11 勇者
行けそうなのでもうワンプッシュ
『最上級』の魔物である『ネクロタクル』は、大量の触手を自在に操り、持ち上げているカズユキとヒロを弄んでいた。
特にカズユキは、腹部を強く締め付けられており、鎧が変形して食い込んでいる。
ヒロは持ち上げられている足の部分を強く絞められているのか、骨が折れて関節がいくつも増えているように見える。
それだけではない、ネクロタクルを中心とした周辺には、前にいたはずの1班と2班の生徒、そして騎士が二人倒れている。
二班の人たちは気絶しているようだが傷は無く、騎士の方はどちらも体の一部が欠損しているうえに、甲冑のせいで遠くからは様子が分からない。
よく見れば、1班のメンバーのミサキ先生とシオンは意識があるらしい。
「二人を離せ!」
支給された剣を構え、ネクロタクルに向ける。
人間の言葉が魔物に伝わるとは思っていないが、それでも叫ばずにはいられない。
ネクロタクルの攻撃手段であろう触手に注目しつつ、できるだけ距離を詰めようとにじり寄る。
――――ッバシィッ!!!
「ぉ!!?」
見えない場所からの攻撃を喰らい、リュウコは大きく弾き飛ばされる。
元々軽いせいなのか、それともそれだけ強力な攻撃なのか、ともかくリュウコは10メートルほど飛ばされ、地面に転がる。
幸いだったのか、不幸だったのか、腕を巻き込んでの攻撃は骨を砕くこともなく、リュウコも後ろではなく、向かって左方向に飛ばされた。
距離を取られなかったのは、幸いだったかもしれない。
「『魔力弾』……」
リュウコの使える魔法は多くない。
その中でも、貫通力のある攻撃を選んだ。
『魔力弾』は魔法の中でも基礎中の基礎。
その攻撃力は適当に扱えば豆鉄砲程度だが、魔力の技術を高めれば高めるほどに強力な武器となり得る基本の魔法だ。
リュウコはその魔法に、『多重』と『螺旋』と『形状』の要素を組み込むことで、ライフル弾のように強力な魔法として扱うことができるようになっていた。
出所が不明な魔法の知識ではあるが、こんな時には感謝するしかできない。
リュウコはその一撃に起死回生の一手を賭けて、ネクロタクルの頭部を狙って打ち込んだ。
――ブシュッ
だというのに、『魔力弾』はネクロタクルの頭部に直撃しただけで、少しめり込んだ程度のダメージしか与えられなかった。
「……うそだろ」
ついついそう呟くリュウコ。
絶望感が体を覆い、冷たい汗が背中を流れる。
そんな時
「……リュウコ君」
声が聞こえた。
倒れているシオンの声。
それを聞いた時、リュウコは胸の奥にある心臓が、大きく脈打ったのを感じた。
「っお、おおおぉおおお!!!」
気づけば、大きく腹から声を上げて、ぶるぶると震える足を叩いて立ち上がっていた。
柄を握る手は万力よりも硬く握りしめられて、目は穴でも空けようとしているくらいに鋭い。
気づけば、少し遅い世界の中で、リュウコは自分に向かってくる無数の触手を見ていて、
更に次の瞬間には、それを回避してネクロタクルの懐に潜り込んでいた。
「ぃいいああああ!!!」
言葉にならない奇声で腹に力を込める。
頭部が硬いのはわかっている。
だから狙うのは、自由自在に動き回っている触手の根本。
これだけ変則的な動きができるということは、骨があっても多関節で柔らかいハズ。
そう思って振るった一刀は。
――バシィイイイイイ!!!
ネクロタクルの触手を一本、完全に切断していた。
――――ビュンッ
「ぉおお!!?」
触手一本の切断に成功しただけで、集中力が切れたらしい。
再び気づいたときには、リュウコは別の触手に殴られて、宙を舞っていた。
「シオン!先生!逃げて!」
もはや、自分の命も危ないと直感したリュウコが叫んだのは、仲間の安全確保。
意識は朦朧としているようだが、二人以外に頼れる人はいない。
できれば、他の人を連れて逃げてほしいところだが、自分自身が無事に逃げることを優先してほしい。
どうにか両足で着地したリュウコは、地面を蹴ってネクロタクルに向かって走る。
(回避——無理——打ち返——三本——威力を分散——いける)
一瞬のうちに色々な思考が頭を巡る。
ネクロタクルの触手は、自在に見えてかなり直線的で、かつ大振りしかしてこない。
鞭のようにしなっている触手も、リュウコ目掛けて振りかぶっているせいで、回避、もしくは受け流しただけで数秒のラグをつくれる。
一本減らしたのが効いているのか、慌ててカズユキとヒロを離したが、それでも遅い。
「『スラッシュ』」
訓練期間に習得した、剣のスキル。
水平に一閃、ただ力の限り振るだけの技だが、それでも決まった型は力をみなぎらせるのに十分で
――ズパパァッ!
2本の触手をまとめて切断した。
ビタンビタンと地面でのたうつ2本の触手。
合計で3本の触手を切断したが、残った触手は7本もある。
それでも
「二本は自立に必要だなぁ!!」
無理矢理作った笑顔でそう叫ぶ。
この場にふさわしい表情かというと、そうでもないだろう。
しかし、そんな顔が作れるという胆力で、リュウコは再び攻撃を繰り出す。
「『魔力弾』!『スラッシュ』!『魔力弾』!」
使いこなせるだけの魔法と技で、無茶苦茶な攻撃を繰り返す。
懐に入ったネクロタクルは、テンパってさっきのような突き放す攻撃をしてこない。
焦ってどうにか自分から距離を取ろうと動いている間に、動いている触手を更に二本切り落とした。
(いける!やれる!)
そう思った。焦った。油断した。
リュウコは視界に入った2本を見ていたのに、無防備な3本目の切断を強行してしまった。
「ぶっ―――!!」
届いたのはネクロタクル側からの攻撃。
今まで、自分を支えていた二本のうち、一本を使っての不意打ち。
リュウコの腹部に深く突き刺さる、鋭利な一撃。
貫通こそしなかったが、内臓をやられた感覚がした。
「ごごぼっ」
口から血を吐く。肺がゴロゴロと音を鳴らす。
油断、油断、失敗、死。
いろんなことを考えて、そして考えるのをやめた。
ネクロタクルを道連れにする。
それだけに注力して、全神経を魔力操作に集中した。
(『拘束』『不動』『粘性』)
そういう名前があるわけじゃない。
心の中で言葉にすることで、魔法の形を整えている。
ネクロタクルの動きを完全に止めることに成功。
魔力圏外の触手の先端くらいは動くが、それだけだ。
動けなくなったネクロタクルと、瀕死のリュウコ。
シオンもミサキ先生も、やはりまだ動けないらしい。
もぞもぞと移動しているが、それもカメの歩み。
リュウコの魔力も無限ではなく、次の4班が到着するのにも時間がかかるだろう。
自爆するしかない。
縛っている魔力を練り上げて、できるだけ小規模の自爆を起こす。
リュウコは死ぬが、みんなは守れる。
「『エクスプロ―――」
「———もう大丈夫」
凛とした声が響き、何かが飛来してくる音がする。
その声に覚えがあるリュウコは、つい魔力を収めてしまう。
「『聖閃斬』」
気づいたときには、ネクロタクルの頭部は十字に切断されており、その躯は灰と魔核に変換されつつあった。
あんなにも強力だった敵を一撃で瞬殺してしまったのは。
「遅れてすまない。大丈夫か?」
「……美味しいところ、もってかれちゃった。セイヤ君」
「———リュウコ!?」
松田聖夜。勇者の生徒たちの中で、真の勇者とすら呼ばれている、最強の生徒。
彼が何故到着できたのか、そんなことは知らないが
安心したリュウコはそっと意識を手放した。
それだけではない。
倒れたリュウコの体は、迷宮の地面に沈み込むように消えていった。
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