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英雄が世界を壊す~world regeneration~  作者: 七海玲也
第一章 少女の命と秘めた力
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chapter 5 上陸

 グレンリテル島。

 縦長に伸びたこの島は、七つの中王国(ちゅうおうこく)と八つの小国群(しょうこくぐん)とが南北に分かれ、その七つの王国の一つウェセッシア王国が大陸と唯一の貿易を行い、勢力の拡大を目論んでいた。

 その他の国々も同様に領地を広げようと同盟を結んだりと策を講じてはいるものの、未だ勢力図は拮抗しているのが現状であった。


 そのウェセッシア王国へ降り立ったスルト達はそのまま北を目指すべく、すぐに王国を出るべく足を運んでいる。


「どこへ向かうの?」


 リリアの疑問はスルトにとって難しいものだった。


「北へ行く」


「北に? どこの国に?」


「北の小国群のどれかだ」


「決まってないの?」


「ああ、決まってはいない。どの国がどのように動いているのか知らないしな」


「分かっているのは北の小国群ってだけなのね」


「あぁ、そのつもりだ。ここからは細かい予定なんざ無いからな」


「だったらゆっくりしていかない? 急いでもないんでしょ?」


「ん~急いじゃないが……良いだろう、王都から離れた街でなら休んでも。この島の現状も知りたいしな」


「そうでなきゃ! ここのとこ休んだ気がしてないのよね。次はあそこ次はあそこってばっかりでさ」


「旅をしてるんだ、当たり前だと思うがな」


「もうちょっとのんびりした旅でも良いじゃないってことなの」


 少しゆっくり出来ると聞いたリリアの声は幾分弾んでいたが、サキを連れている分あまり街に長居することは出来ないとスルトは感じていた。


「のんびりは出来ないが、この国の外れの街で一日ゆっくりしよう。それで良いか?」


「仕方ないわねぇ、そこまで言うなら」


「はいはい、仰せのままに」


 半分呆れ顔のスルトは地図を眺め向かうべく街を見定めると、北東の街道に足を向ける。王都と港街から一番離れている街で、国境にはほど近くうってつけの街だと感じたからだ。


 その夜、馬車で街まで運んでもらうと《霧の宿》と看板の掲げている酒場兼宿屋でくつろいぐ事となった。


「サキはどうしているの?」


「部屋に置いて来たさ」


「ねぇ、それで大丈夫なの?」


 急に小声で顔を近づけるリリアに酒を一口だけ口にすると「心配いらねぇよ」とだけ応えまた酒を口に運んだ。


「心配いらないっていったって何しでかすか分からないじゃない」


「大丈夫だってぇの。壁に縛り付けてきたからな」


「は? それで?」


「悶えてたよ」


「バカなの彼女?」


「よく分かんね。我慢させられるのもまた良いとか、オレには分からない世界さ」


「私にも分からないわよ」


「どのみち演技じゃ無さそうだったんだから大丈夫だろって」


「そ、それなら良いわよ別に」


 リリアは戸惑いつつそっぽを向くもスルトは意に介さず食事と酒を交互に浴びている。


「あぁ~、そうだ、リリア。店主にでもこの辺りの情勢を聞いてきてくれないか?」


「ん? 私が? なんで?」


「オレでも良いんだがな、女子供の方が大人は素直に話してくれるだろうってな」


「別にそこまで緊迫してるような感じじゃないんだからスルトでも平気だと思うけど……良いわ、聞いてきてあげる」


 リリアは一息吐くとテーブルを掻き分け店主の元へ赴いた。それを見届けたスルトの目付きは一転し、据えられた目で席を立つと賑やかな店内の奥へ進み、一人静かに座る老婆のテーブルへ片手を付いた。


「なぁ、婆さん。さっきからこっちを(うかが)っているようだが?」


「ほぅ、わたしがかえ?」


「あぁ、あんただよ。片目を塞いでいても分かるほどに熱心な視線を感じたよ」


「やはりか。やっと出逢えたのぉ、若いの」


「ただの物珍しさで見ていたようじゃなさそうだな」


 目の前にいるのが老婆であってもスルトは気を許すことはせず、手のひらを向けながら言い放った。


「即術の準備とはな、それほどまでの心得があるか。とは言えな、殺気がないことも感じ取れたなら良かったものの」


「はんっ! 自分の力量くらいはわきまえてあるからな、油断はしないさ」


「それならば今ここで消し炭にでもするかえ? ふぁっふぁっふぁっ」


「ちぃ、何か話しでもあるってことか?」


 下ろした手を椅子の背に乗せながら、いかにも怪しい老婆の動向を探る。


「まぁ座りなされ。わたしが長い(とき)を待っていたのだからな」


「オレを待っていただと? 何故オレだと?」


「質問の多さはまだまだ若いことよの。座ったら話そうかえ」


 納得のいかない表情でスルトは腰掛ける。敵対するわけでも無さそうなのに待っていただの、老婆の言葉の端々に不気味さが残っていた。


「わたしはお主に伝えることがあってな。それで待っていたのじゃよ」


「答えになっていないな」


「ならばこれを手に目を閉じなされ」


 差し出された小さな石の欠片。それは輝きを失った宝石のようだが、見る者が見ると魔石だと分かる代物であった。


「素直に信じろと?」


「何もせん。と言えば嘘にはなるが、この石がお主の魂に囁きかける。

 何故死んだのか、何故魔術が使えるのか、な」


 老婆の言葉に驚いたスルトは立ち上がり、またも手のひらを向け睨み付けていた。


「お主の素性は知っている。その答えを知りたければこれを握ることじゃて」


 全く動じることなく石を勧める老婆とスルトは少しの間見つめ合うことになった。


「良いだろう。だが、その後には全て聞かせてもらうぞ」


 瞳の鋭さを保ったまま席に付き直すとゆっくり手を差し出す。老婆は手のひらの中心に石を置くとスルトの手を握らせた。


「内に秘めたる宿りし記憶。()の力は()の力。今放たれる想いは刻を超え忘却より這い()づらん……」


 老婆は魔言(マジックワード)を二度詠唱すると石は微かに輝き、スルトの腕を伝わり胸の中心でうっすら輝き留まった。

 すると、目を瞑っているはずのスルトは夢とも現実とも取れる不思議な光景を目の当たりにすることになった。


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