ゆめのなか まどのそと
「おはよう、かーくん。今日はいい天気だね!」
ぽかぽかとあたたかいお日さまがぼくのふとんにふりそそいでいる。あたたかくてきもちいいけど、すこしだけまぶしい。きのうのよる、カーテンをしめないでねちゃったのかも。
「うーん。おかあさん、カーテンしめて。もうすこしねたいから……」
これでくらくなってねむりやすくなるとおもったのに、へやはぎゃくにあかるくなってしまった。
「おかあさんじゃない! まちがえないで!」
「えーと、おとうさん?」
「そう、わたしがあなたのパパ……じゃないよ!? わたしはココ」
「ココ、ちゃん?」
「あら、わすれちゃったの? わたしに名づけてくれたのはあなたなのに」
ねむるのをあきらめてゆっくりと目をあけたぼくのまえにはねこのぬいぐるみがあった。それはおととし、たんじょう日にもらったものだった。
なんでうごいているの? なんではなせるの? っていろいろきいてみたけど、ココにもよくわかっていないらしい。ココはりゆうがわからなくてもぼくとはなせるならうれしいと言ってくれた。
ココはぼくのふくをおくのほうからひっぱりだすと、それをぼくにわたした。
「ねえ、ココ。どこに行くの?」
「きまっているじゃない!」
ココはまえあしでまどをゆびさして「そとに行こう!」と言った。
ふわり。はるのにおいがした。カーテンは風のうごきに合わせてひらひらとおどっている。ココはまどのそばに立って手まねきをして、「早くきて」と言った。
「むりだよ。とびおりたら、けがしちゃう!」
「だいじょうぶだよ。ほら、足もとを見て」
下をむくと、いつのまにかつばさが生えたくつをはいていた。からだがとてもかるくかんじる。
「せーのっ!」
ココのあいずでまどからそとへでる。
「あれ? いたくない」
「目をあけてみて!」
ココに言われるまま、目をそっとあける。すると、足もとにはまちがひろがっていた。
「ぼく、そらをとんでいるの?」
「うん!」
ココは頷いて言った。
「さあ、そらのたびをはじめよう!」
ぼくとココはそらからまちを見てまわった。まいにち行くがっこうも、たまにおかしをかってもらうスーパーも、全部がちがって見えた。
「まるでとりになったみたい! いつもと同じばしょなのに、まったくちがって見えるよ」
「そうだね。あ、あれを見て! まえにつれて行ってくれたようちえんだよ!」
「ほんとうだ! あっちには長いすべり台のこうえんがある!」
「うん。……こうえんにおりてあそぶ?」
ぼくはまちを見るのにひっしになって、ココのようすを見ていなかった。
「ココはすべらないの?」
ぼくがすべり台を二かいすべっても、ココは一かいもすべらなかった。
「にんげんようの大きさだから、わたしには大きくてうまくすべれないから……。それに、おしりもよごれちゃうから」
「ええー。ぼく、よごれちゃうのは気にしてなかった! ど、どうしよう……」
「だ、だいじょうぶだよ! たぶん……」
ココはおちこむぼくのあたまをなでて、はげましてくれた。そらもぼくのこころと同じようにくらくなっていた。
そのとき、ぼくはとってもいいかんがえをおもいついた。でも、「雨がふりそうだよ。やねのあるばしょに行こう!」とココに言われて、そのままいどうしてしまって、けっきょく言えなかった。
「ここで、おわかれみたい」
「ココ?」
ザアザアとふる雨を見ていると、ココがかなしそうに言った。
「わたしのこと、ずっとずっとおぼえていてね」
ココの体がすけていた。ココを見ているのに、そのおくのけしきが見える。
「ぜったいに、わすれないでね。ぜったいに、だよ」
「うん。わすれるわけないよ。だってココはたいせつな……!」
「そっか、よかった」
ココはやさしくわらった。
「まってよ! もっといっしょにあそぼうよ! ぼく、おもいついたんだ。ココをかかえてすべればいっしょにたのしめるって!」
ぼくのおもいがとどかなかったのか、ココはかんぜんにきえてしまって、ココがいたところにはひかりがきらきらとのこっていた。それがココが生きたあかしのようにおもえて、ぼくはそのひかりをぎゅっとだきしめた。
気がつくとぼくはふとんをだきしめていた。まどからのぞくそらは、くも一つなくて、いじわるなほどいい天気だ。
「ココは!?」
ふとんをおしのけて、ココをいつもおいているたなをかくにんした。
「よかった。ココはきえてない。きっとぼくがおぼえているかぎり、ココはいっしょにいてくれる」
ぼくはココをだき上げてまどのそばに行った。カーテンをあけるといつもどおりのこうけいがひろがっていた。ぼくとココが見たけしきそのままだ。
コンコン。ぼくのへやのドアをノックする音だ。おかあさんがぼくをおこしにきたんだ。
「おはよう、おかあさん」
「おはよう、和人。今日はねぼうしなかったのね。えらいわ」
おかあさんにやさしくなでられて、にこにこがそとにもれだしてしまった。
「うん。いい天気だから。……あのこうえんに行きたくて」
ぼくはまどのそとをゆびさして言った。