第四十三章 トーマスという名もなき男の英雄譚
第四十三章 トーマスという名もなき男の英雄譚
彼の名前は、トーマスそれほど特質した能力を持っていたわけでもなく、どこにでもいる平凡な少年時代だった。
少年期のトーマス「僕は、きっと大きくなったら、勇者になってこの世界を救うんだ!」
トーマス母「はいはい。」
そんな夢を持ったトーマスだった。青年期になり、夢を抱いて上京してきた。が、想像していた冒険者とは全く違う世界だった。
青年期のトーマス「こんな仕事ばっかりしているが、いつかはきっと俺は、勇者になって冒険するんだ!!!」
そんなことを考えていた。
とある日、町外れに、少数のモンスターに苦しんでいるという村を助けるという依頼を受けたときのことだった。
トーマスの妻となる女「ねぇねぇ、あなた強いの?」
トーマス「俺は、新米冒険者だが、きっといつかは、勇者になって世界を救うんだ。」
などと言っていた。
しかし、彼は、その冒険者への依頼で痛感することになった。何とか、モンスターは、全て撃退することができた。だが、泥臭かった。持てるありとあらゆる武器を使い。ありとあらゆる農場の道具を使い。逃げ・戦い・そして逃げ・戦った。そして、死にかけた。
その死にかけたトーマスを介抱したのが、トーマスの今の妻となったジェーンである。
その時トーマスは痛感した・・・
トーマス「俺は、勇者にはなれない。なれる器ではない。力がない。力が足りない。」
しかし、トーマスは不幸ではなかった。家に帰れば妻と子供が待っている。稼ぎは、Gランクばかりをこなしていたので、要領はわかっている。悪くもないし良くもない。そんな、ごく普通の生活をしていた。だが、どっかに自分の中で心残りがあるというような人生だった。
そんな時・・・やつが冒険者ギルドに現れた。英雄と呼ばれている松井塾長だった。そして、奴はこういった。
松井塾長「トーマスさん俺の師匠になってくれ」
トーマスは、その時思った。こいつは俺のことをバカにしているのか?と俺のことを腹で笑っているのを見たいから、俺を師匠にしてくれと言ったのだと。だが、彼の目はまっすぐな目でこっちを見ていた。そして、教えを請いたいといった。トーマスはついうなずいてしまった。
そうして、トーマスは松井塾長達の師匠となったわけではあるが、彼はここで大きな発見をすることになる。彼らは、おとぎ話に出てくるような英雄ではない。勇者でもない。才能という意味においては、トーマスよりもなかった。特に、松井塾長はひどかった。下水道では転ぶ。田んぼの中ではコケる。煙突掃除をさせれば落っこちる。おおよそ勇者というには程遠い状況である。メラしか使えない魔法使い・足がすくんで近距離では戦えない戦士・おおよそ何を考えているのかわからない白魔道士。はっきり言ってポンコツメンバーである。
トーマスはこの時わかった。このメンバーは決して、英雄と呼ばれる器でもなければ勇者と呼ばれるような器などではないということ。世間の評価ほどの能力も才能も存在していないということをわかっていた。
ただ、一つ若かりし頃のトーマスと違ったのは、松井塾長があきらめが悪いということであった。毎日・毎日失敗しては失敗をし失敗しては落ち込んで、落ち込んでいるのに、翌日になれば、
松井塾長「今日は俺イケる気がする」と言うのである。
トーマスは意味がわからなかった。松井塾長という存在そのものが意味不明だった。だが、ある日を境に彼の評価は一変する。松井塾長が、煙突掃除をやらしても、引っ越し作業をさせても、下水道の掃除をしてもこなすのである。それもトーマスよりもうまく。トーマスは聞いてみた、最近、うまくいっているがどうしてだ?
松井塾長「何って?トーマスさんのおっしゃったことを復習して同じ失敗を2度しないということを注意して、毎回仕事しているだけですよ?」
トーマスは、ビックリした。あたり前のことだった。何も無い。ただ、ただ、アタリマエのことを当たりまえにやっていただけだった。
それから、少しトーマスはやる気を出した。松井塾長達の手前、やらないわけにはいかなかったのかもしれない。やらずにはおれなかったのかもしれない。本当は自分でも気がついていたのかもしれない。だが、トーマスは、休日も働いていた。妻からは、あなた最近楽しそうねと言われた。事実、しんどかったが楽しかった。
また、ある日には、昔の知り合いにも出会った。Gランク寮の班長と副班長だ。顔つきが変わっていた。彼らは、前回の昇級審査で、Fランクに上がるところだった。ちょうど私が、Eランクに上がったタイミングだった。彼らは、昇級には興味がないと言っていた。なぜか聞いてみた。
Gランク寮の班長「何ていうんですかね・・・。松井さんと一緒にいるとこーう意味もなくがんばりたくなるんですよ。笑」
Gランク寮の副班長「そうそう。どっかで思ってるんですけど、あんなにがんばってどうすんの?何をバカな。がんばってもいいこと無いのにって思うんですけど・・・彼を見てるとほらねー。笑」
Gランク寮の班長「俺たちにもできるんじゃないかって思うんだよね。笑」
Gランク寮の副班長「そうそう。毎回、仕事で失敗したときの話を嬉しそうにしてボロボロになって帰ってきて、こっちが冷やかしたら褒められたと勘違いして、喜ぶ。はっきり言ってバカですよ。笑」
Gランク寮の班長「ちげーねーな。でも、それが人を惹きつけるんだろうな。」
トーマスは、何となくわかりかけてきていた。諦めないこと・努力すること・自分を信じること。
そうして、今日にいたる。
松井塾長「本当の英雄ってそういうことなんだと思う。どんな仕事やっててもいいけどな、誰かがどう思うかじゃねー自分が自分を英雄と呼べるかどうかだけだ。」
トーマス「(そうだった俺は、俺のことを英雄と呼べてなかった。呼べなきゃいけない。呼べるようになればいい。実直に誰もができる冒険を、誰よりもしっかりやる。誰にも評価されてないかもしれないうまくいかないかもしれない。でも、それが俺の冒険だ!)」
トーマス「さーて、今日も朝からバリバリ働きますか!!!」
松井塾長「うん?あれ?ジールなんかトーマスさんいつもよりも気合入ってねぇーか?」
ジール「そうですね。なんかやたら気合入ってますね。」
デニスくん「さすがトーマス師匠その意気ですよ!」
バットくん「松井病が伝染した・・・」
トーマスという名もなき男の名もなき冒険。それは、決して誰からも評価されないのかもしれない。そして、誰にも知られないのかもしれない。そして、それが果たして意味があったのかどうかもわからないが、この日、トーマスという男にとっては、最高の1日だったということだけは確かである。




