ終え、壇上の演舞の方に目を向ける。
「【水霊召喚】【雷精召喚】」
杖を振り、宙に浮かんだ魔法陣から飛び出す水の精霊と雷の精霊を交差させながら、電気と虹による幻想的な光景を映し出している。
現代日本でも、やろうと思えば再現はできるのかもしれないが。
それでも、若人たちには初めて見る、刺激的でファンタジックな見世物だ。
「すごく綺麗だねっ。」
「そうだね。」
ニコニコしながらその様を見ているシオンの横顔を見ているリュウコ。
召喚初日の夜は、ゆるやかに時間が過ぎていった。
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