chapter 7 北の国
席に戻るとリリアの視線をやけに痛く感じるも、平然とスルトは椅子に腰を下ろした。
「どーこ、行ってたのよ?」
「何も変わっちゃいないさ。ただオレに熱視線を浴びせてくる婆さんがいたもんでな」
「それって、本当にお婆さんなんでしょうね? お嬢さんの間違いじゃなく?」
「どっちにしたって、オレには関係のないこった」
「スルトにはなくても、私にはあるのよ」
「なんでお前にあるんだよ」
「………………。あるったらあるの! 乙女を追いやって異性のお尻を追いかけてたら誰だって関係あるわよ」
「異性、異性ねぇ。一人でも大変だってのに今は二人もいるのにな」
「何か言った?」
「いいや、別に。それよりも頼んだのはどうなった?」
「あぁ、それがね。何でも大変なことになってるわよ。
ちょっと複雑だから上手く説明出来ないから簡単に話すわね」
「分かりゃそれでいいさ」
「ここ、ウェセッシア王国は三隣国と関係が良くないそうよ。何でも大陸の貿易を独り占めしてるのが問題らしくてね。それでも折れる気がないからずっと小競り合いが続いてるんだけど、その三隣国がウェセッシアに戦力を向けてるもんだから、さらに周りの三隣国がそれぞれの国に戦争を仕掛けて領土を奪おうとしてるんだそうよ」
「それによって均衡が保たれてるってことか。
北のことも何か言ってたか?」
「うん、北の小国群は対立してるところと同盟を結んでるところがあるらしいけど、蛮族がそこそこにいるらしく、それによってギリギリ戦争が起きてないんだって。
それと、孤立してる国があるらしいけど、何やら怪しげな噂が立ってるんだとか」
「怪しげな噂?」
「魔者を呼び出そうとしてるとか邪神を崇拝してるとかどうとか、あくまで噂だとは言ってたけどね」
「北も南も均衡が崩れた瞬間ってやつだな」
「一つでも戦争になったら島全体になるんじゃないかって言ってたわよ」
「一王国民ですらそんな予想が立てられるんなら、よほど危ない状況ってワケだな。
……よし、決まったぞ」
「何が決まったって?」
「今後の行く先さ」
「どこに行く気なのよ」
「その噂の国さ」
「そんなことっ! わざわざ危険そうなところに首を突っ込むなんて」
「魔者を呼び出すにせよ、邪神を崇拝してるにせよ噂を確かめてやりたいし、本当ならそいつを利用させてもらうつもりだからな」
「利用って。利用するにしたって、それが戦争の引き金になるかもなのよ? 分かってる?」
「そんなことは知ったこっちゃねぇな。
決して平和なワケじゃねぇのなら、戦争になったって一緒さ。
話し合いも出来ない国が集まってんだ、そこまで気にかけてやる性分は持ち合わせてねぇよ」
「私は反対だからねっ!」
「お前が反対しようが行くことに変わりねぇよ」
「そんな危険を冒してまで行く理由って何よ」
「そいつは知らない方がイイ。知ったところで反対するだろうしな」
「私が反対するの分かってて連れて行く気なの!?」
「連れて行くんじゃねぇだろ? 付いてくんだろ?」
「そ、それは……そうだけど」
「だったら何も言わず付いてくるこったな」
「い、言わない訳にはいかないでしょ!? 命がかかってるんだから私も……スルトも」
「オレの……命なんてな……」
スルトはうつむき加減になり小さな声で呟くと、すぐにリリアに向けて鋭い視線を送った。
「付いてくるならお前の命は守る約束だ。だが、オレのすべき道はオレが決める、それが命をかけることになってもな」
「うっ、分かったわよ。
スルトが守ってくれるって言うんだから私は行くのよ。私が行きたいから行くんじゃないんだからね!」
「あぁ、勝手にしな」
話は終わりだと言わんばかりにスルトは乱暴に席を離れると、それを慌ててリリアは追いかける形になった。
借りた宿の一室に入ると、張り出た壁に縛り付けられたサキは立ったまま静かな寝息を立てていた。
「どうすんのこれ?」
「どうもしねぇよ、朝までこのままにしとく」
「この異様な部屋の中で寝ろっての?」
「ここにはオレが寝るから、お前はあっちで寝な」
「そういう問題じゃないでしょ、人が立ったまま寝てる近くで何もなかったかのように寝ろってのがおかしいっていうの」
「野宿とあっち、どっちがイイ?」
「………………あっち」
「そういうこった。奇声が聞こえいつ襲われるか分からない野宿よか、こっちの方が断然いいだろ?
居ないもんだと思えば快適そのものさ」
「乙女はそうはいかないの!
でも、まぁ野宿よりは良いから我慢するけど」
そんなやり取りが湯浴びの前にも起こり一悶着はあったが、リリアが仕方なしに説得されると夜風を浴びながら眠りに着いた。




