chapter 6 魂の記憶
燃え盛る街並み。
至るところで火の手があがり、悲鳴や叫び、怒号と共に崩れ行く建物の衝撃が辺りを包み、まさに地獄絵図と化している。
そして、その光景を城の最上階である王の間の玉座で足組をしながら退屈そうに眺める男がいる。王の間にはいくつもの兵士の死体が転がり、彼の足元には冠を付けた頭が転がっていた。
「つまらぬ、実につまらぬ」
「御意に」
彼の傍らには外套を目深に被り長い杖を持つ浅黒い肌の男と漆黒の鎧を着こんだ赤目の女性が控えている。
「人間なぞ我らより下等な生物であろうに、抵抗などとくだらぬことを考えた故でございます」
「生きるも死ぬも、強者が決めること。我に従えぬ者など価値は、ない」
組んだ足を解くと足元の頭を壁際へと無造作に追いやり目を細めた。
「だが、人間界は素晴らしい。餌が絶えず生きておる。
ようやく繋がった人間界を手放すには惜しいものよ」
「左様で」
「今回の事で人間界には数人の王が来ていると思われます。この界を魔界にするのは容易いことかと」
「ふん。奴らとて王たる力を備えておる。好きにやりおるだろうて。
我らは我らで楽しむことよ。が、所詮は人間。つまらぬ生き物よ」
「では、我が軍団をもってして新たな玩具を手にしてきましょう」
「ふむ、よかろう。遊んで来るがいい」
彼は赤目の女性に言ったものの、まるで期待の籠っていない返事を返した。
と、そこでスルトは自身の意識がはっきりとし目を開けた。
「何だ、今のは」
「何を見たかは知らぬて。お主の記憶じゃて、わしには分からぬ。だが、容易に想像がつくがな」
「オレの? オレはこんなことを体験していないが? それに、あの場にオレはいなかった」
「それはそうじゃ。一言で言うなれば魂の記憶じゃからな」
「魂? 生き返ったことと関係があるのか」
「そうじゃ。生き返すなど摂理からはみ出した行為じゃ、単純なことではなかろう」
「母さんが昔言っていたな。『左目が命と引き換えになった』と」
「ふぁっふぁっふぁっ。左目に魔石を埋め込んだ、その魔力で生き返ったと?」
「オレはそうだと思っているが?」
「魔力の籠った石、魔石。だがな、所詮は石じゃて。人を生き返らせるだけの膨大な魔力が石一つでどうにかなるものじゃなかろうて」
「だが、それでオレは――」
「こんな話は知っておるかね?
その昔、ニューレイシア大陸には複数の魔人王が召還され、その魔人王の中にはとても人の手に負えぬ者がいてな、その中の一体の魔人王は強大な魔力と不死と思われる力をもってして各地を火の海に変えていったのじゃ。
しかし、その魔人王を討伐せんと考えた人らは封印という手を用いて挑み、手足胴頭を一つずつ封印し彼の王を六つに分けることに成功したのじゃな。
そして、封印された各々はあらゆる場所に隠されたとされる」
「魔人王と英雄の物語、ではないのか?」
「よく勉強しておるな。しかし、その魔人王とは別じゃて。その五人の英雄は見事に打ち破っておる」
「その魔人王とは別にいた強力な魔人王ということか」
「物語の魔人王は知略にも長けた絶対なる支配者で、人間界を第二の魔界とすべく動いておった。だが、先の魔人王は人間を家畜と見なし、もて遊んでいるただの殺戮者でな」
「なるほどな。たが、それがどうしたと?」
「その封印された一つの部位が掘り起こされた、と言えば話が繋がるかえ?」
「………………。おい、まさか…………」
片手をテーブルに付き立ち上がるとお婆さんを見下ろした。
「それで答えは分かったと思うが、何故わしが知っていると思うかえ?」
「……っ! 貴様!!」
全てを理解したスルトはお婆さんの胸ぐらを掴むとそのまま持ち上げ、鋭い目付きで歯を食いしばった。
「ぐぐっ、こ、これは贖罪よ。死を持ってしか償うことが出来ぬて」
「……ちぃ!」
お婆さんを投げ捨てるように椅子に戻すと、スルトもムスッとした表情のまま椅子に戻った。
「魔人王の一部が何故オレの身体にあるのかは、何故オレなのかは今はいい。だが、貴様の思うようにされていたことは許さん。だから、貴様も殺さない、生きて一生オレにしたことを後悔させる」
「何故じゃ! 何故殺さぬ! 何故聞かぬ!」
「人の生を手のひらの上で遊ぶなど、魔人と同じよ。だが所詮は人。後悔の念があるなら生き絶えるまで後悔するがいい。
それに、これからオレがすることは魔人王と同じこと、身体に有ろうが無かろうが同じことよ」
それだけ言い残しスルトは席を立った。
怒りと疑問を残したままだったが、先ほどの幻影のような記憶が頭の中から離れず、考えが上手く纏まらなくなっていた。
にわかには信じがたかったスルトだが、元のテーブルにはリリアが戻っていたことで現実と向き合えたのだった。




