魔王と勇者の談合~これより聖女奪還作戦を開始する~
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「今聖女は、シュヴァルト王国の国王によって幽閉されているからな。」
魔王が言ったその一言は、勇者に衝撃を与えるには十分だった。
「本気で言ってる?仮にも聖女、勇者の双璧を成す職業...なるほど、そういうことね。」
「ああ、勇者である君が迫害を受けたのと同じ理由から、彼女は産まれた時から虐げられてきた。赤子にして作戦級の力を持ち、十分に聡明な彼女は、国王にとって権力を脅かす不確定要素だ。…それに、彼の国では何やら怪しげな動きも見られるようだ。都合が悪かったんだろうさ、正義感の塊のような存在はな。」
「聞けば聞くほど反吐が出るね、本当に。しかし幽閉状態か、国に喧嘩でも売るつもり?可能だろうけど、それじゃあ僕らの仕業だってことを秘匿するのは難しいよ?」
今回の事件が勇者と魔王による仕業であることを知っているのはごく少数の有識者だけである。それは勇者の抑止力として派遣されていた兵士たちは全滅したこと、またそもそも街に住んでいた人々は全員殺されたことで、外に情報が回らなかったというのが理由だ。
しかし一国を相手に殲滅戦をするとなると、現時点の二人の力、つまり作戦級二人というのは少し戦力として心もとない。聖女一人を救出することは可能だろうが、それには入念な準備が必要であり、また絶対にバレないとは言い難いのである。
「正直、三人作戦級がいれば秘匿は必要ないと思うぞ?」
「そうは言ってもね…最悪王国の精鋭部隊と鉢合わせる可能性もある。100%こちらの思い通りに進むとは思えないな。」
「その慎重さも君の利点だな。じゃあ戦略級二人と作戦級二人ならどう思う?というのが、今回の計画の核だ。私達がこの王国への道中で戦略級となり、その力を持ってして聖女を救う。」
勇者と魔王という職業は、他の特殊職業の中でも一番ランクアップがしやすい職業だ。それは勇者パーティーにおいて勇者が専門技術がないが故に他のメンバーに疎まれることを防ぎ、またそれに拮抗できる力を魔王が得るためというのが通説だ。
「先代勇者も旅立ちの道のりの中で戦略級に覚醒したと聞いているよ。でも…僕らにそれの再現が可能かな?あの時は十分な王族からのバックアップがあったらしいけど。」
「確かに装備の面では先代の足下にも及ばないだろうさ。しかし私達は暗黒なんだ。未知数の職業で、しかも魔王と勇者からの派生職業。何かあると思わないか?」
「確かにそうかもしれないけどさ…ううん、分かった。他ならぬ君の言うことだ。少し試してみよう。前に図書館を訪れたことがある。自分の職業について調べて見たけれど、暗黒勇者なんて記述はなかった。未知の職業において、とっかかりさえあれば習熟率は格段に飛躍するという研究結果が出ていたはずだよ。」
「…それ、いつの話だ?あの状況下で自由な外出が許されていたとは到底思えないんだが。」
「二歳の頃かなぁ」
勇者があそこまでの厳重な警戒を受けていた理由として、その超人的な記憶力と理解力が挙げられる。父親が仕事の際に発動した収納魔法を見様見真似で再現して見せたりと、勇者であることが分かる前から王国から強大な力の持ち主になり得る可能性が高い、危険人物だとマークされてきた。
「どういう記憶力をしているんだ君は…」
「記憶力は良い方なんだ、僕。」
「君、万能型だよな?」
「あー…実はかなり魔力が少ないんだよね、僕。何度か隠れて魔力を使い切っては回復を待つっていう方法で魔力量を増やす訓練をしたからか多少は増えているけど、君を見て分かった。僕は現時点では特殊職業として『特化型』に分類されるんだと思う。単純な身体能力と頭脳に特化して、魔力などは特殊職業にしては少ない、といったところかな。」
「それじゃあ昨日の魔術はどう説明するんだ?あれは明らかに膨大な量の魔力が必要な術式だぞ?」
「空気中に存在する魔力を外付けの魔力タンクとして使っているんだよ。だから魔法が日常的に使われている戦闘地帯とか、技術が発展した街とかなら欠点は補える。ただ、こういう旅人くらいしか通らない、魔力があまり使われない場所では魔術がほとんど使えなくなるんだよねぇ…」
「はぁ?空気中の魔力は使用不可能と学会で結論が出ていたような気がするが…そもそも質が違うとか何とかで。何か術式でも編み出したか?」
「え?普通に使えない?」
「こりゃ無自覚系か…私以外にそのこというなよ?下手したら即討伐隊が組まれる。」
「そりゃめんどくさいね。言わないでおくよ。」
そうこうしているうちに、まずは第一目標地点であった魔王が潜伏していた地にたどり着いた。
「少し汚いかもしれないけれど…ここが私の城さ。くつろいでいってくれ。」
扉を開けられ、リベリオスの目に飛び込んできたのは綺麗に整頓された、しかし一箇所だけ異質な気配を放つ部屋だった。机の周辺だけ、大量の魔術書や書籍、何らかの実験道具などが散乱しているのである。
また、壁の一角には数多の武器が立てかけられ、狩人の家だと言われるとしっくりくるような感じだった。
「どこでこの書籍を?」
「盗賊団をいくつか潰したときに、盗品を手に入れてな。ちょうど良いから並べておいたんだ。後は自分で実験の経過とか理論とかを書いたものがちらほらとあるくらいだと思うぞ。」
「さすがだね、やっぱり。」
にこりと笑顔を浮かべるヴィルの表情を見れば、今この瞬間を楽しんでいることは感じ取れた。しかし同時に、彼女がこれまで独りだった間の孤独の悲しみも、感じ取れた。
「君は、強いね。」
「当たり前だろう?私は魔王なんだからな。それじゃあ始めるぞ。今回考えているのは主に2つの計画だけだ。聖女強奪作戦の概要を説明する。」
魔王の口から語られた聖女強奪作戦なる物は、とても考え尽くされていて、そしてとてもあほらしい、しかしその有効性は確実な、とても曖昧なものだった。
勇者が空気中の魔力を使えるのは、彼の魔力が異質だからです。
だからこそ彼の最大魔力量は低くなってしまうのですが。
ただそれでもそこらへんの一般兵とかよりは断然多いです。大事なのは特殊職業『勇者』であるにも関わらず彼が特化型であることです。
暗黒勇者だから、ということではありません。