chapter 4 着付け
港街ル・アノール。
フレンチェス王国の王都パアルから程近く、美術にも精通し噴水などが整備されている綺麗な街。グレンリテル島へ渡るのに旅人にとっては欠かせない街ではあるが、フレンチェス王国にとっても貿易にとって欠かせない街だけあって、それなりに兵士の数も多く警備自体も厳戒であった。
「おい、サキ。絶対フードは取るんじゃないぞ」
「は、はい。決して人間にはバレないように致します」
「ねぇ、こんな布っ切れだけで大丈夫なの? 太股から真っ黒な革のロングブーツさらけ出して、何か隠してるとしか思えないほど怪しいんだけど」
「ああん? 仕方ないだろ? ここまで真っ直ぐ来ちまったんだ、服なんざ見立てること出来なかったろうに」
「だから、すぐに仕立て屋に行くの。言わないと港に直行だったでしょ!」
「怪しかろうが船に乗れりゃ良いだろうが」
「ぜーーーったいに船になんか乗れないわよ。その前に顔を見られて終わりってこと」
小さなことに拘らないスルトに注意するのはリリアにとっていつものことで、決していがみ合っている訳ではなかった。
「ーー分かったよ。行きゃ良いんだろ。
……仕立て屋仕立て屋……ああ、あそこなんてどうだ?」
街並みをくるりと見回したスルトの目に一つの店が目に入った。ガラス越しに飾られたいくつかのドレスはどれも見事に飾られ気品に満ち溢れている。
「あんな店に行ってどうするのよ」
「……こいつを娼婦ってことにしてだな、オレが王城へ呼ばれたんで連れていく為に服を仕立てて欲しい、ってのはどうだ?」
「それで大丈夫なの? 色んな意味で心配なんだけど」
「まぁ、なるようになるさ」
店の扉を開けると装飾品なども置かれ、場違い感が拭えないリリアと違いスルトは店主の元へ一直線で向かった。
「こいつに服を仕立てて欲しい。外に飾ってある感じで良い」
「旅の方かい? あれで良いならサイズさえ合えば直ぐにでも出来ますよ」
軽快な男の店主は服を取りに行くとサキの背中にあてがってサイズを計り出した。
「少し外套を外して頂けると助かるのですが……」
「ちょっとワケ有りなんで顔は隠したままでいいか?」
「結構ですとも。サイズだけなのでね……。
ああ、ワケ有り……ね」
フードを被ったまま外套をずらすと黒革のボンテージが顕になり、それを見た店主はワケ有りの意味を理解したと思われたのだが。
「サイズはこのままで良さそうなので実際に着て貰って、良ければそのままお持ち下さっても良いですよ」
「だそうだ。あっちで着てみな」
「はい、少しお待ち下さい」
「それと店主、その服に合う外套もあれば助かるんだが」
「そう……ですね。
……これなんかいかがでしょう、フードも有りますし色合いもお似合いかと」
「……少し派手なようにも思うが……まぁこれで良い」
試着をしているサキへ外套も渡すと店主と値段の交渉に移った。
「金額はこの程度でいかがでしょう?」
「少し高い気もするが?」
「一般的な仕立て屋ではないのでこれくらいは頂かないと。それに口止め料も少し含まれているので」
「口止め?」
「そういうご趣味なのは理解致しましたので、口外致したら旅にも影響が出るやもと」
「どういう趣味だぁ! ったくよ、何を想像してんだか知らないが口止めなんて必要ねぇよ」
「そういうご趣味ではない!? これは失礼致しました。
では口止め料を引きましてこれだけ頂けたら」
提示された金額は半額になりスルトはバカらしさから溜め息を吐くと金貨を無造作にカウンターに並べた。そうしているとサキも着替えが終わり、スルトの前に貴婦人のような出で立ちで出てくる。
「あの、これで宜しいのですか?」
「ああ、完璧だ」
「なーにが『完璧だ』よ。店主に変な誤解を与えちゃってさ」
「うるせぇよ、船に乗れりゃ問題ねぇだろ」
なんだかんだ言い争いをしながら店を後にし港を目指すも、街行く人々の視線はサキに注がれてスルトもあまり良い気がしなかった。
「なんだって皆見てくるんだ?」
「そりゃそうでしょうに。胸の谷間が諸に出てる煌びやかなドレスを着てるんだから誰だって振り返るでしょ」
「そんなもんか?」
「そんなもんよ」
多少世間とはズレているスルトのことをリリアは慣れていたので、締めの一言でスルトを納得させると人の目を掻い潜り船着き場へ急いだ。
「あぁん? どれなら乗れんだ?」
船着き場はスルトの予想を越えた数の船が並び、沢山の人が行き交っている。
「スルト達はここにいて。私が聞いてくるから」
スルトとサキがいるとまた面倒に巻き込まれるかと思ったリリアは、それだけ言い残すと一番近くにいた警備兵の元へ向かった。
「ねぇねぇ、どの船ならグレンリテル島へ行けるの?」
「ん? 一番向こうから3隻なら人も運んでいるが。
お嬢ちゃん一人なのか?」
「いえいえ、保護者がちゃんといるから大丈夫よ」
「まあ、それなら良いが。
今、グレンリテルは情勢が不安定だからな、気をつけた方が良い」
「ありがとう、伝えておくわ」
リリアはスルト達の元へ戻ると教えてもらったことを話し、一番混雑している手前の船の前に行った。
「ここなら怪しまれないだろ。ほらリリア、手を繋ぐぞ」
「は? なんで?」
「なんでって、リリアとサキも手を繋ぐ。これで家族みたいには見えるだろう?」
「イヤよ! なんでスルトと手を繋ぐのよ。冗談じゃない。
それに魔人とーー」
魔人の言葉が出た瞬間、スルトはリリアの口を一瞬で塞いだ。
「ここでそれを言うな」
「んぐんぐんぐーーぷはっ! なにしてくれてんのよ!
全く……分かったから、ほらっ」
リリアはそっぽを向きながら両手を差し出し二人に手を繋ぐよう求めるも、表情はまんざらでもなく少し恥ずかしさを残していた。




