未来へ
最終話です。
漸く俺が動き出した時には次の日の夜が来ていた。どれだけ何も飲まず食わずでただ泣いていたのかと 思うくらい、すっかり外は日が沈み窓から月の明かりが俺を照らしている。
俺は文字が滲み、さらに読みづらくなってしまった彼女からの手紙を再度時間をかけて読み直した。そして、ある場所――先日埋葬されたばかりの彼女が眠る墓へ、向かう準備を整えた。
栞の墓がある墓地に着いた時、辺りは完全に真っ暗で夜の十時を回っていた。墓場だからなのか、街灯の灯りは一切なく、とても不気味で背筋が凍る。それでも俺は持ってきたショルダーバッグから懐中電灯を取り出し、彼女の墓へ迷うことなく真っ直ぐに進む。
彼女の墓は当たり前に新しく、まだ枯れていない菊の花が供えられている。俺は墓の前に立って、手を合わせた。これから俺の誓いを聞いてもらうために。
「……栞、手紙読んだよ。ありがとう。ちょっと色々と言いたいことがあるけど、俺は決めたよ。これから栞が居なくても、お前のことをずっと愛してると思う。だからこそ俺は――……」
誓いを言い終えると、またなと別れの言葉を告げる。名残惜しいけれど、さっき誓った言葉を破らないために俺は前を向き帰路につく。その道中、彼女の”分かった、待ってるね”という声が聴こえたような気がした。
*
「久しぶり、栞」
数年後、桜が綺麗に咲き誇る季節の今日。俺は数年ぶりに彼女の墓を訪れていた。最後に彼女の墓に来たあの日の夜の誓いを叶えて。
「あの日誓ったこと、叶えてきた」
栞から返事があるなんて思っていないから、俺は一方的に言葉を紡ぐ。
「俺、夏に結婚するんだ。栞を喪ってからずっと俺を支え続けてくれた後輩がいて、栞を愛したままでもいいからって俺を愛してくれるそんな人。そんな彼女に惹かれて、俺は栞を過去にすることが出来た。栞、今も俺はお前を愛してる。だけど、それ以上に彼女が大切で愛おしい」
――あの日誓ったことは、栞を過去に出来るくらい愛おしいと思える人が現れるまで彼女の墓には来ないという俺なりのけじめ。
「なぁ、栞。今もまだ天国で俺を見守ってくれている? だったらさ、もうそんなことはしなくていいよ。俺は今、彼女がいるからもう大丈夫。次は、栞が幸せになる番だよ」
伝えたかった言葉を言い終わった俺は、途中の花屋で買って来た花を供える。彼女の笑顔を思い出させる可憐な花を。
……と、柔らかな風が吹いて俺を包む。そして、あの日のように彼女の声が聴こえた気がした。
『良かった。直哉、彼女と幸せにね』
「! ……ああ、幸せになるよ。じゃあな、栞」
俺はしっかりと頷き、別れを短く告げて愛しい彼女が待っている家に向かって歩き始めた。
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