手紙
栞との出会いから最後までを思い返していたら、まだ真新しい外装のアパートに着いた。ここは数週間前に借りた俺の家で、本来は彼女と最後過ごさたらいいと思って借りたアパート。広さも間取りも日当たりも、値段も結構良い物件で、一目見て気に入った俺はここにしようと決めた。
ジーパンのポケットから鍵を取り出し、玄関に鍵を差して鍵を開け中に入る。そのまま靴を乱雑に脱ぎ捨て、真っ直ぐ進みテレビや生活用品が置かれている部屋に行く。ソファなんて豪華なものはないので、空いているスペースに適当に座り、彼女からの手紙を鞄から出して封を開けた。
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直哉へ
これを手に取って読んでいるってことは、私はもう直哉の傍にいないのかな。いや、きっとそうなんだろうね。
手紙を書こうと思ったのはね、直哉に伝えたいことがあるからなんだ。何を今から伝えたいんだろうって、直哉のことだから身構えてそうだけど、身構える必要なんてないからね。これから綴ることは、私の本音だよ。
直哉と出会ったのは、ずっと治療を頑張っていた私に対しての神様からのご褒美だったって思うの。あの時、あの場所で出会ったのは偶然なんかじゃなくて、きっと必然で出会う運命だったんだろうね。
私が最初で最後に愛した人。それは直哉、あなたただ一人。あまり外へ出たこともなく、世間から浮いているだろう私を大切にして愛してくれた。それがね、凄く嬉しかったの。
直哉と過ごした時間、直哉から貰った数々の思い出、直哉からの真っ直ぐな愛。今それを思い出しただけで、胸があったかくなって、でもね、それと同時に胸が締め付けられるような痛みを覚えるの。
なんで、なんて野暮なことは思わないでね。私は直哉といれるだけで良かったのに、少しだけ欲張りになっちゃった結果だから。
ねぇ、直哉。直哉は幸せでしたか?
生きることのできるタイムリミットがある私と、普通の恋人らしいことが出来ない私と、付き合えて。
告白の時はためらったけれど、私は付き合えて良かったってずっと思ってる。後悔なんてしてないよ。
だけどね、もし直哉が私と付き合ったことに対して後悔しているなら……申し訳ないな。
ごめんね、前置きが長くなっちゃった。じゃあ、最後に伝えたいこと書くね。
私は直哉を愛している。大切なあなたを天国で見守っている。それは忘れないで欲しいな。
だけどお願い。直哉は私によく言ってくれていたよね。俺は栞だけを想って生きるって。そう言ってくれて嬉しかった。でもね、これからの先、私以外の人を好きになって。私以外の人もきちんと愛して。
最初に教えてくれた直哉の理想のように、直哉を愛してくれる人と直哉は一生を過ごして欲しい。
……本当は、いやだよ。直哉を他の人に盗られるのは。だけど、私はあなたがとても素敵な人だって知っているから幸せになって欲しいの。だから、ちゃんと幸せになってね。
栞
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「……っ、なんだよこれ!」
栞、俺も幸せだった。だから、お前と付き合えて幸せなのに後悔なんてするはずねぇよ。しかもさ、何? 他の女を愛してとか……。
手紙の途中から視界はぼやけ、次から次へと涙が溢れて止まらない。静かな部屋に響く、俺の泣き声と嗚咽。手に持っている手紙は、俺の涙で文字が滲み湿っている感触がする。
情けねぇよな、俺。こんなにもみっともなく泣いちゃって……ああ、もうっ。いい加減、涙止まってくれよ!
俺の意思に反して、それから暫くの間もずっと涙は止まらなくて。夜が明けても、次の日の朝が来ても、昼を過ぎても、俺は自分の身体全部の水分が抜けたんじゃないのかと思うほど女々しく泣き続けていた。




