19 背水の陣
平原を覆い尽くすほどの大量のコロポ。その全てが二本のナイフを持っている『Kコロポ』。ハンマーを持った『Hコロポ』と剣を持っている『Bコロポ』と戦った感覚で見積もれば、『Kコロポ』も楽に勝てる相手ではない。
それだけではない。
単体で座視するのが難しいほどの速度で移動する『Kコロポ』を500体。
数字だけで言うとあまり想像ができないが。
今までが大体4体が最大で、そこに1体増えて5体を1セットとする。
そして今まで6セット分戦って来たと考える。
そこに4セット分の戦闘を加えると10セット。ここでやっと50体。
20セットやっても100体。これは10セットを10回行うという話。
それが500体という数字。
リュウコは戦闘思考と論理思考を切り離して考える。
今までの総勢10体ちょっとで死にかけている自分が、その50倍という脅威に勝つことができるのか。
おそらく、順当な手段では勝てない。
数の暴力を凌ぐ、圧倒的暴力。それの最適解を見極めることが大切。
そういう点での判断力は、リュウコの得意とするところで
「『魔力壁・改』」
連戦に次ぐ連戦で強化され続けた魔力壁。
今では、『圧縮』『多重』された魔力の塊をレンガのように組み上げて作った壁を展開する。
工程が増えるせいで数フレーム程度の遅れが生まれたが、その分強度はかなり高まっている。
「『魔力球』」
自動展開衛星。そんな感覚で扱える『魔力球』は、手数として展開しておくのが便利。
同時に扱える数の2倍を展開する。全部で10個の『魔力球』を展開して、自分の周りに浮遊させておく。
「『魔力弾』」
単純な魔力の弾丸の乱射。というだけでは、自分に誤射して負傷する可能性がある。
そのため、ある程度指向性(リュウコと反対側)を持たせて乱射する。
意識的に扱える『魔力球』の数は5個だが、ただ乱射するだけでいいなら10個同時に使うことが可能。
ボタンを連打するだけというのはマルチタスク足りえない。
ある程度距離を取ることで自分を追うように誘導しつつ、『Kコロポ』の移動を制限し、弾丸でダメージを調整。
どうにか、一撃必殺で殺せるようにHPを削る。
その目的で撃ちまくってはいるものの、どうも感覚的には豆鉄砲。
持っているナイフで防御しているのかもしれない。
◇◆◇
『ふム、どうしたものカ』
逃走攻撃を始めてから30分が経過しても、『Kコロポ』は一匹も始末できていない。
全身の傷はある程度塞がり、体力も息も取り戻しはしたものの、やはり倒せないことにはジリ貧。
魔力の残量は半分を切っていて、腹も空いてきた。
『まだまダ一匹も仕留めてないゾ。このまま逃げ続けるつもりカ?』
「うるさい。まだ30分だ。これからだよ。」
『豆鉄砲はあいつらに効いていなイ。一匹一匹確実に葬り去った方が良いとは思うがナ。』
「良いんだよ。僕には作戦があるんだ。」
『ほほウ』
口からのでまかせではない。何か確信めいたものを含んでいるのを感じたガイドは一旦黙ることにした。
草原を走るリュウコの足は淀みなく、その視線は何かを秘めている。
『しかシ、そろそろ乱射もキツそうダ。いっそのこと止めたらどうダ?』
「黙ってってば。そろそろ到着するから。」
『到着……?ふム。なるほド。』
ガイドは完全に黙った。
リュウコの視線の先には、地面に広がる魔力弾の弾痕。
エリアの中心部にある大きな木の周りをぐるっと回ってきた形になる。
「『魔力陣・爆』」
ここで、基本的な魔法の形態についての説明を入れておく。
魔法は【属性】と呼ばれる効果を変化させるものとは別に、【型】と呼ばれる発動形式の種類がいくつかある。
その基本的な【型】は、『砲』『陣』『紋』『装』の四つ。
それぞれが役割のある特徴的な型として、魔法形態の中で区別されているが、一般的には『砲』を魔法として扱うことが多い。
『魔力砲』や『魔力弾』などは『砲』であるし、魔力壁でさえ、広義的には『砲』の魔法である。
そして、今回リュウコが狙ったのは『陣』の魔法。
本来『陣』は、魔力を込めた水や塗料などで描いた円を基本とした『魔法陣』に起動するためのプロセスを設定し、魔力を注入することで起動する。
そこに込める魔法の種類は術者によって変化し、かなり自由に設定できる。
ある程度であれば魔導書なりでパッケージングされており、ある程度簡易に扱うことができる魔法である。
前提説明終了
そして、ここでリュウコが使った魔法は
『魔力弾』を地面に埋め込むことで、間接的な魔力のラインを形成し、円を描くことで『陣』の条件をクリア。
字や絵でイメージする目的で書くことはあるが、今回は省略。
求める機能は『爆破』それのみ。
―――ドガアアアアアアアアッッッ!!!
円の軌道上にいる長蛇の列のコロポ達。
それを巻き込んでの大規模な爆発が発生。
起爆の連鎖は平原全体を巻き込み、大規模な破壊を見せた。
その爆発はリュウコの体も少し焼いたが、それ以上にコロポを焼き尽くし、外周にいたコロポの数体は半焼程度で済んだものの、インサイドを走って最短距離でリュウコに迫っていたコロポは軒並み即死した。
残ったのは、焼け野原と抉れた台地になった平原だったものと、全身火傷のリュウコと、それ以上に満身創痍の数体のコロポたち。
ギリギリ気絶は免れたリュウコは、そこから一体一体との距離を詰めて、一発で殺す作業を数回繰り返した。
『ふふ、悪くないナ。発想という思考ベクトルの違いも理解しタ。少しだけ飛び級しても良いかもしれないナ。』
薄れゆく意識の中でそんなことを言われたリュウコは、滲み出る絶望感の中で気絶した。
◇◆◇
『悪くない戦闘思考力ダ。連戦という部分を強調してはいたガ、一網打尽を狙ったのは悪くなイ。』
気絶したリュウコに回復魔法をかけながら、ガイドは一人で呟く。
天を仰ぐように向けられたその顔は、目が妖しく光っており、下あごがガクガクと動いている。
『リュウコの魔力、身体能力、戦闘思考力、どれも十分ダ。しかし、やはり経験数が足りてないナ。場数だけが力に成ル』
誰が聞いているというわけでもないのに、ガイドの独り言ちは続く。
何度も何度も、誰かに言い聞かせるように。




