プレゼント
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体調が優れない日々が続き、外へ出かけることも困難になり、病院食も喉に通らなくなり、どんどんどんどん彼女の身体は今までよりも痩せ細る。それを間近で見ている俺や彼女のお母さんは、見ていて痛々しく何度も立場が代われたなら、と叶うはずのない願いを抱いてしまう。
それでも栞は、そんな状態の自分を嘆くことも、運命を呪うことも、俺や彼女のお母さんに弱音や辛いことを吐くこともせず、最後の最後まで笑顔を絶やさなかった。とても強い女性だった。
「栞、調子はどうだ?」
「直哉……いらっしゃい。いつも通り、かな」
最近では起き上がることさえままならなくなって。俺が病室へ訪れるたび、頑張って起きようとするのを説得し、ベッドに寝かせたままで会話を交わす。会話といっても、話すことすら時折辛そうで。
どんどん彼女の容体が悪化している。
今まで病室になかった変な機械に囲まれて、酸素マスクを着用するまでになった。それに伴い、病室は個室へと変わり面会可能な時間も少なくなった。
「そっか。今日は栞が少しでも元気になってほしくて、お土産を持ってきたんだ」
そう言って彼女に見えるようにお土産を差し出す。
「お土産? 何だろう、楽しみ」
期待を込めた言葉を漏らし、少しだけ起き上がりお土産の袋を手に取る。そのまま淡いピンク色の袋を丁寧に開け、中身を取り出す。彼女の喜ぶ姿が見たくて、彼女の心の底から笑う笑顔が見たくて、俺はソレを買ってきた。
「直哉! これっ!!」
中身を取り出してプレゼントが何か確認した途端、栞は頬を上気させ興奮気味に俺の方を見てきた。ただ、それでも声はか細い。
「ん?」
「私が前に欲しいって言ってたものを覚えていてくれていたんだね! すっごく嬉しい」
──そう、俺が買って来たのは彼女がファッション雑誌を見て欲しいと呟いていたニット帽。紫色を基調として、所々可愛らしい花があしらってある。栞にとても似合いそうな帽子だ。
「気に入ってくれた?」
「もちろん。ありがとう、直哉。大切に使うね」
何度も何度もお礼を言って、そこだけ春が訪れたかのようにふんわりと笑う彼女。その姿を見れるだけで、俺は買ってきて良かったと笑みを零す。
早速ニット帽を被り、俺に似合う? と嬉しそう尋ねてくる姿は可愛い。けれど、被る瞬間に悲しげな表情を一瞬だけみせた栞。それを俺は見て見ぬふりをする。正確にいえば、そうすることしか出来なかった。何故なら栞が自慢していた痛みのない綺麗な艶のある黒髪は、日を追うごとに薬の副作用で抜けていき、今ではもう跡形もない。
俺は栞と代わりたい、とどれほど思ってきたか。彼女の苦しみを、辛さを、死への恐怖を、より分かることが出来るならどれだけいいのか。生まれてきてから一度も大きな病にかかったことのない俺は、その思いを分かち合えないことがとてももどかしかしい。




