混乱の渦中、新たなる火種
暗黒勇者と暗黒魔王。二つの魔の存在は知られぬままというわけではなかった。
しかし醜い人類達は、現状維持を続けるための一手を考え始める。
「ザルック!彼の街の状況は?」
「不明としか言いようがない。ただ血吸い草の群生地になってしまっていることは確かだ。生き残りは絶望的だろうな。」
「そのクラスの災厄など神話時代まで遡らんとないぞ…」
「何でそれを止められなかったんだ!??!?!?」
所変わり、この頃各国の王たちによるリベリオスとヴィルサークが起こした災厄への対策会議が開かれていた。この世界における五大国会議と呼ばれるもので、この会議は年に一回、そして有事のときのみに開かれる外交の場であった。
今会話を交わしているのはアルス王国国王エドワード、ヴィルテゥエル帝国皇帝ザルック、エレットロニカ機国ミカの3人である。帝国と機国は五大国の中でも軍事力がずば抜けており、片方が落ちればこの五大国同盟の均衡はすぐさま崩れるだろうと思われている。
対して王国のエドワード国王は、軍事力はそこまでのものではないが人民からの支持が熱く、また徹底的な非差別主義者であることから階級制度というものがない、世界一幸せな国の王であった。だからこそ争いというものに無縁であり、感情的になることが多い。罵倒もしばしば見られ、同名の他の四国も、あまり良くは思ってはいない。
「…やはりあの国はいらんじゃろ。そろそろあの件、実行に移すべきだと思うが。」
「んふふ、貴方も悪ですねぇ…」
こちらの二人は「諜報」「暗殺」を得意とする者たちが集う国家の王たちである。ヴァイス帝国皇帝ブラン、シュヴァルト王国国王ネグロ。この二国は前々から謀略の噂が絶えないが…今日、その話も成されるのだろうか?
閑話休題。数多の有事を切り抜けてきた首脳たちの会議が、今始まる。
<エドワード視点>
「今回の会議の議長を務める。ザルックだ、よろしく頼む。議題は…わかっているとは思うが、私の国での出来事だ。」
「なぜ勇者は動かなかった?いや…勇者も太刀打ちできなかったのか?」
「その可能性が高いと思われている。近隣の街の分隊長の話だが、明らかに何らかの魔法が使われた痕跡があるそうだ。つまり誰かが抵抗しようとしたということは間違いないだろう。」
「ふうん?」
そこにミカが急に口を挟む。少しにやりと笑っているようなその顔は、もし彼女が美貌を携えていなかったのなら誰が見ても多少の嫌悪感はあるだろう。しかし、常人から見れば妖艶な笑みとしか思えない。ただ、気づいた。
こいつ、何を企んでいる?
「…何だ?」
「もう一つの可能性もあるんじゃない?この中の誰かが攻撃した、っていうのもね。」
「…生産性のないことを言うな。うちに手を出せるのは機国くらいだろう?こいつが手を出す」
「あら、もう一つあるじゃない?」
「くくく…」
ブランの小さな笑い声が響く。…困惑していたのは、この場で一人、俺だけだった。
「アンタじゃないの?『頭お花畑』エドワードさん?」
「な、なぜそんな話に?私がそのようなことをするはずがないだろう!」
急に矛先を向けられ、動揺する。息も整えぬままにつばを撒き散らしながら叫ぶ。
「第一!何を根拠にしてそんな無礼な話をしているんだ!違ったときは覚えていろよ⁉」
「何を言っているんだ?この場のルールは多数決。お前が犯人かどうかは多数決で決めようじゃないか。」
「それが良いのお、そもそもお主、あの一件で信用がガタ落ちしたことは覚えているのじゃろうな?」
「その話は終わっただろうが!」
「信用は減ったらずっと増えないよぉ?」
「議長権限だ。ならば今回の始めの決議は、『アルス王国を除名するか否か』から始めようか。」
なぜこの速さで話が進む?なぜ誰も疑問を抱かない?
それには理由があった。
<ザルック視点>
今回の厄災の原因は、実はもう調査済みだった。ある神官が身を呈して守ったのは一つのカメラ。魔王の侵攻と、勇者の闇堕ちが写された、一枚の写真を携えたカメラだった。確かに彼らは強い。ただ彼らはまだ幼く、その力は国を上げて挑めば拮抗できるはず。そう考えていた。
ならばこの機会は別の目的のために使おう。そう言い出したのは他ならぬミカだった。
アルス王国の行いは目に余る。何をしようとも相手のせい。冒険者からも商人からも一般人からも不満が溢れている。これをお咎めなしというのはいただけない。しかし普通にその議題を話してしまえば、国家間の単なる軋轢であるためこの会議におけるルールでは刑罰が軽く済まされてしまう。
ならば罪を擦り付けてしまおう。あわよくば張本人には貸しを作ることで、国力増強を図ろう。
エドワードが到着するまで、彼らの雑談は二時間ほど続いた。
「四対一、決定だな。これをもってアルス王国は五大国同盟から除名とする。速やかに退場するように。」
待て、待てと叫ぶエドワード。彼が悪いわけではない、彼は優しい、良い男だ。ああ、
運命を恨むんだな。
いつの世だって、正しきは虐げられる運命なのだから。
今日は始業式なので時間がありました。だから一つ書き溜められました。だから放出しました()
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